オヤジよ、もっと話してくれ
俺の実家は設備屋
小さい頃から親父が一人で水道や住宅設備の仕事をこなしている。
俺が生まれた時にはすでに設備屋として一人親方として働いていた。
親父は俺が中学生くらいになると重たいものを持つ時だけ手伝い(アルバイト)として一緒に現場に行ったりした事もあった。
バイト代で2000円くらいお金を貰えたりした。
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親父と俺は家族だが、そこまで親密な中では無かった。何か喋るとしても事務連絡くらいでしか喋った記憶はなかった。
我が家は余り裕福な家庭では無かった。
自営業で朝は早く、帰りもなんだかんだで遅かったから家に親父がいる事自体珍しかったから、話し相手は基本的には母さんや兄とばかり話していた。
外食は月に一回行くか行かないか。
行く場所も基本的には近くのお好み焼き屋さんだった。
そんな貧乏な我が家だったが年に一回だけイベントがあった。お金のかかる旅行には行けなかったのだが、男だけのキャンプ会。
そのキャンプが楽しみで1泊2日の男旅は恒例で、俺と兄と親父の3人で行っていた。
釣竿を持って。
軽自動車のワンボックス。
親父が運転手で後部座席もない車だったから兄と2人で荷台の上で楽しく向かった。
そこで男だけで話す時も何か俺たち兄弟がダメな事や危険な事をする時以外は会話にも入ってくることは無かったから基本的に無口な親父であった
そんなこんなの生活で中学生2年で俺が万引きで捕まるという事件があった。
シュールな空気感の中、母さんから
『お父さんが話があるって』と言われ
一階の仏間で正座した父に言われた言葉。
『おれも、お前たちとなかなか話をしないからお前が何をしているかとか分からない。ただ一つだけ、これだけは守ってもらいたい。人に迷惑をかけるな』
なかなか、中二の俺には重くのしかかるその重圧なキーワードが現在に至るまで俺の座右の銘として確立していた。
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時は流れて私も大人になり、紆余曲折あったが、結果的におれも設備関係の道を歩む様になった。
汗臭い仕事。泥まみれクソまみれ。
会社自体も大きくなく、プレハブの事務所で
親父と自分と従業員は3人ほどの小さな会社。
いつも、時間に追われて慌ただしくも仕事をこなす毎日。
そんなある日。
親父からの提案で看板を作ることになった。
息子の俺にもどんなデザインが良いかと相談を受けた。
俺は、デザインに自信があるわけでは無いがどうにかその看板を作ってみたいと思っていた。
息子『どんなデザインが良いとかある?』
親父『水道屋っていうはわかった方がよかねー』
なるほどなるほど。
息子『オリジナルのマークとかは入れても良いかな?』
親父『そうねー、、、』
気になる事や、色合いなどとりあえず親父の好みは一通り聞いたりした。
そうして、
一週間ほど過ぎた時。
親父の知り合いで看板屋がいたから
そこに委託して看板を注文したと言われた。
日々の忙しさを理由に話を聞くだけ聞いて動いていなかった俺は全く看板の事を後回しにしていた。
一応届いた看板のデザインを見せてもらった。
とてもシンプル、というか古い昔ながらのイメージの看板だった。
1番上に指定水道店、真ん中に会社名があり、その下に電話番号。
普通の至って普通の看板。
その看板の文字の色も会社名が赤色だった事から少し違和感があった。
俺は親父に
『ごめん、一週間待ってもらえるかな?ちょ、デザイン考えたいから』
と言い残し、仕事の合間で色々リサーチを開始した。
街に飾ってある看板や色合いや文字の大きさ。
インターネットで全国の設備系の看板をググりまくり沢山のデザインを見て回った。
初心者ながら自分の会社の看板は通りから見えて一発で意味が分かる会社にしたいという思いが芽生えた。
その日の夜からデザインの工作が始まった
アピールしたい文字やフォントの形。
やったことない分野で苦戦の連続。
入れたい文字を入れ過ぎると文字が小さくなるし、色もバラバラだとしっくりこない。
お手本にしたい看板をネットで探して、
同じ配色、文字列で、作ってみたりもした。
3日位かけてようやく、それらしく出来上がり、妻や兄弟や同僚に見てもらい修正。
また作り直し、修正。その繰り返し。
深夜遅くまでかかることもあった。
そんなこんなで約束の一週間が経過。
ようやく完成。
これ以上修正することないなって思えるくらいの完成度で看板のデザインを作り上げた。
俺はさっそく親父の元へその看板のデザインを持っていた
親父はその看板を見るなり、
少し顔が硬っていた。
おもむろに口を開いた。
『この上にあるね、町の水道屋はいらんかなー、
親切丁寧も。これも、あ、これも。、、、
この横のイラストもいらんかなー。。。』
添削が終わった。
そして、その看板に残された文字は
看板屋に頼んだ″あの″シンプルなデザインになっていた。
元に戻ってるやん!(・Д・)
俺がよっぽどダメな事してしまったからなのか
あんなに無口な親父にめっちゃ突っ込まれたって話。
でした。
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