卒業の手紙が届かない

アイドルを卒業して一年と三ヶ月が過ぎた。
卒業した瞬間にも数回言われていた言葉だ。手紙が届かないと。
私が卒業する時にライブの特典としてS席を予約してくださった方に私の直筆お手紙をお渡しする約束をしていた。
チケットが完売したと同時にマネージャーさんから誰に手紙を書くのか言われていた。ので、私は言われた通りの人に手紙を書いた。多分、色んなことを書いた。だって色んなことを思っていたから。手紙はあまり好きじゃないがたまに書くにはいいものだ。そんなふうに思いながら全員に手紙を書いて私はアイドルを卒業した。
数日経って、SNSにファンの方から連絡が来るようになった。
「卒業の手紙が届かないんだ」
届かないってなんだ、私は書いたのに。
手紙をどう経由して行くのかは私ではなくマネージャーさんが行っていた。
だから多分、上手く送れていないとか住所に間違いがあったとかそういう理由だと思う。そういう不備で届かないんだ、多分。

私は「卒業の手紙が届かない」と言われる度に
それはそれは申し訳ないと思いつつ、どうしたいとも思わない。
強いていえばもう一度書くことは絶対にない。
書きたいと思わない、書きたいと思えない。

卒業して一年と三ヶ月が過ぎた。その間に私はアイドルでは無くなったし色んなものを見て色んな感情が湧いてアイドルでは無くなった。アイドルをしていた自分も好きだし今の自分も大好きだ。だからもう書けないのだ。卒業が決まって自分のやりたいことへ突き進めることへの喜びと本当に卒業して大丈夫なのかという不安を胸に毎日毎日卒業までライブをしていた私の気持ちを今はわからない。はっきり言って手紙に何を書いたかも思い出せないし、私が「じゃあ申し訳ないからもう一回書くね!」と言ったところでそれはもう21歳の女が書いた文通に過ぎない。

だから私は私の手紙が届かなかった人に申し訳ないと思いつつ、絶対に書くことは無いということをnoteに書いた。

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