ストブリでのヴェルレエヌの感情描写について

※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です。
小説STORM BRINGERのネタバレを含みます。

ストブリにおいて怒りしか抱かない中也とは対照的に、ヴェルレエヌは人間の持つ基本的な8つの感情を駆けめぐる。
だが彼はそれを表情では表現しない。目と声だけで感情を表現する。時折、微笑みを混ぜながら。

まずは人間の基本的感情と言われる8大感情をおさらい。
①喜び ②信頼 ③恐れ ④驚き ⑤悲しみ ⑥憎しみ ⑦怒り ⑧警戒

【気づいた点】

■ヴェルレエヌの感情描写の中で、③と④は微々たる表現しかないが、それ以外の感情は全てはっきりと描かれている。
■単なる感情描写ではなく詩的に表現される感情描写が多い。それがヴェルレエヌの美しさの所以でもある。
■感情は目線と声で伝えている。時折、微笑みを混ぜる。
■一人の相手に対して感情が複数描かれる。
■ヴェルレエヌの感情の豊富さは、おそらく普通の人間よりも多い。たぶん意識的に多く描かれている。


【ランボオに対する感情描写】

ランボオに対する感情描写だけ、他の人に対するものとはっきり異なる。
ランボオに対しては一貫して「拒絶」の感情しか描かれなかった。
拒絶、敵対、警戒。あの感情豊かなヴェルレエヌが明確な感情を抱かない程、ランボオに対しては心を固く閉ざしていた。
だけど、最後の最後で「今ようやく悲しい」と描写される。
ヴェルレエヌはまさにこの時「ようやく」初めてランボオに対して、明らかな感情を抱く。
なんとも切ない仕掛けが隠されていた。

「お前は人間だ」と言うランボオの言葉に苦しめられたヴェルレエヌ。「自分を利用しようとしているだけ」だと思い、ランボオからの愛情を「支配欲」と捉えていたと思われる。
同じ苦しみを抱える人にしか自分のことは理解できるはずがないのに、理解できるふりをしたランボオが許せなかった。だが最後に命を捧げられてようやく相棒の純粋な想いに気がついた。

失ってからでは確かに遅いのかもしれない。だけどきっとランボオはヴェルレエヌからの見返りなんて求めていなかったのではないか。
「無名のまま死ぬくらいなら誰かのために命を捧げたい」という想いから生まれた愛情であり、ランボオは自分自身を救うためにヴェルレエヌに一生を捧げたのだろう。

次の嵐が来たときに、ヴェルレエヌは再び感情豊かな姿を見せてくれるのか、はたまた一番大切なものを失ったために哀愁が彼を支配しているのか。
兄の再登場のときを心待ちにしたい。

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