白い海

高い壁ぎわを歩いていると、わたしの鼻を魅力的なにおいが刺激した。
どうもそのにおいは、わたしの横にそびえる、この白い壁の向こう側から漂ってきているようだ。
わたしは壁の方に向きを変え、その壁を眺めた。壁はわたしの背よりも数十倍はありそうだが、わたしは身が軽い。なんとかよじ登ることができそうだ。わたしはその壁を登ってみることにした。

壁の頂上に近づくと、香りはさらに強くなった。酸いような甘いような、芳醇で複雑なにおいが絡み合っている。
わたしは、壁を登る手足にさらに力を込めた。

わたしはついに登りきり、壁の上に立った。壁の向こうには白い海があった。においは臨界点を突破し、わたしは立ったまま気を失いそうになった。
我慢できない。わたしはその白い海にカラダごと飛び込んだ。

わたしは白い海の中をもぐり、カラダ中にまとわりつく白くサラリとした液体を、思いのままに口に含んで咀嚼した。これを至福と呼ぶのだろうか。こくのある甘酸っぱさが舌の上に広がり、わたしは陶然となった。わたしは、白い海を泳ぎながら食べ続けた。

わたしの周りに影がかかり、視界が薄暗くなった。
見上げるより早く、頭上から大きな声が降ってきた。
「お母さん、ヨーグルトにアリが入ってるよ!」

#ヨーグルトのある食卓

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