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ショートショートなど(一話読み切り型)

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ショートショート、創作文をここに載せていきます。また、「地味さんに恋して」という日常の地味な存在に対する愛を語った物語も一話完結型で載せていきます。 ※ここに載せる物語はフィク…
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#掌握小説

【SS】土曜日のペーパークリップ

(1204字、2021年10月に作ったものです)  午後十時。クリック数回ののち、コンピュータ達を眠らせる。おやすみ。  仕事を終えた僕は、デスクの端に置いたマイボトルを手に取り、蓋を開け、冷め切ったコーヒーを一口飲んだ。今日は休日だから、このフロアには僕以外に誰もいない。  マイボトルの横に置いた二台のスマホのうち、一台が光った。僕は安堵の溜め息をつく。光ったのが業務端末じゃなく、私物のほうだったからだ。  君からメッセージが届いている。すぐに既読にしたくないというの

【創作文】霞みヨシノ

 (1501字)  私的定刻→深夜の零時。  インスタントな背徳を繋ぎ合わせて身に纏う。それがお洋服の代わりだから。  まるで語りかけるようにしてグラスに注いだお酒のなかに、塩漬けの桜をひとひら、するりするりと沈めたら、それを持って庭に出る。 「今日も土が気持ちよさそう」  彼の庭には私の裸足がよく似合う。私は今夜も、ふふっと笑って朧月夜にふらつくの。  どうしてあなたはハッキリ見えないのよって叫びながら。 「吉乃ちゃん、今日も全裸で何やってんの?」  お風呂上が

【SS】恐怖!! チャラい歯医者と僕

(1744文字)   仕事が休みの今日、僕は約五年ぶりに予約した歯医者に向かった。  歯医者に着くと、受付の人から「初診ですか? 今日はどうされました?」と聞かれたので、僕は「歯の被せ物が取れました」と答えた。  その後、必要事項を記入する書類を書き、名前を呼ばれ、歯科衛生士さんに案内された椅子に座る。衛生士さんは、「少しお待ちください」と言ってどこかに行き、一人になった僕がふと左斜め前に目をやると、口をすすぐ機械の上に変な紙コップが置いてある。 「何、これ……?」

即興演奏、お星さま(ショートショート)

 (1638字)  午後十時。  フィンガートレーナーをグランドピアノ横のサイドテーブルに置き、部屋を出る。ドアを開けると、降谷君が立っていた。 「降谷君。私、今から出かけるわ」 「――分かった」  二十四歳で同い年の降谷君はそれ以上何も言わない。彼は数種類の星形入浴剤を手に持っていたからきっと、今日はどれをお湯に入れるか私に聞きに来たのだろう。  彼と過ごし始めてから二か月が経つ。どうして一緒に暮らしているか、そして、そもそもどうして彼と出会ってしまったのかは、未だ

ウサギちゃん(ショートショート)

(498字) 「ねえ、アラームがセット出来ないのよ」  ウサギちゃんが困った顔をして、僕の膝に乗った。“ウサギちゃん”というのは、本当のウサギちゃんではなく、人間の女の子の名前。ウサギちゃんはショッキングピンクのネイルをした爪を持つ右手で、手のひらサイズの小さな目覚まし時計をぶんぶん振り回す。  もちろん、僕の膝の上で。 「ウサギちゃん、アラームがセット出来ないって、何で?」 「知らないわよ! うわーん!!」 「泣かないで、ウサギちゃん」 「うわーん!!」 「時間が必

本日の被害者(ショートショート)

(1659字)  よく知らないホテルで、よく知らない人間とともに目覚める朝が好きだ。夜じゃない。朝。   それを求めて、今日も仕事帰りの夕方にコーヒーチェーン店で甘ったるいラテを飲みながら適当に“本日の被害者”候補にメッセージを送る。 【ねえ、今から明日の朝まで暇? 悪いけど被害者になってくれない?】  流石に相手も仕事中か……。十五分ほど待っても既読にはならない。それよりこの男、名前なんだっけ?  私は過剰に摂取した砂糖で溶かされつつある頭ん中を何とか働かせ、記憶を