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ころころ長屋~落語風味~

八「ご隠居さん、お邪魔しますよ」
隠「おお、八っつぁんかい、この暑い中ご苦労さんだった。
  表の様子はどうだい、人込みなんぞは大丈夫だったかい?」
八「ご隠居さんも横着したもんだ、はい、頼まれていたお買い物」
隠「いやいや、世間じゃあ悪い病が流行っているっていうじゃないか。
 人から人へも移るっていう肺病みだそうだからね。
    われわれ高齢者は気をつけておかないといけない」
八「そりゃあ、おっしゃる通りだ。
  あっしもご隠居さんには長生きしてほしいからね、
  ご隠居さんになにかあったら……」
隠「うれしいことを言ってくれるじゃないか」
八「いざっていうときに金を貸してくれる相手に困る」
隠「人をATMみたいにいうんじゃないよ。ただまあ、気持ちはうれしいね。
  はい、これはお駄賃だ」
八「ありがとうございます」

隠(風呂敷をほどきながら)
  おや?頼んでおいたプリンは3つだったはずだが
  2つしか入っていないじゃないか」
八「へへ、途中があんまり暑かったもんで、一つだけ失敬しちまいました」
隠「なんだい、しょうがない奴だね」
八「お届けもんを途中で奪いつつ。うーばーいーつつってね。
  かわりにレジ袋代は、あっしの風呂敷でかかりませんでしたよ」
隠「間延びした言い方しないでいいよ。
      真面目に仕事でデリバリーしている人に失礼だからね。
       ところでちゃんとマスクもしていて偉いじゃないか」
八「プリン食べる時だけ外しましたがね」
隠「ああ、プリンの話はもういい。
      今度の肺病みは若い人でも罹ると重たいっていうからね、
      十分に気をつけなくっちゃあいけない」

八「あっしは見ての通りの魚屋ですからね、肺のひとつやふたつ、
      いざとなったらエラ呼吸でなんとかします」
隠「バカなこというんじゃありません。人間にエラ呼吸ができるもんかい。        いまだって人工呼吸器つけて苦しんでる方だっているって話だ。
  お前さんの苦悶の表情は見られたもんじゃないよ」
八「そうして心配いただけているなら大丈夫ですよ」
隠「どうしてだい?」
八「愛情もってもらっていたら、アバタもエクモっていいますから」
隠「まったくお前さんにゃあ、あきれてものが言えないね。
    まあ、若くて元気だからといっても気をつけるにこしたことは無い。
  なんてったってうまく治す方策はまだわからないってんだからね
  命にかかわっちゃあ、一大事だ」

八「そんなことなら、ご隠居さんこそ気をつけてくださいよ
  若いころのツケがたまって、胃炎に糖尿、脂肪肝、
  挙句の果てに高血圧って、いつもぼやいてるじゃないですか
       うっかり罹ったら、イチ、コロな、んですから」
隠「へんなところで区切っちゃあいけない、縁起でもない。
      それに、そんなに大きな声で人の病気を並べるもんじゃありませんよ。
  ただまあ、八っつぁんの言うとおりだ。
  もともと持病があると、今回の病は進行が早いっていうから、
         お前さんも臓器はいたわって大事にしておかないといけないね」
八「ご隠居さんのおっしゃる通りに、あっしも気をつけますがね、
  ただ、この国はもう終わってる、死んじまってるんじゃねえかとも思ってるんです」
隠「なんだい、物騒な話だよ。いったいぜんたい、どうしてだい?」
八「はい、この国はすでにシンゾウから止まっていますから」

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