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【入間市長インタビュー】全国初!ヤングケアラー支援条例制定「大丈夫、必ず救いますから」

※この記事は「ケアラータイムズ 第5号」(2023年4月号)からの転載です。

2022年7月1日、埼玉県入間市で、全国初のヤングケアラー支援条例が施行されました。これまでの経緯や条例のポイント等ついて、入間市長・杉島理一郎氏にお話を伺いました。

◆聞き手・吉良英敏
◆対談日・2022年5月24日、2023年2月2日に追加取材

“本当に救える”条例をつくる

吉良 全国初の「ヤングケアラー支援条例」となりますが、この条例をつくろうと思われたきっかけを教えてください。

杉島 私自身、「ケアラー」という言葉も存在も知らないところからのスタートでした。埼玉県で全国初のケアラー支援条例の制定に向けて準備していた当時、私も埼玉県議会議員でしたので、準備メンバーとしてケアラーについて勉強し、実態を知って本当に胸が痛くなりました。県に素晴らしい条例ができたので、今度は市町村で具体的にどうやってケアラーを見つけて、救い出して、社会で守っていけるか。もし入間市にヤングケアラーがいるならば、“本当に救える”条例をつくろうと思いました。

吉良 市長就任時(2020年10月)に公約として打ち出されましたよね。就任直後、何から取り組まれたのでしょうか。

杉島 まずは2021年7月に実態調査を行いました。小・中・高校全体で1万人にアンケートを取ってみると、やはり入間市にも約5%のヤングケアラーが存在することが判明しました。中には1日8時間以上お世話している子も。ただ本人に自覚がなく「お手伝いの一環で良いことしている」と思っている子が多かったです。一方、「初めて見つけてもらえた」と書いてくれた子もいて、ヤングケアラー支援の重要性を再認識しました。職員も関係機関の皆さんも「なんとかしなければ」という気運が高まりましたね。

入間市ヤングケアラー支援条例 第5・6条

条例のポイントとは?

吉良 ヤングケアラーに特化した今回の条例は全国的にも注目が集まっていますが、具体的なポイントはどの辺りでしょうか。

杉島 学校がヤングケアラーを見つけやすい場所だからこそ、早期発見する役割と責任があることを条文化したのは、大きなポイントです。当初は学校がどれだけ協力・連携してくれるか不安でしたが、教育委員会は「私たちも主体者としてやらなければ」と課題認識を共有することができています。

もう一つ、保護者の責任も定めました。子どもは子どもらしく生活する権利があると思うので、保護者はヤングケアラーを生まないよう努めなければなりません。でも、子どもが日常的に介護や家事を担わざるを得ない状況に陥った時には、保護者が行政に支援を求めてほしいです。「助けを求めてください、必ず救いますから」。そういうメッセージを込めた条例です。

吉良 メッセージ、大事ですね。条例制定後は、どのような施策を行っているのでしょうか?

杉島 2022年7月の制定後、まずは新聞、ラジオ、チラシ等で周知啓発活動を行いました。全27校の小・中学校を訪問し、スクールソーシャルワーカー、要保護児童対策地域協議会、地域包括センターの方々に直接協力依頼をして回りました。

実際に学校へ出向くと実態がかなり分かってきて、疑いを含めて現在47件(2023年2月時点)を把握することができ、数件は支援の必要なヤングケアラーと判断しました。そのうち、家事ヘルパー(1日2時間、週2回)を入れることができたご家庭もあれば、親御さんが介護・家事代行、学習支援等の支援を拒否するケースもあります。

吉良 やはり親御さんからの承認をもらうのが難しいのですね。

杉島 そうですね。ヤングケアラー対応は、貧困や児童虐待、ネグレクトなどの要素が背中合わせになっており、非常にデリケートです。そのような背景の中、支援を受け入れてもらうには、根気よくお話しして、信頼関係を築くしかありません。

やはり支援を受け入れる権限が、子どもではなく親御さんにあるのは大きなハードルです。そこへ介入していくには、条例という法的根拠が必要不可欠。大人ケアラーになれば、自分の意思で支援が受けられるので、権限のない子どもを守るという点でヤングケアラー特化の意味があります。

吉良 18歳で支援が途切れてしまうのでは、という懸念についてはどう考えていますか?

杉島 基本的に埼玉県の条例がケアラー全体をカバーしているので、市町村は管轄する学校や福祉の現場で18歳未満の子どもと直接向き合うため、市の領域として頑張るべきだと考えています。とはいえ、18歳になったら支援しないという意味ではなく、0歳からの子ども支援、3・6歳からの教育、18歳からの福祉の各部局が、同じ「主体者」としてケアラーに関われるよう、役所内では関係部署12課の連絡会議を設置しています。

“ラフ感”を生む支援のあり方

吉良 最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

杉島 「条例」と聞くと、少し堅苦しいイメージがあるかもしれません。でも、もっと気軽に「自分はヤングケアラーなのかもしれない」と吐露できるような“ラフ感”が生まれるといいなと思っています。ヤングケアラーを発見したら、「問題」ではなく、「一緒に考えていこう」という、温かいケアラー支援のあり方、空気感をつくることが重要です。入間市では専任のヤングケアラーコーディネーターを任命予定で、ヤングケアラーに寄り添える体制を構築します。また、行政職員から家庭にソフトに関わっていけるよう、家へ配食をしている会社さんなどからのアプローチについても検討しています。

吉良 杉島市長の想いが、条例や施策に込められていますね。

杉島 一人でも困っている子どもを発見し、支援ができて、そのご家庭を守ることができる。それがヤングケアラー条例の意義であり、私の一番の想いです。

・入間市のヤングケアラー支援のページ
https://www.city.iruma.saitama.jp/soshiki/kodomoshienka/kosodateshien/100/3039.html

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