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文ストの年齢設定について、アイデンティティ確立の観点で(お題箱から)

※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です。
※お題箱に頂いたお題への返信です。

頂いたお題はこちら:

いつもものあし様の考察楽しみにしております!
「敦とやつがれの年齢設定について」ものあし様のご意見伺いたくお題箱に投げさせていただきます。
敦18歳、やつがれ20歳ですが、何故この年齢設定なのでしょうか?という疑問です。
(文ストキャラ全般に何故その年齢?という疑問がありますが今回はこの二人に絞ります)
主人公には「少年性」という要素が必要だと思うので(DAでは「いつだって少年は生きるために虎の爪を立てるんだ」というフレーズもありますし)敦が10代なのはまあ当然ですが、18歳はけっこう高め、少年呼ばわりするにはギリギリかな?という印象です。孤児院に18歳まで居たのも、他キャラが14歳で自活している世界線では不自然なのでは?とも思います。
やつがれの方についても、敦のライバルであることを全面に出すなら同じ歳、そして彼も物語を通して成長していくことを考えても少年であるほうが自然に感じます。太との関係性においても、2歳違いで師弟というのは無理があるような…やはりもっと下の年齢の方がしっくりくるように思います。
これらの様々な無理を押してもkfk先生的にはこの年齢設定にする必然性があったのだろうと推察するのですが、それは一体何なのでしょう?
(何処かでkfk先生が既に語っていらしたら終わる話なので、もしそうでしたらすみません&ご存じでしたらどのような内容なのかお教え頂けましたら嬉しいです)

一応私が考えた拙い考察を挙げさせて頂きますと、
・何らかの理由で彼らには「戦争の記憶」があってほしい?どうやら本編軸の14年前くらいまで戦争をしていたようなので18歳くらいにはなってないと覚えてないことになる
・やつがれについて、マフィアであることから飲酒・喫煙シーンを描く可能性を考え成人済みにした

…何か凄く物理的なことばかりなのと、敦とやつがれの年齢差の説明になっていません。

あとちょっと話がずれるような関連があるようななんですが、文ストにはオタクが大好きな「17歳」に設定されたキャラがいません。偶々なのかkfk先生の何らかの拘りがあるのか…

以上、ものあし様のご意見よろしくお願い致します!


はじめに

お題を頂きありがとうございます!
年齢設定…なぜこうなっているのか気になりますね~!
確かにおっしゃる通り、少年性と成長という観点でいうともっと若い方が活力と伸びしろがあって描きやすいというのはあるような気がします。
一方で、裏社会を描いているので社会通念上の配慮も必要というのもおっしゃるとおりだと思います!

この考察ではちょっと視点を変えて、心理学的な観点から年齢設定の謎に迫ってみようかなと思っています。
私は大学時代の専攻が心理学だったので一応少し齧っている身ではありますが、仕事は全然違うことしてるので既に知識は10年以上前のもの、風化が進んでカスほどしか残ってない知識ではさすがに太刀打ちできないので、ちょちょっと調べてまいりました。

思春期の青年たちにとっての目玉イベントに「アイデンティティ確立」というものがあります。こういうことって一般的にどれだけ認知されているんだろうか…?言葉は聞いたことある、みたいな感じですかね?
アイデンティティを確立するというのは、この世界での自分の在り方を確立する時期と言い換えることもできると思います。
自分が自分であることを受け入れてその後の方向性や生き方を明確にするイベントです。

世の中の一般的な創作物がどれだけこのアイデンティティ確立という事象を意識して書かれているのか知らないのですが、少なくとも文ストに関して言えばこの点を考慮しないと、物語の魅力、とくに主人公の持つ魅力の大部分を見落としてしまうことになる、と感じるくらいに重要性が高いと思っています。
ちゃんと理解してもらうために少しお勉強チックなことを書きますので、しばらくの間ご辛抱ください。

■アイデンティティ確立とは

人は様々な葛藤を乗り越えながら成長していくものですが、それぞれの段階において重点的に獲得しなければいけない要素がある、としてエリクソンさんという方が「ライフサイクル論」を提唱しました。
下の図におおまかに書きましたが、特定の年齢において周囲からどんな影響を受けたかによって、人の心や価値観は左右されます。

図の中の白いマス(以下「白マス」)は、周囲の適切な支援によって葛藤を無事乗り越えたケースであり、グレーのマス(以下「黒マス」)は支援を得ることが出来なかったが故に葛藤を乗り越えられずネガティブな影響が生じるケースを表しています。

もちろんそれぞれの時期に不運にも黒マスを進んでしまっていたとしても、その後の人生で何かの出会いや出来事を通じて、葛藤に打ち勝ち白マスを獲得することもできる、いわばやり直しは効くもの、でもあります。

エリクソンのライフサイクル論

文ストの登場人物は描かれている過去編も含めて、多くが「青年期(13~22歳)」に位置しているわけですが、この年代の青年たちが直面する課題というのが「アイデンティティの確立」です。
そしてお気づきのとおり、文ストというのは、生きる意味や自分の居場所を探すことを重点的に描いていることから、「アイデンティティ確立までの葛藤を描く物語」であるという見方ができます。

■敦が置かれている状況

このライフサイクル論の図に照らし合わせてみると、敦くんが置かれている状況をよく理解できるようになります。
敦くんは孤児院にいたときの描写から、幼児期・学童期では黒マスを踏んでいます。なので「罪悪感」「劣等感」が溢れている状態でスタートを切りました。
生きていることそのものに対する罪悪感、自分にはできないという自信のなさ、自分は無価値だという劣等感は、どれも孤児院での経験に裏付けられ、敦の精神にしつこく根を張ってしまっています。

18歳の青年というのは、本来「アイデンティティの確立」が重点項目となっていますが、敦に限ってはそれ以前のマスでまずは葛藤を克服し白マスを獲得するところから始めないといけない、今まさにマイナスをゼロにするために戦っているといえます。

■各登場人物のアイデンティティ確立の時期

文ストで描かれる過去編の多くで、そのキャラのアイデンティティ確立までの道のりが描かれています。それぞれの年齢を対比させるために一覧にしてみました。矢印の終わりが葛藤を乗り越えてアイデンティティを確立した時期です。(年齢はいつも緻密に計算できないのでちょっと前後している可能性ありです)

「救済」という言葉が一般的に使われることが多いですが、文ストの場合「アイデンティティ確立の後押し」という形での救済が描かれることが多いと思っています。
影響を及ぼし合うメンバーはおなじみのメンバーですが、それぞれの関係性は多様ですね。
こうやってみると、大体きっかけは一人、あるいは一つである中で、中也のアイデンティティ確立には大勢の人が関わっていることを考えると、中也という難しい生い立ちを持つ人間にとってそれがどれほどハードルが高くかつ重大なことだったか、じんわりと伝わってくるような気がします。
ちなみにシグマは敦と同じで、今まさに本編においてアイデンティティ確立への道を歩んでいる、と言えるようにも思います。

少し話が反れますが、澁澤はきっとモラトリアムをこじらせたんじゃないでしょうか。
無気力に陥り、それを一時的な興奮や快感で満たそうとしてしまうのは、おそらく極度のモラトリアムに陥っているからだと思います。
そういう意味ではアイデンティティの確立に向けてひたむきに歩もうとする敦くんとは見事に対照的な存在。
澁澤は自分が歩めなかった道を歩んでいく敦に羨望を抱き、敦を取り込むことで一時的にその感触を味わおうとしていたのかもしれないなぁとも思います。

■年齢設定とのつながり

ものすごーく前置きが長くなってしまいましたが、ここで敦と芥川の年齢設定についてです。
敦の年齢が18歳なのは、他の人よりも遅いタイミングから他の人よりも多くの葛藤を乗り越えなければならない、という環境にするためではないかなと個人的に考えています。その方がドラマがあるし…。
たとえば敦が14歳か15歳だった場合、アイデンティティ確立の時期が他のメンバーと大して変わらない、割と普通の境遇だ、ということになってしまうのかなぁと。
それが18歳であることによって長期間抑圧されていたことが引き立つような気がします。

そしてずっとずっと苦しみ続けたあの太宰さんですら、18歳で自分の生き方を見つけたのに対して、敦はまだそこがスタート地点にすぎない。
そういう他のメンバーの生い立ちとの調整の中で、年齢が決められていったのだと思います。

一方、芥川を18歳にすると太宰に拾われたのが13歳ということになる、それではアイデンティティ確立としてはあまりに早すぎる…ということで少し上の年齢にしたのかも?実際のところはどうかわかりませんが、こういう見方もできるかなぁと考えています。

文ストは理路整然としている、緻密に組み込まれている、というあたりに私は安心感を感じるんですが、心理的な描写の確かさ、というのもやっぱり安心材料になっていると感じます。

そして…17歳に設定されたキャラがいない…というのは初めて気づきました…!!!
それは…なぜなのだろう…?
不思議ですね…
理由…全然わかりません…

お役に立てているかどうかわかりませんが、少しでもすっきりした気持ちになってくれていたら嬉しいです。
お題を頂きありがとうございました!


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