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商業登記規則及び電気通信回線による登記情報の提供に関する法律施行規則の一部を改正する省令案の変更の衝撃

1)省令案のパブリックコメント

 ご存知のとおり、令和4年8月18日法務省令第35号により、上記省令が公布され、9月1日から施行されることとなりました。
 通常、省令の施行にあたってはパブリックコメントに付され、形式的に外部の意見を聴いたうえで、施行することとされています(形式的な改正にとどまるものは、パブコメを省略することもできる規律となっております)。
今回は、令和4年2月16日に案件番号300080259として意見募集が開始され、募集期間の3月18日まで、衆目を集めました。
 特に、登記情電気通信改正による登記情報の提供の際に、「自然人の住所に関する情報」は、省略される、いわゆる、登記情報には、代表取締役の住所を非開示にする点について、注目を集めたのです。

2)省令案に至る道程

 代表者の住所を非開示又は非表示にすることは実は、唐突に出てきた案ではありません。履歴をさかのぼると、法制審議会会社法(現代化関係)の要綱試案にも同様の記載がありました。この際は、現行の制度の維持を求める意見が多数であったため、特段、改正の対象とはならず、個人的にも、公器である会社の代表者の住所の非表示はありえないとまで考えていましたので、特段、深く検討をしておりませんでした。
その後、流れがが変わってきたのは、平成21年3月31日、「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」でしょうか。重点計画事項として、会社の登記における代表取締役等の住所の非公開化の容認につき、平成21年度検討開始とされました。
 その後、平成26年会社法改正の際の会社法制部会第8回(部会資料8)や、令和元年会社法改正の際の会社法制(企業統治等関係)部会第1回(参考資料6)について、定型のように、代表取締役の住所の非公開化が経済界から強く主張されるようになってきました。
 会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案では、いよいよ、試案として、代表者の住所非公開が紙上に挙がるようになりました。 
 法制審議会は、法律について、主に検討されることになるため、私は、登記事項として、会社法911条3項14号がいよいよ検討対象になるのかと考えておりましたが、そこは、一直線に非公開化には向かわず、商業登記規則31条の2の改正案を提示することで、登記情報上の代表者住所非公開という目的を達することを狙ったものとなります。
 会社法制(企業統治等関係)第13回や第16回、第17回は、その方向性の確定のための議論がされたわけですが、拝見しておりました当時は、ひやひやしてことの趨勢を見守っておりました。
 上記の流れの中での今回の省令案のパブリックコメントとなります。

3)省令案の修正

パブリックコメントが出された後は、基本的に大きな方向性の展開は予定されていないと考えております。過去に、適格機関投資家等特例業務の見直しに係る政令・内閣府令案等パブコメへの反対意見が多かったので廃止されましたが、そんなこともあるのかといったぐらいの受け止め方でしたが、今回、自分が直接影響を受けるであろう省令案が改正されるとは思ってもいませんでした。修正後の省令は、みなさんご存知のとおり、登記情報提供サービスにおける会社代表者等の住所の一律非表示に関する改正部分を削除して引き続き検討することとなりました。
引き続き、検討ということで、なかなか予断を許せません。
司法書士の方は、普段から登記情報を利用しますので、修正前の省令がそのまま公布された場合には、登記申請に弊害が生じることが懸念されておりました。
まず、登記申請書には、会社の代表者の住所を記載する必要があります(商業登記法17条2項1号)。登記情報に住所が非公開であるならば、わざわざ、登記事項証明書により、その住所を確認する必要が出てきます(1年前、2年前のもので確認というわけにはいかないでしょう)。パソコンの前ですぐに確認できたことが法務局にいかないとわからなくなるわけですよね。大変な労力が必要となるのは想像に難くないでしょう。個人のプライバシーが重要とは思いますが、プライバシーの御旗のもとに非公開もどうなんでしょうね。
また、FATFではマネーロンダリングの防止を強く主張している折、実質的支配者となることが多い会社代表者の住所を一律、非公開化することに抵抗があるようにも思えます。

今後の流れが気になるところです。
では、また。



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