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(約12000字) まだ来ない――。 薄い木製の屋根に壁。自然が豊かなこの場所にちょこんと建てられた簡素で小さな小屋の中、いるのは私一人だけ。上司から「異動先で住むアパートを決めてこい」と言われ、最寄り駅からバスに乗ってこのバス停に初めて降り立ってから早一年。一日に停まるバスの数を知ったときは「ええっ!?」と声を上げてしまうくらいに驚いたけど、今ではすっかり慣れてしまった。 お尻が冷たくなるボロボロの待合椅子には座らずに、代わりにくたびれた黒いトートバッグとビニール傘