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異能の継承と金属について(お題箱から)

※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です。
※お題箱に頂いたお題への返信です。

頂いたお題はこちら:

ものあしさん、こんにちは。
先日お題箱に投書したものに返信いただけて嬉しく思います。
ところで、odsk不在論に関する返信の中で「異能の継承は同姓同名でなければいけないという制約」という記述がありましたが、個人的にそれは違うと思い再び投書させていただきます。
(辻村親子に関して、辻村娘→辻村ちゃん 辻村母→ママ と表記させていただきます)

そもそも原作内で異能継承に関してわかる事は
「鏡花ちゃんは携帯電話を媒介してお母さんから異能を継承した」
「辻村ちゃんは同姓同名の母から異能を継承された」
「鏡花ちゃんのお母さんに異能継承指導をしたのはママである」
この3点です。

そもそも異能継承とはどんなモノなのか。
ヒト→ヒトの継承をイメージしているかもしれませんが、実際はヒト→モノ→ヒトの順に継承しているのではないでしょうか?
実際、最近本編でモノに異能をこめることは可能と記述がありましたから。

鏡花ちゃんは携帯電話を「媒体」にお母さんから異能を継承しようとして不完全になってしまいました。辻村親子は異能継承ができているようですが「媒体」の描写がありません。私はこの親子が媒体にしたものこそ「名前」だと踏んでおります。
そもそも媒体の条件とは何か、と問われればそれは「異能者と異能継承者が長期間共有あるいは所持しているモノ」であると考えております。
辻村ちゃんは生まれた時からお母さんと同じ名前を共有していましたから継承がうまく行きました。
一方鏡花ちゃんが携帯電話を手にしたのはお母さんが殺される数日前。鏡花ちゃんが携帯電話を所有してわずか数日であれば異能継承が不完全なのも納得できます。

あれモノからヒトへの異能継承はまだできないんじゃないっけ?
その通りです。けどこの2組は「親子」という共通点があります。
異能継承に必要なものは「媒介」だけではなく「遺伝子」もあるのではないのでしょうか。

異能者は時間をかけて「媒体」に異能をこめる事で己から異能を剥がし、異能継承者が「媒体」を長期間所持する事で継承者に異能を馴染ませる。

異能継承の真のプロセスはこれだと考えております。

因みに立原くんも、お兄さんが正の字プレートに込めた異能を継承した可能性もあるなと踏んでおります。
兄弟も遺伝子は近いので可能でしょう。

泉親子と辻村親子、2組も「親子」の異能継承を行う必要はあったのでしょうか?
いやサンプルが多い方がいいのは確かです。
でも辻村親子が「同姓同名」の必要はあったのか?生まれた時から何かを持たせればよかったのではないか?そう思ってしまいます。
そこで思い出すのが外伝の記述です。
『死ぬ前の数年、母親とはまともに口を利いたこともなかった。私は母を家に寄りつかない他人みたいな人だと思っていた』
という辻村ちゃんの記述に対するママの
『「ああ見えて、娘は一度決めたら頑固だから」』
ここに違和感を感じました。
家に寄りつかない他人みたいな人レベルで接触がないにも関わらず、ママは辻村ちゃんをめちゃくちゃ知っているような口調で話しています。
極め付けは綾辻先生の
『「辻村さん、貴女にそっくりだ」』
そっくりかあ……異能継承の実験として娘に同じ名前つけるってことは生まれる前から実験を施すつもりで娘を作ったんですよね?というか異能戦闘のスペシャリストが身籠る暇あったんですか?
……辻村ちゃん、ママのクローンだったりしませんか?

親子継承の前に、異能者と同じ遺伝子の存在に異能継承は可能か、その実験をした結果こそが辻村ちゃんなのではないでしょうか?
ママの死亡偽装&辻村親子の異能継承が5年前で鏡花ちゃんのお母さんの死が3年前なので、同一遺伝子人物での継承成功後に泉親子の異能継承を指導した可能性は十二分にあります。

ついでに、立原くんのお兄さんは軍の機密文書読んでましたから、異能に関する機密文書の中に辻村親子の異能継承計画があってそれに一縷の望みをかけて正の字プレートに異能を込めた可能性も考えられます。

まあつまりは、異能継承に必要なものは
「異能者と異能継承者」
「一致する遺伝子」
「媒体」
「長い時間」
の4点と思われます。

以上が異能継承に関する考察です。
とても長くなってしまい申し訳ございませんでした。


お題を頂きありがとうございました!異能継承の条件、興味深く拝見させて頂きました。

「同姓同名でなければならない」という私の書き方が誤解を招きやすかったかもしれません。もう少し正確にお伝えしてみますね。

■同姓同名である必要性

まず、立原の兄のモデルは立原道造であると公式のインタビューで見かけたことがありますので、立原も立原兄もモデルは同じ立原道造のようです。
おそらく鏡花ちゃんの母のモデルも泉鏡花なのかな?
そして辻村ちゃんのママもやっぱりモデルは辻村深月である。

これらのことから、作中では名前が明かされていないだけで、彼女たちに名前があるならやはり同じ名前になるのではないか、と考えています。
異能力とはそもそもが文豪の作品名であり、その作品を自在に操る権限を持ちうるのはそれを書いた文豪本人だけでしょうから、本人以外の名前を冠する人物は異能を使役することができないのでは?
それ故に、異能を継承する者同士は同じモデルの文豪であり、すなわち名前も必然的に同じになる、そういう考え方に基づいて異能継承の条件に同姓同名であることを挙げてみました。
(以前、相互さんがこの考え方を提唱してくれて、その通りだなあと個人的には思っています)

■モノを介した異能継承

異能は人の魂や精神に宿っているとストブリで明かされていますので、モノに異能を込めることって実は結構難易度が高いのではないかなと思っていて、今まで作中に出てきた「異能が込められたモノ」って基本的に金属に限定されていると思うです。なので異能と金属は親和性が高いのかも。

例えばストブリに出てきた牧神の異能金属だったり、福地の時空剣だったり、ブラムの聖剣だったり、ムルソーの隔壁に使用されている耐異能性特殊金属だったり…
アニメの無限賽室の丸いシェルのようなものも金色が混じってますので、金を中心とした合金が編みこまれていそうですね。
これら金属以外に異能が込められたものって他にあるかな?なにか見落としているかもしれないので、見つけた方教えてください。

では鏡花ちゃんの持つ携帯は何なのか?という話になるのですが、鏡花ちゃんの携帯は指示を出すためのツールとして存在しているのではないかなというのが個人的な見解です。
鏡花ちゃんの異能は本来母の異能ですので母の声によってしか動かないはずだけれど、母の携帯電話という仲介を経ることで、鏡花の発した言葉が母の言葉に変換されて指示を出せるようになる、そういう仕組みの中で必要とされていたツールという見方もできるのではないでしょうか?
今はもう携帯を通さなくても指示を出せるようになったのは、DAや姐さんからの贈り物を通じて鏡花ちゃんの内面に変化が生じてなにかの障壁が取り除かれたからとか、福沢の異能によって制御する力を得たからとか、そういう可能性が考えられますかね。異能と付き合っていくうちに次第に異能を受け入れていけたことで継承が徐々に完全なものになっていったのかも。

辻村ちゃんの場合も「娘が殺そうとした相手を娘より先に殺せ」という命令を辻村母が影の仔に与えていて、影の仔はずっとその母の命令に従って動いていると思うのです。だから影の仔は辻村ちゃん自身の指示はまるで聞かない。なので辻村ちゃんたちのケースも実は不完全な異能継承だったりするのでは…?
これを完全な形にするには、鏡花のときと同じように異能を受け入れる(=母の魂を受け入れる)という精神的な克服が必要だったりするのかもしれないなあとも感じます。

では今度は立原のケースです。立原は今のところ唯一葛藤が描かれることなく兄から継承されたと思われる異能を自在に操れています。
立原がどうやって兄から異能を継承したのかはまったくの謎ですが、お題主様のおっしゃるように、立原兄は機密文書を見ていたので何かこっそり仕込んでいたのかもしれないですね。そしてドッグタグは金属で出来ていて、さらには文字という情報を刻むことができるので、それを媒体にして異能継承をするというのは確かにありそうな感じがしますね!
立原は自分で異能を制御できているので、異能継承は完全な形で完了しているのかも?ドッグタグを媒介して継承しているから完全なのか、もしくは異能そのものが「金属を操る異能」であるが故になにか特別な異能継承が実現したのか、立原のケースは結構特殊だったりするのかもしれないなあとも思います。

■金属に刻まれる精神

お題の内容からは少し反れてしまいますが、なぜ金属になら異能を込められるのか?という点の妄想を広げてみたいと思います。

異能とは形而上の概念であり、精神や言葉と同列に扱われるものですよね。なので金属に異能を込めるということはすなわち金属に精神を込めるということになりますが、普通の考え方では物質に精神を込めるなんてことはできないので、なにかカラクリがあるはずです。

一番真っ当な考え方は「金属に刻まれた文字」が精神の役割を果たしている、という可能性でしょうか。
本棚劇場の脚本に「精神を形作るのは文字と言葉だ」という言葉がありましたし、中也のように文字列で精神を模倣することができることを考えると、異能は「文字」を精神として認識するのかもしれないなあと考えています。

そしてストブリでNが放った虹色の異能金属が空を舞っているとき、その表面には「ごく小さな文字列が走るように浮かんで、また消える」という描写がありますので、異能金属の表面に細かな文字が刻まれていることが伺えます。これと同じような仕組みで耐異能性金属素材にも細かな文字が刻まれているのかも?

では、福地の時空剣はどうか。時空剣は1500年前に異能を持つ刀鍛冶が鍛冶したもので、剣自体が持つもともとの力は「十数センチの距離の時空を渡る」でした。鍛冶した時点で異能者の異能が金属に込められていると考えられますので、ブラムに刺さっている「異能者の肉体が金属に変性した聖剣」と仕組みは似ているものと思われます。
これら剣には必ずしも文字が刻まれているわけではなさそうですが、剣ってそもそも「意志を持った剣」とか「魂が宿る剣」とかそういう言われ方をしているのを結構見聞きしますよね。もちろん刀鍛冶が魂を込めたとか刀を持つものの魂が込められたというのもあるでしょうし、「悪鬼滅殺」だか「悪邪即滅」だかの文字が刻まれたりすることで刀に精神が宿るという考え方もできます。日本では刀を奉ったり刀の中に霊的な存在を見たりしますので、刀に精神や魂が宿っているというのは日本人としては実感を持ちやすいのかなと思います。

日本の伝統や宗教という文脈の中で精神性を込められた福地の時空剣と違い、ブラムの聖剣はおそらく中世の欧州で盛んに行われていた錬金術がその背景にあるのではないかなという気がしてます。
錬金術では自然の中にあるものは精神・魂・肉体の3つの性質から成り立つとされており、たとえば植物や金属から魂や精神を分離させて別の肉体にそれらを結び付けることができれば物質の性質を変性させられる、と考えられていました。人体も金属も同じ性質を持つものであるという前提に立っていたが故に、その時代には実際に人体を金属に変性させるという技術や異能が実現できていたように思います。

いずれにしても、その時代に人々に信じ込まれてきた常識が異能という形になって表れているように感じますので、現代から見て「科学性に欠ける」と感じるような仕組みのものであっても、その時代の社会の中で当たり前の概念として受け入れられてきたものであれば、そういう異能力というのもまた自然なものとして存立していたのではないかなと思います。

◎まとめ
異能継承の具体的な方法はまだ明かされていないのでよくわかりませんし、完全な異能継承と不完全な異能継承の違いってそもそもなんだ?というところから実はまだ明確ではなかったりしますよね。
そんな中で条件として可能性に挙がるものは、

①同じモデルであること
②肉親であること(遺伝子が近い)
③モノを介すなら金属を媒体にしていること

の3つになるかなぁというのがお題主様のご意見も踏まえさせて頂いた結果の個人的な見解です。

■偉大なる破壊を愛す

さて、ここからはお題とはまったく関係のない、私の趣味を炸裂させただけのもはや考察とすら呼べないような話をさせて頂きます。
異能金属の話を出してしまったからにはこれを言わせてくれなきゃやってらんねえと私の魂が叫んでいるので、すみませんが少しばかり語らせてください。ここから先は金属、とくに牧神の異能金属について興味のある方だけどうぞ。

牧神の異能金属は、ストブリでおおまかに分けると3か所に出てきます。
①「革命の五月」の穴蔵で牧神が異能により異能金属を生成。
②Nが信号弾ととも異能金属を放出。
③中也の帽子(兄の帽子)に編みこまれているのも牧神の異能金属。

これらの異能金属はどれも同じものであると思われ、その構成要素は1割がプラチナ、1割がチタン、残りが金を中心とした虹色の合金で出来ていると書かれています。

牧神の異能金属が登場するシーンの中でも、夜空に虹色の金属粒子が舞い、空中で交響曲を奏でる場面はストブリの中でも屈指の名場面じゃないでしょうか。そう思いますよね??
虹色の金属粒子が束の間見せた軽やかでエレガントな音色が、ヴェルレエヌの重力に吸い込まれていくその過程で重低音に切り替わり次第に不協和音と化していくような、そんな音楽的な美しさに満ちた見事な天体ショーが横浜近郊の地上で再現されたことにはいつも胸が躍ってしまいます。

ところで異能金属の材料になっている金やプラチナってそもそもどうやって作られているか皆様ご存知ですか?
きれいな宝石や鉱物って地球の内部で圧力をかけられて結晶化し、途方もない年月をかけて育てられていくものなので、地球という大自然が生み出す賜物ですよね。
でも貴金属って地球の中では誕生できないのです。貴金属を構成する重元素は、はるかかなたの宇宙で繰り広げられる中性子星同士の衝突でしか生み出されることのない、宇宙の中でも極めて稀な元素なのですよー!
なので地球に埋蔵されている貴金属は、地球誕生のときにすでに地球に持ち込まれたもので、太陽系が生まれるよりもずっと前に巨大な星同士がぶつかるという破壊的な天体イベントがその起源となっています。

中性子星同士の衝突は「1つの銀河につき10万年に1度」の頻度でしか発生しないような貴重なイベントで、その1回の衝突で地球100個分を超える量の貴金属を一気に生み出すと言われていて、そこで生まれた貴金属が宇宙を旅しながら新しく形成される恒星や惑星の材料になっていきます。
貴金属だけでなく、生命のもととなる元素にも超新星爆発や中性子星の衝突からしか生み出されない元素があります。なので、爆発や衝突という現象は生命の起源であると同時に貴金属の起源でもあり、そんな風にして宇宙の壮大な神秘に想いを馳せてみれば、生命も貴金属ももともとは同じ源から旅立った兄弟姉妹なのだなあとしみじみ感じ入ってしまうのでした。ろまん!

さて、坂口安吾は『堕落論』の中で東京大空襲の様子を描写していますが、その中に個人的にものすごく惹かれている言葉があります。

私は偉大な破壊が好きであった。私は爆弾や焼夷弾におののきながら、狂暴な破壊にはげしく興奮していたが、それにも拘らず、このときほど人間を愛しなつかしんでいた時はないような思いがする。
(中略)
あの偉大な破壊の下では、運命はあったが、堕落はなかった。無心であったが、充満していた。猛火をくぐって逃げのびてきた人達は、燃えかけている家のそばに群がって寒さの煖をとっており、同じ火に必死に消火につとめている人々から一尺離れているだけで全然別の世界にいるのであった。偉大な破壊、その驚くべき愛情。偉大な運命、その驚くべき愛情。

『堕落論』坂口安吾

破壊的なことって、頭では「駄目なことだ、よくないことだ」って制しながらも、どこかで身体がえも言われぬような興奮に包まれてしまうような感覚って案外みんな持ってたりしませんか?少なくとも私は坂口安吾のこの言葉にとても共感してしまうのです。

もしも私たちの身体を構成する生命の源となる元素が、かつて自分たちが偉大なる破壊から生まれた記憶を実は宿していて、破壊を目の当たりしたときにその記憶が身体の中で呼び覚まされることで興奮がもたらされるのだとしたら、爆発や破壊を愛する心情は生命の存在する喜びを愛する気持ちとどこか通ずる部分があるような気がしています。

ストブリで繰り広げられた暗黒球による偉大なる破壊に「恍惚とした」興奮を覚えてしまった太宰も我々読者も、偉大なる破壊の愛と、その破壊の中で運命づけられていく奇跡のような人間存在への愛を、一身に感じ取る機会に恵まれたのではないでしょうか。
ストブリへの愛。暗黒球への愛。破壊と衝突への愛。
虹色の合金が奏でた音楽的信号はその愛への導き手として儚き使命を全うしてくれたのだと想うと、牧神の異能金属の持つなんともいえない不思議な魅力に何度も何度も胸を打たれずにはいられないのでした!

以上、宇宙オタクの妄言でした〜。
お題を頂きありがとうございました!(後半全然関係なくてほんとすみません)

お題主様からの返信:

返信を頂きましたので、ご紹介します~。
「持主を死んだと認識している」点も確かに共通点ですね!こちらこそありがとうございました。

ものあしさん、先日は異能譲渡に関する投書への返答ありがとうございました。
私が異能継承条件に同姓同名を排除した理由なのですが、「辻村深月」には「文豪・作家の辻村深月」と「小説作品登場人物の辻村深月」の二つが存在するため、そもそも辻村親子のモデルは作家(母)と登場人物(娘)である、と考えて排除していました。
また異能継承で、泉親子・辻村親子・立原兄弟は三組とも「被継承者が元の異能持ち主を死んだと認識している」ため、その辺りもトリガーになっていそうだなとは思いました。
異能と金属の関係など非常に興味深いと思いました。
長い文章にも関わらず読んで返答まてしていただきありがとうございました。

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