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【元ヤングケアラー’sコラム】ヤングケアラーを支えるために、周りの大人ができること

※この記事は「ケアラー新聞(現ケアラータイムズ)第3号」からの転載です。

◆コラム執筆者: スクールソーシャルワーカー くみさん

私が小学生の時、父が脳腫瘍のため長野の病院へ入院となり、母も付き添いで長野へ。私と兄は祖父母の家に預けられ、両親と離れ離れの生活になりました。当時、祖父母の家から長野の病院まで片道7時間かかり、携帯電話もなく、母とのやり取りは、病院の公衆電話からかかってくる電話と手紙だけ。父は目も見えず耳も聞こえなくなっており、会話も歩行も困難な状態にまで進行していました。

その頃から私は体調を崩し始めました。授業中に、突然目の前に閃光が現れ、視野が欠け、吐き気に襲われた後、激しい頭痛と嘔吐を繰り返すようになりました。この症状が月に1・2回現れ、その度に早退しては、誰もいない部屋で横になりながら泣いていました。回復するまでに長い時間がかかりましたが、それでも両親は知らない土地で闘病生活を送っているのだから、私も頑張らないといけないと自らを鼓舞していました。

当時の私は、離れた両親に心配をかけないように、祖父母宅でも学校生活でも「いい子」でいなくてはいけないと思っていました。けれど、離れた生活は数か月が限界でした。会いたくて甘えたくて、それ以上は頑張れなかったのです。父は手術後に意識を失い、その後脳死になり人工呼吸器での延命が始まりました。月に1度、週末に父と母に会いに長野へ。会えるのは嬉しいのですが、道のりを思うと果てしなく、そして帰りを思うとどうして家族みんなで帰れないのかと、寂しい思いを押し殺していました。

そんな矢先に父が亡くなったと連絡がありました。家族みんなで帰れると信じていましたが、父の亡骸と共に静かに自分の家に戻ることになりました。

私の経験から、ヤングケアラーを支えるために必要なことは、まず「家庭の事情を知り、子どもの代わりに状況や大変さを代弁できる大人がいること」です。子どもは自分の状況や気持ち、困っていることが何かをうまく言語化できません。周りの大人が状況を把握し、代弁することで、子どもは「自分ひとりで家庭のことを抱えているわけではない」と安心することができます。 
 
そして、学校生活での異変に気付いて、さりげなく寄り添ってくれる大人の存在も必要です。学校で「自分はヤングケアラーです」と自ら訴える子は少ないため、体調不良や遅刻・早退・忘れ物・学業不振・不登校という違和感から、家庭の状況に変化がないか探ることが重要です。宿題や勉強の時間が捻出できない場合には、提出期限や試験日時等を調整するなどの特別な配慮も必要になります。家族のことを打ち明けられるような雰囲気づくりと、ヤングケアラーを合理的配慮の対象として捉え、福祉的な視点を取り入れていくことも大切だと思います。

「ヤングケアラーはかわいそう」という深刻な報道が増えたことで、「自分はそこまで深刻ではなく、ヤングケアラーではない」と、ケアをしている子どもが自覚を持てなくなる恐れがあります。また、家族から「あなたは犠牲になっていると感じているの?」と言われそうで、ケアラーと名乗ることに後ろめたさを感じることもあるかもしれません。一方、家族の障害や病気を周りに隠し、家族の秘密を守る大切な役割があると考えている子もいます。本来、ヤングケアラーだと名乗ることは、支援を求め安心につながるための「希望の切り札」であり、自分や家族を否定し孤立することではないのです。

以上のように、ヤングケアラーの心境は非常に複雑です。家族を大切に思い続けられる距離感を保ちながら、自分の将来に希望が持てるように、携わる専門家が丁寧に関わることが求められます。目の前にいる子ども一人ひとりが、安心を得ながら成長していくためにどんな支援が必要なのかを、子どもの持つ力を信じながら一緒に考えてくれる大人の存在が増えていくことを心から願っています。


くみさんがヤングケアラー啓発活動をしている「K&」インスタグラム
https://www.instagram.com/y.c.k2/
「K&」WEBサイト
https://concertmasterjp.wixsite.com/website


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