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一千一秒一分物語 sの話

おーいと返事をした方向をみるとお月様に似たSが手を振っている。僕はベッドから飛び出して貝殻みたいな螺旋階段を駆け抜けた。時間は午前1時を過ぎていて稲穂や草木がまどろむ時間だった。なぜ僕に向かって返事をしたのだろうと訝しげに思いながら犀のような皮膚の手をつかんだ。Sは窓の外にいて手をふっているようだった。

ーそんなところにいたらあぶないじゃないか。

僕がそうたしなめると、少ししたらSが砂時計を持ちながら

ー君と僕は対偶関係にあるのさ。だから僕からは逃げられない

そういって笑った。僕はあっけにとられ彼を学徒のごとく詰りたくなくなったが意味不明なことを言われ僕はなにか言い返したくなった。

ーポランニーを読んだことはあるのかい

ーいや、ない

ーじゃあオーギュスト・コントは

ー知らない。誰だいそれ

知らないならあまり大層なことはいうもんじゃないな。煙草を吸ってくる。そういって僕は自分の家に戻ってベランダで煙草を吸った。