昔、ここは何処でも煙草が吸えた世界だった

深夜のファミレスに呼び出される。私は今煙草を吸いたいので  非喫煙者の貴方にとっては毒になる等と言ってみたが。

「特に話題は不要だ。目の前で煙草を吸おうが煙管を吸おうがなんだって良い。俺はこの夜、世界に1人だけな気がして、孤独に殺される。」

24時間営業のファミレスに呼び出される。先輩は客が少ないこの店が好きで集まる場所は決まってここ。あのコンビニはずっと同じおじいさん店員がいる。あのおじいさんは実は何人も居るのかもしれない。お前が普段会ってる友人も、実は同じ顔のそいつが沢山居て、お前に会っているそいつは5000人の同じ顔の1人だけなのかもしれない。等と毒にも薬にもならない話をしながら生姜焼き定食を、食べる。インスタントの味噌汁が私は好きだった。

3時間程、そんな何も生まれない時間が過ぎた。27時頃だった。

「先輩、そろそろお暇しましょう。明日が休日とはいえ、寝た方が宜しいかと。体内時計が狂うのは、孤独感とやらには、余計に良くないそうですよ。」

割り勘で会計を済ませて、朝の嫌な光が滲み出る駐車場で、約束を交わした。

「今日はよく寝て、明日また会えたら、会いましょう。」
「明日もここで、俺の前で煙草吸ってていいよ。」
「それは良いですね。では、おやすみなさい。」
「寝れないけどね多分。このまま帰って1人でぷよぷよやるわ。じゃあね。」

帰り道には朝日が染みてきた。人々が動き出す時間に眠るのは、自分だけが違う歯車で動いてる気分になるから不得意だ。

後々聞いたが、先輩は重度の喘息持ちだった。

私にはやらなければならない事がある。禁煙と、ぷよぷよの練習と、彼が1人で夜眠れるように願う事だ。
願う事しか出来ないが。

彼と過ごす時間は好きだが、このままでは1人で夜を過ごせなくなって、いつか、壊れてしまう。
そう思いながらも、次に眠れない夜を共に過ごして欲しいと願われるのなら、テレビゲームがあればそれで良いのかもしれない。

まあ禁煙だなんだと言ってる間に、世界からは、灰皿のある店が無くなるのだが。

朝になると空は太陽と雲しか見えなくなる。星も月も宇宙も、全ての人間を抱き締めて、穏やかで、苦しみの無い夜をくれたら良いのに。

人と人だけでは、脆すぎる。

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