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平成29年3月17日法務省民商41号(発起設立の預金通帳の口座名義人の範囲について)について

平成29年3月17日法務省民商41号について。株式会社の発起設立の登記の申請書に添付すべき会社法第34条第1項の規定による払込みがあったことを証する書面の一部として払込取扱機関における口座の預金通帳の写しを添付する場合における当該預金通帳の口座名義人の範囲についてです。

要旨としては、特段びっくりするものではなく、一部は、従来から実務上認められていたことが通達として明確化された点に意義がありますが、再復習。

要旨として、3つのことに触れています。

(1)発起人が当該設立時代表取締役に対して払込金の受領権限を委任したことを明らかにする書面を併せて添付することを要すること
(2)発起人及び設立時取締役の全員が日本国内に住所を有してない場合の特例として、口座名義人は発起人及び設立時代表取締役以外の者であってもよいこと
(3)発起人から払込金の受領権限の委任は、発起人全員又は発起人の過半数で決する必要はなく、発起人のうち一人からの委任であれば足りる。

すべて、司法書士実務からは歓迎される通達であると思います。(2)については、渉外案件を多く扱っている司法書士の方から特に歓迎されているのではないでしょうか。私としては、(3)についてその実務上の取扱いを理論的に少し検討したいと思います。

会社法上、発起人全員の同意を得ることが必要な事項について32条(設立時発行株式に関する事項の決定)があります。重要事項なので、発起人の過半数ではなく、全員の同意を要するとされております。

これ以外については、会社法において、明文はありませんが、発起人の多数で定めることができるか(民670条1項:組合の業務の執行は、組合員の過半数で決する)、各発起人の単独で決定することができることとなります。
なお、設立時役員の選任は、発起人の「議決権」の過半数で決するとされており、頭数での決するわけではない点が異なります。これは、「発起人としての資格においてではなく、設立中の会社の構成員である株式引受人としての地位においてなす」と説明されているためです。

繰り返しますが、会社法に明文がないため、発起人の議決権の過半数か、各発起人が定めてもよいのか迷うこともありますが、実務上は、全発起人が同意することは容易なので、問題が顕在化していないのではないかと思います。

今回の通達において、なぜ、発起人のうちの一人からでも委任できるのか、発起人の過半数ではないのか。

POINT1:権限の暴走を押さえるための決議の観点

例えば、362条4項において取締役会の決議事項が定められています。昭和56年の商法改正で導入された規律ですが、それ以前は、一部の事項については、取締役会の決議なくとも代表取締役が自ら委任のもとで決定することが認められていました。このため、権限の暴走の可能性があり、少なくとも取締役会の決議を経ることで抑止的な意味があるということで定められました(もっとも、取締役会構成次第では取締役会の決議が形骸化されるおそれは当初から指摘されていました)。

この観点からは、設立当初から発起人の暴走ということがあまり考えにくいということから発起人のうちひとりからでも認められるという結論になったのではないでしょうか。なお、電子公告を定めた場合のURLについても発起人の過半数の決定まで必要ではないとされていますので、委任状にそのURLを記載することで足りています。

POINT2:従来の払込み実務

通常は、複数の発起人がいた場合には、ひとつの口座に全員が振り込み(入金)しています。しかし、発起人ごとの口座に振り込むことも認められています。例えば、発起人AはX銀行、発起人BはY銀行の口座に振り込み、それぞれの口座の預金通帳の写しと払い込みを証する書面を合綴して提出することとなります(もちろん、口座名義人についての縛りはありました)。

おそらく、この運用の射程の延長として、各発起人ごとの判断のもとで(発起人の過半数の同意を要することなく)委任ができるということになっているのではないかと推察します。

このような理由のもとで、各発起人から委任を受けることができるということではないのでしょうか。

もっとも、一人からの委任ができるといっても従来どおり、発起人決定書(同意書)に委任する旨が記載されることが予想されることから、結局、全発起人が委任先を定めるような体裁になるのではないかと考えております。

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