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見つめている

事務所に行くとまず取りかかなければいけないのは書類の整理。
体調が悪い時には何日か休んだ間の書類が溜まっているので、それをまとめなければスムーズに業務が進まない。

乱雑さは心の乱れ。
まず机の上を綺麗にしなければ仕事を始められる気がしない。

いつものように何かに追い立てられるように書類や封筒を棚やファイルに仕舞い込む作業をしていたら、ふと手が止まる。
3年前まで仮母が使用していた古いらくらくフォンが出てきた。
思わず手がビクっとなり震え動悸を覚える。
らくらくフォン=docomoの高齢者用のスマートフォンだ。

3年前
「🍎のマークのスマホに変えたい」
どうしてもと言うので機種を選び購入契約し、使わないアプリを削除し、仕事関係の電話番号を全て分かりやすく登録し、文字の大きさ、入力からタップの仕方、アプリの終了から着信音まで何から何まで教えて設定し必要最小限にして渡した。
iPhoneを使用するなら最低限の知識も必要かもしれないが、覚えられないからそんなもの必要ない。
色々な設定をシンプルにしていくうち、後期高齢者にはiPhoneが1番使いやすい事に気付いた。
それまではらくらくフォンだったが、着信履歴が数件しか残らないから使い勝手が悪いということだったのだ。
あの人はいつも履歴から電話をしていた。
あとは使用するアプリはLINEのみ。

また何かあれば聞いてくるだろう。
1年間iPhoneを辿々しく使っていた。

そして

仮母の死後、見なきゃいいのにその間際まで使用していたiPhoneの中身を見てしまい、私は驚愕し心を壊してしまった。

今となっては、この時の経験があったからこそ猛毒だった仮妹弟と縁が切れているので、間違ってはいなかったと思うが、LINEの数件並ぶトークルームの少し見えた部分に私の名前が書かれてあれば、そりゃ誰だって会話内容を見てしまうだろう。

音が鳴らないだの小さいだのバイブにしろだの音楽を変えたいだのなんたらかんたら…いつも横に座って私の仕事の邪魔をしてきたのに陰ではこんな事を言ってたのか。
驚愕、怒り、悲しみ、そして心は冷えきった。
ふと前を向く。
怒りの矛先の存在が、この世にいないというのが1番の苦しみだった。

仮妹に、仮母にひっつく寄生虫と書かれていた時は、さすがに世界がひっくり返るかと思うほど驚いた。
自身もひっくり返り死ぬかと思った。
「私が寄生虫だと?!」
必要な養分も与えてもらえなかったのに、この人にひっついていたってどういう事だ…?と。
さすが同じDNA。仲良し母娘の会話だった。

悪意に満ちた仮母と仮妹のLINEのやり取りを

「もうこれで気が済んだだろう。お前は餌も貰えず利用されただけだった。どこにもお前を気遣うコトバも無いのが何よりの証拠。これを読んだならさっさと縁を切れ。」

そんな声を聞きながら読んだ記憶がまだ残っている。
たまに思い出すと胸の中央にまた大きな石が乗る。

憎い憎いiPhoneは叩き壊してしまった。
まだ機種代のローンは終わってなかったのに。

3年前のらくらくフォンを改めて見つめる。
その頃から私を蹴落とす悪巧みは着々と始まっていたのかもしれない。
何を書かれていたってもういいじゃないか。
このストーリーの登場人物は皆目の前にはもう現れないし、これからの私の人生に関わることもない。
今更同じようにショック受けることは無いだろう。
狂った人間の会話なんて何の得にもならない。
また私を壊してしまうネタが仕込まれているかもしれないけれど、どうせ弟からの金の無心の会話と
訳知り顔をし自分が1番賢いと思っている妹とのくだらない私への悪態だろう。
もうどうでもいいし、関係ないけど
またネタにして笑い飛ばせばいいか。
と言い聞かせる。

本当にそうなればいいけれど…。

私は古くなったカバーの端がすり切れているスマホを見つめる。
こんなもの、捨てりゃいいものを。
それこそ叩き潰して粉々にしてもいい。
ギュっと手を握り締める。

このカバー、私が買ってあげたやつだった。
気がつけばまた脱力して見つめている。

思い出すんじゃない。そんなどうでもいいことを。

コレがまだここにあるのは、何か意味があるってことなのだろうか。
あの人の亡霊に問いかける。
勿論、誰も何も言わない。
ただそこに古いスマホがあるだけ。

いきなり職場のパソコンをフリーズさせたり、電気を消したり電気製品を壊したりできたくせに
「すまない」の一言でも言う力も無いのか。
あるわけない。


今日も私はまた古いスマホを見つめている。

目につかないように上に備品を置き積み上げる。

そして仕事に取り掛かる。

このスマホにバッテリーを繋ぐのは一体いつの事になのか。

それともそんな日はもう二度と来ないのか。






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