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アニメ版ムルソーの改変とその構造について

※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です。
※単行本ネタバレちょいちょいありますごめんなさい。

アニメですっかり暗く丸くなってしまった監獄ムルソー。
驚いた方も結構いたのでは?私もその一人ですが、こういった改変には必ず意味があると思うので、今回はその意味について考えてみます。
私は美術にも建築にも設計にも創作にも宗教にも何にも詳しくありませんので、この考察の内容は素人の妄想によって出来上がっていることをどうかお許しください。

アニメ版ムルソーを見て大きく印象に残ったことは、その複雑な構造と独特の様式ですので、気になった部分をひとつひとつ見ていきたいと思います。

■無限賽室が立方体から球体に変わった理由

無限賽室は単行本では非常にミニマルな空間でした。空中にいくつか立方体が浮かんでいるだけで複雑な構造はなく、どことなくランボオの亜空間と似ていて、それぞれの部屋から外界に干渉することはできないという印象があったように思います。
それがアニメ版では非常に複雑な構造になっているので、まずはその構造を分解して考えてみます。

①無限賽室全体を包む「異能空間」
文字が書かれた異能の帯が空間全体に広がっているあたりからも無限賽室が異能空間であることが伝わってきますね。この辺の設定は特に単行本からの改変はないかと。

②ハチの巣構造でできた「対異能性球体」
一番大きな改変は立方体から球体に変わったことだと感じます。そしてハチの巣構造の透明な素材が印象的です。
ハチの巣構造の素材で空間を形成しようと思った場合、球体にした方が確かに自然な気がします。立方体だと角の部分でハチの巣構造が崩れたりして難しいのではないかというただの素人の感覚ですが。

ではなぜハチの巣構造にする必要があったかと考えると、これが対異能性素材で出来ているから、という可能性が高い。
このハチの巣構造、たまに出てきます。ムルソーの脱出経路の「対異能性金属でできた壁」は中也がパンチを入れると同じようにハチの巣構造の模様が浮かび上がってくるので、対異能性物質は六角形で構成されているという性質があるのかも。

これ以外にもハチの巣構造が出てきたことがあって、それがアニメ28話「ダイヤはダイヤでしか」です。荒覇吐を閉じ込めていた「透明な封印」もこのハチの巣構造でした。
荒覇吐の封印の場合、より強固となるように、ハチの巣構造の継ぎ目の部分にさらに補強材が組み込まれているらしい。
つまり神を閉じ込める、あるいは異能を弾き返すのにふさわしい構造である、ということのようですね。
対異能性素材でできているということは、当然あらゆる異能は通用しないので、太宰の無効化もこの球体を破ることはできないと思われます。

③囚人が座る「神の玉座」
太宰さんとドスくんが変わった形の台座の上に座っている、というのも非常に目を引きました。私はこれを「神の玉座」と勝手に命名したのですが(理由は後述)、この玉座が太宰さんの異能無効化をかいくぐって、球体を空中に浮遊させているのにとても重要な役割を果たしているように思います。
太宰さんは、黒服に囲まれているシーンで既にこの玉座に座っていたので、玉座は異能ではなくある種の調度品としての通常の物質だと思います。
そしてこの両側の車輪のような部分があることによって、対異能性球体が玉座に支えられている構造になっている。両端の円形の部分がピタッとフィットしている、というような感じですね。
なので玉座を浮遊させることができれば、球体そのものが浮かぶようになっているのではないかと。
ちなみにこの玉座の下の部分も円形であり球体にぴったりはまっていることから、玉座の下の部分は隙間のない床のようになっていて、床の下(球体の下部分)には触れられない仕様だと思われます。

④神の玉座を浮遊させている「幾何学模様の異能力」
球体の下側にある黄色い幾何学模様の異能力が、球体を浮遊させている原動力になっていると思われます。
先ほども書いたように、この異能は神の玉座を浮遊させているものであり、対異能性球体そのものを浮遊させているわけではなさそう。
太宰さんがこの異能の部分に触れれば確かに浮遊する異能は消えるかもしれませんが、まず玉座が邪魔をして触れられないというのと、触れて浮遊の異能を消したところで対異能性球体までは破れないのでどっちにしろ脱出はできない。
神の玉座というパーツを入れることによって、太宰の異能無効化と対異能性球体という二つの制約をかいくぐっているのだと思います。
ほんと…よくできてるな……

ということで、ムルソーの構造を分解して考えてみた結果、めちゃくちゃよく考えられていてすごい、という結論に到達。
なんといっても黄金がかった六角形の透明な膜が幾重にも重なってみえるビジュアルがかっこよすぎて、1日5回拝みたくなりますね。

まともな考察はここまでで、この先は個人の妄想で構成された怪しい話です。

■ムルソーから感じ取れる象徴的な意味

①ムルソーの様式について
ここでいう様式とは建築的な意味合いでの様式でして、私がムルソーから感じ取ったのは中東、アラビア感です。
玉座の部分に施されている彫刻や模様がアラベスクあるいはダマスク柄のようであること、それから幾何学紋様を中心とした装飾は非常に中東らしいなと感じさせるものでした。
マホガニーっぽいテーブルがあったりしたので少しイギリス感もあってあまり自分の感性に自信はないのですが、いずれにしても装飾たっぷりなのが印象的。
ムルソーが存在する場所の候補地の一つに、中東近辺の海、ペルシャ湾やアラビア海の海中であるという可能性がありますので、そのあたりとの繋がりが気になります。

②神の玉座について
さて、ここからは象徴的なお話です。構成要素は怪しさ100%ですので、この先はお好きな方だけどうぞ。

まずは私が台座を「神の玉座」と命名した理由です。
中東っぽさ以外にムルソーのもう一つの印象として感じたのは、ユダヤ神秘主義らしさです。そう感じさせる要因のひとつがこの台座であり、台座にメルカバらしさを感じ取ってしまいました。
言葉で説明してもわかりにくいので、こちらをご覧ください。

メルカバ

こちらのサイトからお借りしました。

端的にいうと、この絵の乗り物の一番上に乗っているのが神であり、台座と車輪の部分は神の戦車を表していて天使がこの乗り物を引っ張っている、そういう絵ですね。(わかる?わからないよね…)
エゼキエル書や聖書外典のエノク書で神が現れる際に神が乗っている乗り物(メルカバ)としてこういうのが登場するようです。
車輪は輪の中に輪があるような…という描写されているようなので、ムルソーの台座の両脇にある幾重にも重なった輪との共通性を感じますし、なにより中央の台座に座っているのが神であり、これが神の玉座であるといえばもはやそれ以上の説明は必要ないのでは。
太宰さんもドスくんも天界に座って下界の盤面を動かしているという意味ではお二人とも神の視座に立っていると感じますし、まぁ…神だよね?

③黄色い幾何学模様の異能について
怪しげな話が続きます。
もうひとつ気になったのが黄色い幾何学模様の異能です。秘教らしい見た目でなんともそそります。
そして似たようなもの、見つけました。
キルヒャーが著した『エジプトのオイディプス』に「神の名前」として出てくるのがこれです。見た目が異能の幾何学模様と雰囲気が似ているのと、神の名前がずらーっと並んでいるところに神つながりで反応してしまった私です。

A diagram of the names of God

元ネタが英語Wikipediaしかないですが一応リンク貼っときます。

キルヒャーさん、有名なところだとカバラのセフィロトの樹(エヴァに出てくるという噂のあれ)も書いていて、ものすごい魅惑的な研究を沢山された方のようなので(私はそんな詳しくない)興味のある方は調べてみると面白いものに出会えるかもしれません。間違えてケルヒャーで検索しないでくださいね。

こういうのが元ネタなのかどうかはさておき、個人的にはムルソーの仕様改変のついでに二人の対談に「神」感が追加されたような感じがするなぁという印象でした。
中也という神、太宰とドスくんという二人の神、それに加えてシグマも根源体から生み出された神に近い存在、あるいは別世界にいた神だとすれば、ムルソーで繰り広げられているのは、紛れもなく「神々の祭り」であるということですね。「神が一同に会す場所」という視点でムルソーがどこにあるのかを考えてみるのも面白いような気がします。

■ムルソーとギリシャ神話のつながり

ムルソーという名前からして、この場所がカミュとの繋がりを持った場所だと想像できると思います。カミュの『異邦人』の主人公はムルソーくん(私の推し)であり、ムルソーは太陽がまぶしかったからという理由で殺人を犯して監獄に入れられてしまい、母親の死に涙を流さなかったことから死刑判決となったのですが、監獄というキーワードからもカミュとの関連性は強いように思います。
カミュが書いたもう一つの代表作として『シーシュポスの神話』があります。シーシュポスが罪を犯した罰として岩を山の頂上まで運ぶように命じられるのですが、岩を何度頂上に運んでも岩はとたんに下に転がり落ちてしまい、永遠にその苦行から逃れることができない、というようなお話です。
これはギリシャ神話のシーシュポスの逸話を題材にして書かれた話のようでして、これ以外にもムルソーにはギリシャ神話モチーフのものが結構出てきます。
ヘカトンケイルもブリアレオスもギリシャ神話に出てくる巨人です。
私、ギリシャ神話には本当に詳しくないので、これ以上なにも語れないのですが、ムルソーとギリシャ神話の繋がりから、その場所を絞り込んでみるのも面白いかなと思います。

文ストの聖地がイスラエルである(幻覚)という点を考えても、ムルソーの場所は地中海が理想ではあるのですが、時差的に…どうなのでしょうね。

ムルソーはただの監獄なのにそれでもこれだけ遊べてしまうのは本当に楽しいですね。
なにか気づいたことあるよって方、ギリシャ神話に詳しい方、ムルソーの場所にお心当たりのある方、ぜひぜひリプなどでご意見頂けると嬉しいです。


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