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電子カルテを開示希望したら25万円請求された話(2023/9/27追記)

カルテ開示の経緯

我が家のおもちは小児がん治療のため、人生の大半を病院で過ごしました。
生前、主治医と電子カルテを見ながら話していたとき「懐かしい写真がありました」とCV(中心静脈カテーテル)が入っていた赤ちゃんのときの写真を見せてくれました。
電子カルテにはもっとおもちが生きた証があるのではないか。そう思い、闘病していた1年6ヶ月間のカルテ開示を希望することにしました。

電子カルテの開示請求

2023年3月6日、電子カルテの開示請求。書面を渡され、そこには手数料5000円と1枚あたり50円かかること、カルテを実際渡すには1ヶ月〜1ヶ月半程度かかることなどが記載されていました。

カルテの枚数とお値段

2023年3月27日、初めての月命日の日、病院のカルテ開示担当の方から電話がかかってきます。
「請求いただいた電子カルテですが、確認したところ5000枚近くあることが分かりました。25万円ほどかかりますが、どうしますか?」と。
入院生活が長かったこともあり、それなりの量になるのは予想していましたが、5000枚という数字と金額には驚きました。同時に、5000枚紙で渡してくるって、本気で言ってるのかな?と驚きを隠せませんでした。
私は元々受け取った書類は全部電子化してクラウドに格納しているので、電子カルテもそのつもりでいました。5000枚をスキャンするのを想像するだけで骨が折れるので、「可能であれば電子データで受領したい」旨を伝えます。すると、「前例がないから難しい」と断られました。前例がなければ作ればいいのでは…という言葉が出そうになりましたが一旦飲み込み、「一度院内で検討して欲しい」とお伝えし、再び電話を待つことになりました。

情報収集

その日の夜、Twitterで何気なく呟いたところ、色んなご意見をいただきました。

医療従事者や医療事務、電子カルテシステムに携わるITベンダーの方や現行の制度に違和感を持つ方など、それぞれの立場での様々なご意見をいただきました。
いただいたご意見を元に、どうしたら電子データで受領できるか、自分なりに調査・問い合わせすることにしました。

  • 医療DXに携わる友人への問い合わせ
    この友人は知ってほしい、小児がんとワクチン接種という記事でファクトチェックを依頼した医師兼医療コンサルタントです。「医療従事者と患者の情報の非対称性をなくす」という志を持ち、患者が適切な治療を享受できるよう、医療DXに携わっています。
    彼女は電子カルテ標準化にも取り組んでいて、電子カルテの現状を教えてくれました。例えばカルテの内容が同じカルテの機種でないと読みこめないため、病院間のデータ授受はほぼ行われていないこと。少し前までカルテは病院のものという認識が強かったことから、PDF等に変換して通常のパソコンで閲覧する仕組みになっていないこともある等です。
    この話を聞いて、電子データで受領するのは案外難しいかもしれないと、いきなり暗礁に乗り上げた気持ちになりました。

  • 厚生労働省のガイダンス読み込み
    先のツイートの返信で『カルテ開示のここが問題!6選』というリンクを教えてくださった方がいました。リンク先で厚労省が『医療・介護関係事業者における 個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス』という、医療において個人情報をどのように扱うかのガイドラインを設けていることを知ります。この中に”本人からの請求による保有個人データの開示(法第28条)”という項目があり、”開示の方法は、書面の交付又は請求を行った者が同意した方法による。”と記載されています。友人の言葉を聞いて怯んでいましたが、このガイドラインを提示すれば、少なくとも「前例がないため」と門前払いされることはないのではと踏みました。

  • 関東厚生局へ問い合わせ
    上記ガイドラインで方向性は見いだせたものの、病院と交渉するためには厚生労働省か、もしくはそれに関わる組織の言質が欲しいと考えていました。そんなときにTwitterで大学院の同期が関東厚生局を教えてくれ、問い合わせてみました。
    残念ながら厚生局は「健康保険法等の規定に基づき、保険医療機関等の診療報酬の請求に関する業務を担当している。該当のケースは業務範囲外なので返答はできない」とのことで、私が求めている返答はいただけませんでしたが、管轄の保健所と東京都福祉保健局「患者の声相談窓口」を紹介してくれました。

  • 管轄の保健所問い合わせ
    地元の保健所へ電話で連絡。担当者に確認して折り返していただきましたが、「医療機関に対して何かを強制することはできない」とのことでした。ここでも東京都福祉保健局の「患者の声相談窓口」を紹介されました。

  • 東京都福祉保健局の「患者の声相談窓口」
    患者の声相談窓口」は患者が適切な医療を受けれるよう相談に乗ってくれる窓口です。私は都内在住なので東京都の窓口に連絡しましたが、全国に窓口があるようです。こちらへは何度か電話しましたが、全く繋がらず、繋がるまで待とうとしても一方的に切れるので梨の礫でした。

門前払いされそうになる

結局厚生労働省のガイドラインの言質は取れなかったものの、提示するだけしてみようと思っていた矢先の2023年4月4日、再び病院の電子カルテ開示担当窓口の方から電話がかかってきます。このときも「病院の規則で電子化した状態では渡せない」と断られました。そこで、前述したガイドラインを伝え、「電子カルテの仕様上難しいので諦めるが、そうでないのであれば再度検討して欲しい」と伝えます。
受け答えに気を取られて開示担当の方には伝えそびれましたが、今回私が電子データを希望したのは紙で出力するよりも病院側のコストを減らせるのでは?という思いがあったこともあります。Twitterで呟いたときも医療事務職やベンダーさんが難色を示されていたのはその枚数の多さです。5000枚印刷して製本するとなるとそれなりに時間とコストが必要になり、病院のリソースを圧迫するはずなので、なるべく病院側も私も負担が少ない方法で決着したいとの思いがありました。もちろん、電子カルテは病院により仕様が異なるので、一概に電子データ提供=手間が省けるわけではないようです。あくまで素人考えですが、交渉が可能であれば、双方が納得できる落とし所を見つけたいと考えていました。

病院内の仕組みがないと断られる

2023年4月17日、再びカルテ開示担当の方から入電。
「現状、病院では電子カルテを電子化してデータを提供する仕組みができていない。仕組み構築には恐らく半年以上の時間がかかる」と言われました。これが病院内での正式な決定という回答でしたので、口頭ではなく書面にして提示してくださいと依頼しました。

電子データ提供の検討開始が決定

このまま電子データで受領できないのであれば、関係省庁や政治家に陳情しようと考えていた2023年4月20日、カルテ開示担当者から想定外の電話がかかってきます。

なんと、今回私が何度か連絡して電子データでの提供を熱望したことにより病院の経営層まで話が伝わったようで、2023年度内に電子データ提供の仕組みを構築するため、協議が始まることになりました!
正直のところ、交渉の余地を感じさせられないくらい断られ続けたので、まさかこんな展開になるとは思わず、拍子抜けしてしまいました。
院内で仕組みを構築するには数ヶ月かかるようで、一旦紙ベースでの電子カルテ開示は中断していただき、データでの提供ができるようになったら再度ご連絡いただくことになりました。

謝意

今回、電子カルテがデータで受領できないことを何気なく呟いたことで、思った以上の反響をいただきました。それぞれの立場からの様々な意見があったお陰で多種多様なアドバイスや意見、更に実際の仕組みについて教えていただけました。
病院で仕組み構築に向けて検討が進むようになったのは、SDGsに関心が高まり紙の無駄遣いを減らす傾向にあることや、マイナンバーカードが健康保険証代わりに使えるようになったことなど、時代の流れも味方してくれたのもあると思います。
この経緯を書き記したのは、同じように電子カルテを紙ではなくデータで受領したいと考える人の参考になればと思ったからです。
また、法律や省庁のガイドラインなど信頼性のおける指針を元に交渉に説得力をもたせる方法や、自分と相手にとって落とし所を見つけるやり方も誰かしらの参考になると思い、書き記しました。この辺りはグロービスで学んだ『パワーと影響力』『ファシリテーション&ネゴシエーション』の講義がとても役に立ちました。
先日グロービス経営大学院の同期と話していましたが、グロービスでは経営に関する知識だけでなく、物事を推し進める上での考え方や逆境においても諦めずに立ち向かう姿勢を学ぶことができ、業務以外の様々な場に活かせています。

色んなお知恵を拝借できたお陰で数ヶ月後にはカルテを電子データで受領できそうです。過去の診療記録や看護記録が読みながらおもちと過ごした日々に思いを馳せられるのを、今から楽しみにしています。
改めて、助言いただいたり見守ってくださった方々、有難うございました。


2023/09/27追記

先月電子データ受領したのに、ここに追記するのをすっかり忘れていました!

電子カルテはまだ半分くらいしか見れていませんが、見たかったおもちの写真が沢山あり、泣きながら見てます。カルテ開示してよかった…

改めて、心配してくださった方やアドバイスいただいた方、有難うございました!

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