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燁子さんの本音を探ってみよう(お題箱から)

※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です。
※お題箱に頂いたお題への返信です。
本誌105話のネタバレを含みますので、単行本派の方はご注意ください。

頂いたお題はこちら:
ものあしさんこんにちは!
てるこさんについての考察です。

わたしはてるこさんが最初の方から探偵社側についていたと思っています。
てるこさんは23巻で敦くんを力で抑えるのはつかれたからと、『天人五衰』の目的を話しています。
ここのところの見方を少し変えたら、わざと目的を伝えたとも とれます。
(この目的を知るために福地さんと共に行動していたのかなあと思っています。)
また、105話で外に出た敦くんを追いかけようとした吸血種を争わずに止めています。なのである程度の吸血種に指令はできるんだと思います。この権力を使って探偵社のお助けカードぐらいにはなれます。

他にてるこさんが探偵社側についているようなところが見つからないので違う確率のほうが高いのですが味方か敵か考察していただければ幸いです!


お題を頂きありがとうございます!わーい、燁子さんのお題嬉しいです~。
燁子さんあやしいですね。何考えてるかわかんない顔してますよね。目つきもどこか別の景色を見てるような感じがしますしね。
福地への「きゅぴん」が全部目的達成のための演技だったらとてもやばいと思います。女ってこわい。

■燁子さんが味方である可能性

実は私も本誌を読んだ当初、燁子さんは間諜として猟犬に忍び込んでいて、本当は福地の監視をするために配置されていたのではないか?と疑っていました。
お題主様と同じように燁子さんにはその可能性があるよなあと感じてますし、「ぶりっこは計算でしょ?」という陰湿なことをつぶやく本能がちょいちょい顔を出します。

そう思う根拠となるのはお題主様が書いてくれたように
・目的を伝えたのには意図がありそうだ
・わざわざ扉を開けてあげている
・吸血種を止めている

これら以外にも
・敦くんを棺に拘束したけど電源は入れなかった
・敦くんの拘束をわざわざ解いてあげている
・拷問や戦闘に疲れたのなら拘束しとけば楽だったのに
・隊長に敦くんを捕えたことを報告していない

など、敦くんが動くことを期待しているかのような言動が随所にみられますよね。探偵社に一縷の望みをかけてくれているような印象があります。
なのでお題主様のいうように、燁子さんは探偵社側の人間だという説は有力だなあと思っています!

とはいいつつも、燁子さんは一体どういう心情を抱えて敦くんを外に向かわせたのだろう?というところはみっちり妄想してみたいので、少しお付き合い頂けると嬉しいです。

■燁子さんの心の中

燁子さんが福地に真相を聞かされたのは当日の朝だと言っていました。
その時に、福地からなにかしらの説得を受けた、あるいは福地に言われたことが自分の中のなにかを瓦解させた、それにより福地に従うことにした、という心境の変化が燁子さんの中で起こったのかなと思っています。

これはまったくの個人的な印象なんですが、福沢さんと燁子さんって実は福地から見たら同類なのでは…?と感じていてですね。
福沢さんは戦争のガワだけを見ているような、いわゆる為政者と同じ考え方を持っていて(23巻で見せた福沢の論説があまりにもそれを象徴していて辛い…)、大義という目的のためだけに継戦論者暗殺を行っていた。そしてたぶん福地はそれが許せなかったのではないかなと思うのです。

だけどその性質って実は燁子さんにも言えることで、燁子さんは大義の代わりに「正義」を掲げてましたよね。
正義は燁子さんにとっての至上命題だったはずですけど、正義も大義も実は同じじゃないかなあと思ってまして。
正しいものを救い、悪いものを裁く、これがすべてでそれ以外の価値基準は正義には不要だったりする。だけど天人五衰編で描かれたように正義の反対にはまたもうひとつ別の正義があって、視点を変えれば正しさの姿なんていくらでも変わってしまうので、自分の正義が必ずしも全員の正義ではないですよね。

正義という軸においては「悪」という烙印を押された事実だけに焦点が当てられがちで、そこにいる「人間」をちゃんと見ようとしないことも多い。
燁子さんは、この国の秩序の体現のためにその身を燃やしているとも語ってましたが、それって実は「虚だけ見て、実を見ていないのでは?」という感じもどこかに感じさせるよなあと思ってしまう。
だからもしかしてもしかすると、福地はそういう燁子さんに対して、何か伝えたかったことがあったんではないかな?

そうして福地の意見を聞いた燁子さんは、それまで自分の中に掲げていた「正義」というものへの拘りが崩れ去って、その結果「正義はただの言葉にすぎぬ」と言うに至ったのではないかなあと。
朝方に正義について隊長とガチ勝負して全力で負けを認めたばかりなのに、青二才がもう一度その勝負を軽々しく持ち込んでくるんじゃねえボケカスが…!の顔、してましたよね燁子さん。103話のあの顔まじこわかった。

本来であれば、どれだけの慙愧と無念があろうとも、悪は悪であり同情の余地はない、というのが正義の考え方のはずで、慙愧と無念があるから隊長の行いは許される、という発想は正義らしくないし燁子さんらしくない感じがするので、燁子さんが福地に説得されて正義を捨てたということが敦くんとの会話の中ににじみ出ているような気がします。

真相を聞けば敦は心砕かれ、自ら進んで部屋に留まるだろう、と読んで燁子さんは真相を伝えたわけですが、その裏には、自分自身が朝同じように福地に真相を聞かされ実際に心を打ち砕かれて正義を信じられなくなったという実体験があったとも考えられる。だからこそきっと敦もそうなるだろうという見込みを立てたのかもしれませんね。

「もう疲れた」と、かつてシグマも言っていましたが、それと似たような疲れを今の燁子さんも纏っているように見えます。シグマにとってのカジノがそうだったように、燁子さんにとってすべてをかけたものが正義だったはず。寄りかかっていたものが儚くも崩れてしまった、それによって生気や希望までも奪われてしまったということかもしれないなと思います。

そんな燁子さんの中にもまだ多少の揺らぎは残っているような気がしていて、隊長の想いには同意したがそれでもなにかが自分の中にくすぶっているような、完全には正義を捨てきれないような、そんな感覚もあったりするのかも。
多少迷いながらも敦を扉の外に出させたのは「自分がずっと信じてきた正義はもしかしたら探偵社の中になら、敦の中になら、まだわずかに残っているのかもしれない」という小さな期待が胸の奥のどこかにあったから、という受け止め方もできるかもなあと感じます。

敦くんも事件の真相を聞いてなにやら「正しさがわからない」と悩んでいるのでやっぱり真相の中身に「正義とは、正しさとは」を考えさせてしまうようなことが隠されているのかも。
その迷いを抱えながら敦や探偵社が正義や正しさをどうやって再定義していくのかは、読者も楽しみだし、実は燁子さんもそれが見てみたいという気持ちがあったりしたのかもしれないですね。

もしそうであれば、敦が立ち向かおうとしているものは、燁子も本当は立ち向かいたかったものであり、敦は燁子さんの分も肩代わりして戦いに向かおうとしている、ということになるのかな。そんな敦くんだったら、男前かっこよくて好きです。

■史実の大倉燁子

せっかく燁子さんのお題を頂いたので、少しだけ史実の方も簡単に触れておこうかなと思います。
大倉燁子は夏目漱石の門下生であり、日本では当時珍しかった女性の探偵作家だったようです。探偵作家というだけあってその作品はほとんどがミステリで、自殺に見せかけて実は他殺でその犯人の動機は…と迫っていく形態のものが多い印象。

大倉燁子の作品には、蛇っぽい毒々しさを持った女、霊能力のあるこわーい女、自分の子供を殺してしまう女、そういう女をあっさり惨殺する男などがよく出てきます。
いくつか短編を読んだ限りでは、残忍でおぞましい作品が多く、人のどす黒い部分をあぶり出していくようなタイプで、救いとか正義とは割と無縁な感じだなあと。
探偵小説って大体そういうものなのかもしれないけど、読了感はぶっちゃけBEASTに近く、うげぇ…こわぁ…となるものが多かったのが正直なところ…
燁子さんの持つ残虐な嗜癖はなるほどこういうところから来てるのね...となるような、泣く子も黙る怖さがありました。

他の猟犬メンバーと共通して言えることですが、自伝的な本や解説を加えられた本が一般に流通していないので、猟犬は考察しようにも考察しにくいという残念な実態があります。なので燁子さんのキャラクターについて史実から深掘るのって結構難しくて、著作からふわ~っと人物像を連想するのが私の限界。
そしてご本人の著作からは、とぐろを巻いたようなどろどろ~とした印象を個人的には感じ取ってしまったので、万が一燁子さんが盛大な裏切り者ですべてが演技だった、という結末であっても「納得感しかないわ~」となってしまう予感がします。

ということで、燁子さんのことわかったようなまだ何もわかっていないような…
五衰の真の目的が判明したりする頃には、もう少し解像度を上げられるといいなと期待しています!

燁子さんの考察、楽しかったな…
お題を頂きありがとうございました!


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