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つめをぬる


私の職場は身だしなみに、まあまあ厳しい。
例えるなら学校の校則でお馴染みの明るい髪色、ネイル、派手なメイクが禁じられている。

最初は働くということはそういうことか、とあまり気にしていなかったがここ、1,2年で自分の見た目や服装について考えたり悩んだりすることが極端に増え頭を抱えていた。

抱えすぎて眠れなくなったり泣いたりもしていた。

そういったことが常に頭の9割を占めていた。
他にも考えることあるだろーって言いたくなるのもわかるし自分でも他のことで埋めようとしたがやっぱり、無理矢理塞いだ穴からは次々とこぼれ落ちてしまう。

私は自分の容姿に酷く自信が無い。
もちろん、容姿以外も自信が無い。
誇れるものも得意なことも人前で自信を持って語れることも何も無い。そういった自分の嫌いなところを見つけては落ち込んでいた。

落ち込んで落ち込んでまた眠れなくなって泣いて目が腫れて
翌朝、さらに醜くなった自分を見て後悔した。

後悔して病んで自分を好きになろうと何度も決意して外に出て、かわいい子を見つけてはまた、病んでいた。

私がここまで容姿に執着するのはきっと、それでしか戦ったことがないからだ。何をしてもかわいいと言ってくれるファンがいて、歌って踊ってる私をかわいいと言ってくれて、かわいい私を好きになってくれてかわいい私に会いに来てくれて、そしてまた、今日もかわいかったよと言ってくれる。

かわいいって呪いだ。いや、かわいいって正義なのか?
かわいい私がそうでなくなったら離れていくのか。そもそもかわいいってなんだ。何がかわいいの基準なんだ。わたしはもうかわいくないのかな?私、もう可愛くないな。

可愛くないなに変わるまであっという間だった。
ある日急に外に出るのが怖くなった。
急にと言うのは唐突に、と言うよりかはじわじわ蝕まれていたものがはっきりと顔を出した瞬間だった。

人が、人の目が、私を見るその目が、怖かった。
何度も何度も見知らぬ人に笑われてると思った。
聞こえるように、見えるようにひそひそ話をされるのが怖くて常に顔が引きつっていた。

写真に写るのも怖くなっていた。
好きだったポートレートのモデルも断るようになった。
とにかく「私なんか」を口癖に生きていた。

あからさまに落ちていた私は性格も余計に暗くなっていき物事が全て良くない方へ進んでる気がした。
誰かと話す時は大抵自分の悩み事を話し、常に周りから励まされていた。その励ましさえも、響いていなかった。


だけどある時、ふとこんな自分の方が嫌だなと思った。
自信を持とう、かわいくなろう、と言い聞かせるのではなくこの自分を受け入れようと思った。
受け入れる中で、少しでも自分が自分の理想へと近づければそれでいいんじゃないか。
こんな簡単なことを私はいつまでも出来ずに受け入れられずに、本当の私はもっと素敵なんだと夢を描いて逃げていた。
逃げても逃げてもその先に光はなくて、逃げる私を追い込むように体に不安がまとわりついてその度に私は大泣きして暴れていた。

自分を受け入れるのって本当はかなり大変で、体力的にも精神的にも難しい。はい、受け入れましたー!って言って終われば良いのに何度も何度も「本当に受け入れました?」「まだ自分のこと拒否ってるんじゃないの〜?」と疑い深い私はわたしに襲われる。

多分、私は全部を受け入れてはいないし今もまだ自分の嫌いなところはたくさん出てくる。ひとが簡単に変われないように気持ちも簡単に変えられない。それはもうよーく分かったよ、だから私は私のペースで受け入れながら変えていこう。

そして最近、私が始めた自分を好きになる行動の一つに爪を塗る、と言うものがある。
名前の通り爪をマニキュアで塗るだけだ。
その時の気分に合わせて休みの日には爪を塗るようにしている。
顔は鏡が無いと見えないが爪は、いやでも視界に飛び込んでくる。
その爪に好きな色を塗ってるだけで気分があがる。
ことある事に、私の選んだ色って私の爪って私の手って、私って素敵だなと思える。
そんな表面的な薄っぺらい素敵かって思われちゃうかもしれない。でも今の私にはこれで充分だ。

この素敵がいつか爪だけではなく全身に私自身に広がっていますようにと願いながら、

わたしは今日もつめをぬる。

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