最初にハマったゲーム

 オタクというと漫画やアニメが好きな人のように思われるが、私はゲームが好きだ。それでも濃いゲームオタク(発売日にニンテンドースイッチを買うとか、未だにPC-FXを持っているとか)ではない。とても中途半端だ。

 家には小さい頃からマッキントッシュのパソコンがあった。父の会社の払い下げのものだった。私は触らなかったが、それはいつも文字ばかりが並んでいて、あまり魅力的に見えなかったからだ。
 7歳の時に東京・三鷹市に引っ越すと、母がライターの仕事に就いた。パソコンのソフトのレビューなどをしていたために、いくつかゲームソフトをもらってきた。これが私の中で最も古いゲームの記憶である。

「東脳」、「プリンセスメーカー」、「むづかしい本を読むとねむくなる」、「MYST」、「キッドピクス」。それと名前は忘れたが、けろけろけろっぴのゲームと、サン=デクジュペリ風のイラストがたくさんついたゲームがあった。
 自分の好きなものは、この5つのゲームに集約されると思っている。

 当時ウィンドウズはそこまで隆盛ではなかった。ウィンドウズ95が大旋風を巻き起こす少し前(というか、94年発売のマッキントッシュのゲームだからこそ入手できたの)だった。
 井の頭公園から吉祥寺駅に向かう、階段を上がったマルイの脇の道。むげん堂のはす向かいの建物の二階に、コンピューターソフトのショップがあった。
 当然買ってはもらえなかったし、私もおねだりはしなかったが、よく出入りしては、「このゲームは買えば家でプレイできるのだ」と思い、胸が高鳴った。

 この中でも特に私が好きだったのは「東脳」だ。大人になってからヤフオクで買いなおして、今もソフトが手元にある。

 東脳は、「LSDの作者が作ったゲーム」といえば、一部の人には通じると思う。プレイステーションで発売されたLSDというゲームが、ニコニコ動画が出てきた頃に少し盛り上がったから。
 魂を奪われた主人公・リンが、輪廻転生を繰り返しながら東脳という島を探検するゲームだ。
 世界観がしっかり作られており、音楽はテクノ系。生物はすべて異形で、当時にしては滑らかなCGが気持ち悪い。
 東の果てに浮かぶ島・東脳(見た目はディレクターの佐藤理の顔をそのまま使っている)は、魂を集めている。主人公のリンは東脳に魂を吸われ、取り返すために神主から魂を借りて東脳に向かう……というのが、序盤に語られる。
 この神主とどうコミュニケーションをとったのかとか、東脳から魂を取り戻すというのが実際よくわからないが、どうも天寿をまっとうしたり事故死ということではなく、本当に納得のいかない状況で死んだらしい。

 基本的には画面のあちこちを触って移動する。耳の穴や鼻の孔の奥に、美しい氷の湖や、一面ロウソクだらけの炎の電算室があるのだ。そして、大体ある程度進むと何かのギミックにより死ぬ。というより死なないと進まないからだ。
 主人公は死ぬと、「ビョウ」「トウ」「シャ」「カイ」「ジン」「レツ」「ザイ」「ゼン」という生き物(これがまた気持ち悪いのだ)に転生できる。生命の樹で目・鼻・口を選び、その組み合わせで8通りの生き物に転生する。
 そして転生すると、やらなければならない任務が与えられる。王様のために楽器を集めてくるとか、浄水器(美しい夢を見せるための機械)のねじを巻くためのねじまきを持ってくるとか、そういったものだ。
 任務が終わるとあなたは死に、その天寿を全うしたとするお札が与えられる。このお札を8枚集め、鳥居にかざすと、リンの魂を取り返すことができるのだ。

ところがこの8人の中で、予想外の生き方をする者が3人居る。

 1人は門番となる。序盤によく通る、氷の湖の通路。あなたは何かアイテムがないか逐一調べただろう。そこの通路に埋め込まれる形で、通りかかる人を見張っている。だが不意に現れた大きな生き物(それはいつか通った、いずれ通るあなただ)に踏みつぶされて死ぬ。何もしないうちに死ぬ。
 1人は生命の火を届ける配達人だ。いきなり空を飛んでいる。地面には等間隔に並んだたくさんのロウソク。目当ての1本を探してあなたは飛ぶ。ようやく見つけたそこにあなたは飛び込む。あなたは死ぬ。
 1人は……形にならない。重要な任務があったのだが、それを完遂するための重みに耐えかねて、生まれる前に潰れてしまう。あなたは死ぬ。

 だがこの3人は、どれもそれだけでお札をもらえる。ゲームとしては何もしていないのに、達成したと言ってくるのだ。

 もしかするとこれは手抜きかもしれない。7歳の自分はどの組み合わせでこの生き物になるか覚えていたので、とりあえず最初にこの3人をやることにしていた。
 でも私は時々、この3人に救われていた。道行く人や同級生が目的を持って行動しているのに引け目を感じているとき、「まぁ、とはいえ、私もこれでお札をもらえるかもしれないしな」と思うことができた。
 結構スピリチュアルなゲームであるし、私は特定の信仰があるわけでもなく、生まれ変わりや天からの啓示を信じてもいないけど、病や死が近い人に対して、重く考えずに接することができるようになった。


しかしこうそんなに真面目な話じゃなくて「東脳すごい面白いんですよ」って言おうと思ったのになんでこうなるのか。noteはおセンチになってしまうのでたいへん恥ずかしいですね。