見出し画像

飯田正人さんのこと(麻雀)

もうずいぶん昔の話。

私が最高位戦のAリーグでも
マージャンを打っていたときのことでした。

会場は神楽坂にある麻雀荘。

いまはどうだか知らないですが、最高位戦というプロ団体は
同じメンツでの半荘4回を、一日、一節として戦っていました。

その日は同卓していた飯田正人さんが2連勝したところ、
私は3着と4着。

4着のほうは悠々とした飯田さんに届きもしない
3人の中でのもみ合いに敗れた、ちょっと悔しいものでした。


軽くうっぷんがたまる展開とでもいうのでしょうか。
そう思ってしまうのも、ずいぶん生意気な考えなのですが。

連勝の飯田さんに誰かがいいました。

「飯田さん、今日はツイてるね。いい場所ひいて」

もちろん打ち手同士の軽い冗談なのですが、
やはりゴキゲンの飯田さんもいい返します。

「場所じゃないよ」

わざと怒ったふりの、少しこわい表情を作りながら
右ひじのすこし上のあたりを、ポンポンと叩きます。

昔の先輩にはこの動作をする人がよくいたなあ。

(腕だよ、腕)

って意味なんです。
緊迫した試合が続く一日の中でも、
同じ場所で牌を交わしあっている者どうしだけに許される、
ちょっとした空気の隙間。

次戦の場所を決めてから、飯田さんはトイレにむかいます。


(場所じゃない、っていってたよなあ)


なにか閃いた私は、置いてある全自動卓を
時計回りに回転させようとこころみたのです。

まあ、悪い冗談なんですけど、

そこに帰ってきた飯田さんが、

「こらっ! なにやってんだ。 はやく元にもどせ!」


と、めったに出さない大きな声で叱られてしまって、
しぶしぶと元に戻したのでした。

当時30歳くらい、Aリーグの中では最年少だった
私でしたが、
いまおもうと、バカなことをしたもんだ。


なんて、飯田正人さんとの思い出を、ひとつだけ。

卓の中では、とてもアツく。
卓を離れたら、あたたかく。

優しい先輩だったな。

ここまで読んでいただいてありがとうございました! サポートしていただけたら更にとってもありがたいです<(_ _)>