【ショートショート】 三人
「ここだけの話だから俺とお前だけの秘密だよ。絶対に内緒の話だからね」
「わかったよ。絶対に内緒にする」
「お前のことは口が固いから信用してるけど、万が一漏れたら、大ごとになってしまう」
「わかってるって。じれったいなあ。で、話って何?」
「いや、やっぱり今日はよそうかな」
「そこまで言ったんなら話してよ。こんな時間に、こんなところに呼び出しておいてさ」
「それにしても、不気味なところだな…」
「お前が呼び出したんじゃないか」
「まあ、そうだけど」
「今夜は三日月だね。そういえば三日月の夜には出るらしいよ」
「よせったら。出るもんか」
「でもお前の腕、鳥肌が立ってる」
「よせよ、寒いだけさ。で、秘密って何だよ」
「今日はやめておくよ。そろそろ帰ろう」
「煮え切らない奴だな。せっかくこんな夜更けに来てやったのに」
「あ、俺小便してくる。ちょっと待ってて」
「おいコラ、待てよ。逃げるなよ」
「馬鹿にするな。俺がそんな奴に見えるか?」
「悪いが今のお前は見える」
「残念だよ。ここでお漏らししても内緒にしてくれるか?」
「ああ。もちろん」
「境内の裏で立ち小便してくる」
「罰当たりだな。よしなよ」
「もう限界だよ。膀胱が爆発しそうだ」
「小便小僧…」
「なんだと貴様!俺の膀胱が破裂寸前だってときに!」
「え?俺は何も言ってないけど」
「嘘つけ、さっき小便小僧って俺の耳元で囁きやがって!」
「俺はずっとここにいる。お前の耳元なんかで言えるかって」
「じゃあ誰なんだ?」
「知るかよ」
「ここでしたら殺す…」
「え?だれ?」
「なんか聞こえた?」
「錯覚だろうか」
「空耳って言うんだよ」
「立ち小便なんかしちゃいかん。侮辱だぞ」
「今、はっきり聞こえた。野太い男の声が…」
「俺も聞こえた…」
「ごめん」
「どうした?冴えない顔して」
「ごめん、漏らした」
「マジか」
「マジだ」
「やべえ、殺されるかも…」
「ああ、とにかく逃げよう」
「さっさとずらかろう」
「逃げながらでいいから教えて。結局、内緒の話って何?」
「生きて帰れたら教えてやるよ」
「それにしても、あいつはいったい誰なんだろう」
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