のなみゆきひこ

UC二世。noraco.org という反戦・反資本主義運動にかかわっています。

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最近の記事

浮浪者モモにまなぶ生活保護術——ひとりではじめるのら公務員生活

暇ってなんだろうあなたは明日暇ですか。最近、日本語を勉強中の人にそうたずねられて、すこし困ってしまった。仏語圏から来た人だったから、たぶん「Es-tu libre demain ?」という文が念頭にあったのだとおもう。英語にすれば「Are you free tomorrow?」。それを逐語的に日本語に置きかえたような質問だった。 あなたは明日暇ですか。日本語としては、こころなしアグレッシブな感じがする。ひとつには「あなたは」という言いまわしがあまり日本語らしくないせいかもし

    • なごること、すむこと⎯⎯ホームレスとネームレスのあわいで

      前略 わたしは、太郎というものです。どちらかといえば、桃ではなく、浦島のほうです。お手紙、ありがとうございました。お手紙、というのは、ご新著の『ホームレスでいること』(創元社、2024)に添えられていたもののこと。すべて読みとおしたときには、日が暮れかけていました。きづけば目の前の善福寺川がいちどきに輝きはじめています。夏の日のなごりをうけて。 わたしはいま、川をさかのぼってきた末に、ほとりのベンチに体を休めることにして、このお返事をかいています。ちょうどいましがた「なご

      • 山上徹也と神の子どもたちはみな

        〒534ー8585 大阪府大阪市都島区友淵町1-2-5 大阪拘置所気付 山上徹也様 前略 安倍晋三元首相が血まつりにあげられるという事件が二〇二二年七月八日におきた。中国語圏では「名銃安倍切」とも呼ばれた手製の散弾銃の引き金をひいたのは、当時まだ四一歳無職のあなただった。犯行時の残金は約二十万円。百万円におよぶ借金をかかえていたとのこと。統一教会という宗教団体へのうらみがあり、祖父の代から教団との縁があったことから被害者をねらうことにしたらしい。 事件の日の未明、天の川

        • 宗教二世がフランスで考えた中上健次と社会物語学のこと:路地=物語を読みなおす 3/3

          (前回の記事) うつほのヴァイブレイション  ボブ・マーリーとの面会の日は緊張のために朝からひどい腹痛に悩まされていた、と中上健次はふりかえって言う。信者としては無理からぬことだったのだろう。なんといっても、ボブ・マーリーの滞在するサンフランシスコのモーテルに招かれ、差しむかいでの対談が許されたのだった。中上の暮らすロサンゼルスからは飛行機で一時間ほどの距離。機内のなかではアノラックを腹巻きがわりにして、腹部にじかに手をあてた。当時の中上は、自身がシャーマンの素質を持って

        浮浪者モモにまなぶ生活保護術——ひとりではじめるのら公務員生活

          宗教二世がフランスで考えた中上健次と社会物語学のこと:路地=物語を読みなおす 2/3

          (連載の続きになります。これまでの記事はこちら。) うつほのうつろい  中上健次の前期物語論は「コードとの闘い」を掲げて既存の音楽の枠組みを突き崩そうとするフリージャズへの共感とともに始まった。物語と音楽とを類比的に重ねあわせながら自分なりの創作論を試みた中上にとっては、両者はともに「うつほ」というがらんどうの穴から響いてくるものだった。アルバート・アイラーのサクソフォンも、セビリアの飲み屋で聴いたフラメンコギターも、かつてジプシーが暮らしたというスペインの山中の洞窟も、

          宗教二世がフランスで考えた中上健次と社会物語学のこと:路地=物語を読みなおす 2/3

          宗教二世がフランスで考えた中上健次と社会物語学のこと:路地=物語を読みなおす 1/3

          (連載の続きになります。これまでの記事はこちら。) 中上健次の後期物語論(1983-89) 中上健次の物語論はつねに何かを読みかえるため、何かをまったく別の切り口から捉えなおすためにあった。そして、それはつねに何らかの危機感に突き動かされてのことだった。前期の物語論の背景には、1977年ごろから行政が推し進めた「路地」の取り壊し事業があり、土建屋である中上の一族も一役買っていた。中上健次はそれに強く反対した。そこで部落青年文化会という組織を地元で立ちあげ、部落問題や近代文学

          宗教二世がフランスで考えた中上健次と社会物語学のこと:路地=物語を読みなおす 1/3

          熊野大学の思い出(2024)

          家に帰るまでが遠足、という慣用句(?)がある。もともとは学校行事の締めくくりの訓示にでも使われていたのだろう。祭気分のまま下校して羽目を外してもらっては困る。気を引き締めろと。それがいまでは学校の塀を越え、物事にあたるときには事後処理もふくめ最後まで油断してはならない、といった意味あいで広く用いられるようになった。 僕はそこで、こんなふうに思う。遠足後にまっすぐ帰ってゆける場所があるなら、それでいい。しかし、もし帰るべき場所がないとしたら、どうなってしまうのだろう。あるいは

          熊野大学の思い出(2024)

          山上徹也さんへの手紙 2

          〒534ー8585 大阪府大阪市都島区友淵町1-2-5 大阪拘置所気付 山上徹也様 (前回の手紙)前略 あなたはガルシア=マルケスの『百年の孤独』を読んだことがありますか。ぼくは一度だけならあります。もうほとんどの内容を忘れてしまいましたが、なぜかある一場面のことだけは記憶に焼きついています。ホセ・アルカディオという男が寝室にこもり、自分の頭を銃で撃ち抜いた直後の場面です。血の滴りが寝室のドアの隙間から流れてきたかと思うと、そのまま居間を横切って道に出て、一切の迷いのない

          山上徹也さんへの手紙 2

          山上徹也さんへの手紙 1

          〒534ー8585 大阪府大阪市都島区友淵町1-2-5 大阪拘置所気付 山上徹也様 拝啓 盛夏の侯 七夕の日がまた近づいてまいりました。 七月八日に起きた事件の前夜に見た天の川のことをぼくはよく覚えています。いまでも目をつむり耳をすますと、耳の奥の闇のなかを光り輝く川の流れてゆく気配がするのです。 七夕は遠く隔てられた二つの星がもっとも接近する日。織姫と彦星のお話の伝わる東アジアの国々では、むかしからそう考えられてきたようですね。ぼくはその日、日本から海で隔てられた大陸

          山上徹也さんへの手紙 1

          静かなストライキの起こし方 3

          コモン、コモナー、コモニングをめぐって、マルクスを読みなおす  マルクス主義研究者の斎藤幸平さんは「コモン」というものをキーワードのひとつにしてカール・マルクスの思想を読みなおしている。斎藤さんによれば、資本とはそれまで商品として扱われてこなかった公共財であるコモンを占有して商品化する運動なのだという。その典型として、かつて数度にわたってイギリスでおきた土地の囲いこみ(エンクロージャー)がある。資本家が利益追求の仮定で農民を土地から追い払い、その結果として都市に流入した農民

          静かなストライキの起こし方 3

          静かなストライキの起こし方 2

          物騒な革命、静かな革命 万国の労働者よ、団結せよ、という有名な煽り文句がある。マルクスの『共産党宣言』(1848)によって知られるようなった言葉だ。Wikipediaによれば、初出はフローラ・トリスタンという女性フェミニストの『労働者連合』(1843)だという。気になったので、英語版に目を通してみた。しかし、それらしき煽り文句は見つからなかった。そのかわりに、エピグラフには「Workers, unite-unity gives strength」とあった。「労働者よ、団結せよ

          静かなストライキの起こし方 2

          静かなストライキの起こし方 1

          生活保護についての覚書 1. 全国の若者よ、無職になろう そんな煽り文句がふと思いうかんだ。  いつものようにコタツのなかでみかんを頬張りながら漫然とツイッターをながめていたときのことだった。 「オーストラリアにワーホリで来てから4年3ヶ月目。ついに2000万円貯まりました」というつぶやきがまず目にとまったのだった。  この手の話は特に円安のはじまった2021年以降、様々なところでささやかれるようになってきている気がする。たとえば、2023年の2月には「安いニッポンから海外

          静かなストライキの起こし方 1

          Christmas Eve By Eduardo H. Galeano

           毎年、クリスマスが差し迫ると、エドゥアルド・ガレアーノというジャーナリストによって語られた短い話のことを思い出す。彼がフェルナンド・シルバというニカラグア人の医師から直接聞いた話であるようだ。それが「クリスマス・イブ」という題で文章化され、英語に訳されたものが『The book of embraces』(1991)という本に収められている。現在ではInternet Archiveで閲覧可能になっている(p.72)。とても短い話なので、ここに和訳しておく。  クリスマスまで

          Christmas Eve By Eduardo H. Galeano

          卵刈り空青ざめる

           はとのことが生まれつき好きだった。幼年を過ごした名古屋市昭和区の2Kのコーポでははとがよくベランダに降りたった。赤ん坊の私はその姿を見るたびに並々ならない興味を示したらしい。生まれてはじめて口にしたことばが「ぽっぽ(ぽおぽ?)」だったという。パパでもママでもない。生粋のはと好き、はとっ子だった。そんな自分は、はとのことをハトとカタカナで書くのに抵抗がある。イヌやネコのような動物としての概念を話すならたぶんハトと書く。けれども、ひらがなに開かれた「はと」がいちばんしっくりくる

          卵刈り空青ざめる