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朝霧先生のお話の作り方と文ストについて(季刊エスを読んで感じたこと)

季刊エスを読み終わり、先生たちのインタビューを消化したり分析したりしてる中で、自分が思い悩んでいたことに対する答えを具体的に言語化できてすっきりしたので、この記事ではその点について語ります。各キャラの感想などはまたあとで記事出します。

■朝霧先生のインタビューから感じたことと文ストについて

私が最近なにでずっと思い悩んでいたかというと、「朝霧先生は何も考えてなさそうだ」という感想がなぜこれほど散見されるのか、その原因はどこにあるのか、ということなんですが。

朝霧先生はものの見方や話の捉え方がやはり理系的であり。
理詰めで考えているから、台詞や状況は情報の配置であり、キャラは存在意義という視点で捉えてそうだなと感じまして。
この辺が好き嫌い、というか「考えられている」と感じるか「考えられていない」と感じるかの分かれ目になってるのかも。
考えられ尽くしているんだけど、考え方が一般的なものと方向性がちょっと違う、みたいな。
ひとつひとつの場面をその場でとことん掘り下げて描く、というよりはひとつの場面に重みを足す情報を作品全体の中に散りばめている印象。
だからあちこちに繋がっている情報をすべて加味してようやくその場面の深さに気づけるようになっていると思う。
難しいパズルをよくこんなにうまく組み上げるよなぁ、情報のコントロールも神がかってるよなぁと思う事が個人的にはよくあるので、私は文ストはよく考えられているって思う側なんですが。
もうそこは求めているものの違いなんだろうな…

朝霧先生の「すなわち」はA→Bではなくて、A→Dなので煩悶しないと繋がらないこともよくある。漫画の台詞もそう。だから読み解くの大変なんだよね。1週間経ってからようやく意味がすとんと落ちてくることが多い。
小説はちゃんとABCDで繋がってることが多いけど、漫画は飛躍が結構ある。
BCの説明を除いているだけでご本人の中ではしっかり繋がっているはずなんだけど、読者は一度読んだだけではピンとこないのでね。
それが魅力でもあり、人によってはいまいち感情移入できない原因になっているような
これも好みの問題だな…

ということで、物語に求めるものが違うから、という結論に到達。
文ストを楽しむためには、全体を通して情報を吸い上げてそれを自分の頭の中で組み立てる、その頭の中で組みあがったもので驚嘆する、という行為が必要であり。
読者の脳内での組み立てを要求する分、場面場面の描写はそこまで深くなっていないし作者側で掘り下げも描かない。あとは皆さんの脳内の想像で楽しんでください、っていうスタンスなんですよね、きっと。

私は咎与うる〜の意味のわからなさに初見で興奮し、4度続けて見てようやく意味を理解した時に得たあの快感がとにかく好きなんだけど、そういうのを求めるタイプの人にとっては読んでて楽しいんですよね、この漫画。ひねりに快感を覚える人向き。

インタビューの中に「谷崎が正義の側にいることに違和感を感じないのは、正義と悪がそう簡単に分離できるものではないからかもしれない」という先生の言葉があり、それが結構心に沁みたんですが。谷崎が「悪に一番近い」というのは博覧会でも見かけたんだけど、この一文から感じたのは、朝霧先生はこう言う問題提起をちゃんと作中に組み込んでくれてるよなぁということでして。それも意識が錯覚を起こして普通なら見逃してしまうような論理上の穴を突いてくるから、物事を突き詰めて考えたいタイプの人(とか正義の視点で言えばマイケルサンデルみたいなのが好きなタイプの人とか)にとってはこういうところも面白く感じる一因になっているんだと思う。

それから文ストについて「生きることが得意な人のためにあるのではなく、酸素のように物語を必要としている人のためにある」という朝霧先生の言葉は本当にその通りで。文ストは迷っている人、呼吸が苦しくなっている人を救うために存在すると思うのです。
付け加えて言わせてもらうなら、生きづらさで立ち止まって前に進めなくなってしまった人の中には、まさかフィクションが虚構が自分を救い得るとは思っていない人も大勢いると思います。
私なんかがそうで、物語は娯楽のためにあり人生の悩みは哲学書やビジネス書で解決すべきものだと思ってたんですが、結果的に自分を一番救ってくれたのは物語である文ストだったので。(世界が虚構であることに悩んでいるのに、その悩みを別の虚構が癒してくれるなんてそんなバカな…!ってやつです。癒しポイントは孤独じゃないって知ることだったりする)
そして文ストを入り口にして文学がさらに人生を前に推し進めてくれるので。
今立ち止まってて、だけどまだ物語という存在の持つ力に気づいていない人にも文ストが届いて欲しいなぁと思ったりしてます。

最近思い悩んでいたことが結構すっきりしたので、季刊エスほんとに読んでよかった。



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