身体能力の遺伝子について
———— 主な質問の内容 ————
ACTN3(速度瞬発力持久力)の検査結果がTT型で持久系競技において有利な特性を持つタイプですが、その一方で、mtDNA(持久力エネルギー生産効率)の検査結果がCC型短期戦タイプとありました。ここが少し矛盾してしまいます。子どもに合ったおすすめのスポーツなどがあれば、教えていただけませんか?
———— 身体能力の遺伝子検査での解釈について ————
まずは、改めてそれぞれの遺伝子の特徴を解説
それぞれの遺伝子の役割を機能的に解説します。
● 遺伝子ACEは、エネルギーを血液中に送るためのポンプ力に影響
○ 血管中の血液供給量を調節する機能に関係する
○ 心臓の収縮力(血液供給量)を強めるタンパク質配列
○ ヒトの機体(カラダ)に運動エネルギーを提供する役割を持つ
●遺伝子ACTN3は、速く走るための筋肉“速筋”の発達力に影響
○瞬発力に関係する筋肉繊維に発現する
○筋肉繊維のエネルギーの源となるタンパク質を作る働きを担う
○遺伝子型によってエネルギーの源(アルファ-アクチニン3)の生成を停止させる
●遺伝子mtDNAは、一定時間、運動し続けるためのエネルギー生産工場の効率力に影響
○細胞エネルギーの代謝機能に深く影響する
○運動機能やエネルギーをつくる源(ATP)となる
○ATPがエネルギの生産性や筋肉の代謝に影響を与え、運動機能、特に持続力に有利に働く
それぞれの遺伝子はそれぞれに役割が違う
遺伝子ACEは、エネルギーの供給力。遺伝子ACTN3は、筋肉(速筋)の発達。遺伝子mtDNAは、エネルギーの生産力。
このようにそれぞれの遺伝子には、役割が異なります。そのため遺伝子ACEでは長距離系の競技が得意ではないかと判断できる一方で、他の遺伝子では短距離系の競技が得意かもしれないという偏りを見出せない最終結論に陥ってしまうことがあります。これは稀なケースではなく至ってスタンダートです。私たちはしばしば極論主義を前提に物事を考えがちですが、両方という答えは当然存在します。どっちつかずの答え(結果)になったときの解釈は「両方にチャンスがある!」が最適解です。それならば好きなこと(これも仮説で大丈夫)からチャレンジさせてみれば良いでしょう。その競技で成功体験を獲得できれば子どもたちのマインドは「自分は才能あるかも?」と脳内でのスイッチが入ります。そのスイッチが継続、つまり鍛錬するための根拠となり、新たな成功体験へと導いてくれます。そうなれば、さらに高みを目指すために得意を伸ばすのか、不得意を補うのか(つまりトレーニングメニュー)を検討するためにこの遺伝子検査結が改めて役立ち始めます。
同じ競技でも求められる能力は変わる
どんなスポーツでもポジションなどの役割によって求められる能力は異なります。またメンタルも大きく関わり、集団スポーツなのか個人スポーツなのかによってやる気やストレスの感受性も観察することが大切です。さらには、流行やスポーツの市場規模などが「成功」というファクターとして複雑に絡み合っています。例えば、スポーツ人口の減少が否めない昨今、成長性を考慮するとjリーグよりもbリーグの方が良いかもしれません。もしくは、1億円プレーヤーの数で考えればプロ野球選手は10人に1人程度、サッカー選手では100人に2程度の割合で契約されています。さらには最も寿命が伸びるスポーツはテニスとも言われています。何を“成功”として捉えるのか?で判断基準が変わってしまうため悩んでしまいますよね。
まずは、それぞれの遺伝子の役割を理解して、日々の運動能力を観察すること。その結果、秀でていそうな能力を仮説で良いので判断し、試してみる(チャレンジさせる)ことがから始めます。ほぼ全てのスポーツが奥深い楽しさが隠れています。楽しくない時は心理的に成功体験が足りない時です。だからと言って、無理に継続させる必要ありません。2020年のオリンピックの種目数だけで339もあります。339もの多様な能力が発揮されるということです。少しチャレンジさせて楽しくなさそうであれば、次のスポーツへチャレンジです。
スポーツでの才能開花はチャレンジの数と成功体験の数が鍵となります。多すぎる種目の中で、遺伝子検査の結果は、向いているスポーツを判断するためのツールとしては、少し物足りないと思ってしまうかもしれませんが、それだけ可能性があるということなので、才能探しのツールの一つとして出し入れしてもらえれば幸いです。そして、ファーストチャレンジと、リチャレンジは恐れる必要ありません。成功しない可能性の方が圧倒的に高いのですから、その中で成功したその時に初めて、その秘められた才能を思いっきり褒めてあげてください。
———— それでも迷ったら ————
それぞれの遺伝子型の希少性を見る
遺伝子は主に3パターンに分類されますが、当然、動物種や人種によって偏りがあります。今回の遺伝子では以下の通りです。
● 遺伝子ACE
○ 瞬発的なエネルギー供給力が高いタイプ:II型:43%
○ 瞬発的なエネルギー供給力がやや高いタイプ:ID型:43%
○ 持続的なエネルギー供給力が高いタイプ:DD型:14%
●遺伝子ACTN3
○ 持続的に小さな筋力が発揮されるタイプ:TT型:30%
○ 瞬間的に大きな筋力がやや発揮されるタイプ:CT型:46%
○ 瞬間的に大きな筋力が発揮されるタイプ:CC型:25%
●遺伝子mtDNA
○ エネルギー産生の活性が高いタイプ:TT型:1%
○ エネルギー産生の活性がやや高いタイプ:CT型:6%
○ エネルギー産生の活性が一定的なタイプ:CC型:93%
ほとんどの人がmtDNAの遺伝子型がCC型
遺伝子mtDNAでは、93%もの人がCC型になる可能性があります。学年100人だとすれば93人が同じ遺伝子型だということです。よって、今回の遺伝子型がCC型だった場合、他の遺伝子よりも能力判断の優先順位としては低いと解釈することができます。逆にTT型だった場合は、とても希少な遺伝子型を保有しているということになります。最も優先順位が高くなり、他の遺伝子型が何であれ、まずは長距離系の競技にチャレンジしてみる方が成功体験率は上がるかもしれません。このような見方で遺伝子型を一つずつ見ていくと自ずと偏りのある判断が可能となります。よって、CT型の場合もかなり希少な遺伝子型ですよね。エネルギー産生効率が100人に6人の逸材だと鼓舞することができます。
長距離系の判断はmtDNAとACEはセットで見る
今回の遺伝子検査では、身体能力として遺伝子mtDNAと遺伝子ACEは共に「長距離系の競技に対して」有利かどうかを判断することができる遺伝子です(ただし、役割はそれぞれに違う)。
そのため、長距離系競技に最強な遺伝子型は、
● 遺伝子ACE
○ 持続的なエネルギー供給力が高いタイプ:DD型:14%
●遺伝子mtDNA
○ エネルギー産生の活性が高いタイプ:TT型:1%
のセットです。まさにトップアスリート並みの組み合わせです。長距離はもちろんのこと超長距離でも才能開花するかもしれません。まずは、チャレンジさせてみることをお勧めします。
遺伝子mtDNAと遺伝子ACEは両方の組み合わせを見ることで向き不向きにフォーカスして判断しやすくなります。
短距離系の判断はACTN3を優先して見ること
遺伝子ACTN3は、短い距離を速く走るための筋肉(速筋)の発達に関係する遺伝子です。オリンピック競技で最も短い距離は100m走ですね。その他、ハンマー投げなどの遠投種目も速筋を必要とする種目です。よって、パワー系競技に関係する遺伝子と言い換えることができます。このような競技において有利な遺伝子型は下記の2つです。
●遺伝子ACTN3
○ 瞬間的に大きな筋力がやや発揮されるタイプ:CT型:46%
○ 瞬間的に大きな筋力が発揮されるタイプ:CC型:25%
CT型とCC型を保有していた場合、短い距離を走ったり、瞬間的なパワーを有する競技での才能が際立って優れる可能性ありです。ただし、トップレベルでは、0コンマ数秒、数センチ、数ミリを競い合うスポーツがほとんどですので、筋肉だけではなくフォームや精神状態もより繊細なレベルを要求されます。潜在的な遺伝子の影響だけでは学年トップから県トップまで。全国トップから世界レベルには後天的な環境が大きく影響すると考えられます。
———— 最強パターンを紹介 ————
DNA FACTOR では、数々の遺伝子検査を行い、ごく稀に希少な遺伝子型ばかりを保有する被験者にも出会います。あくまでも参考として今回の3つの遺伝子による遺伝子型最強パターンを長距離と短距離の2つに分けて紹介します。いずれにせよ、冒頭に記載したチャレンジの数と成功体験の数の方が圧倒的に大切です。
長距離系の最強遺伝子型パターン
● 遺伝子ACE
○ 持続的なエネルギー供給力が高いタイプ:DD型:14%
●遺伝子ACTN3
○ 持続的に小さな筋力が発揮されるタイプ:TT型:30%
●遺伝子mtDNA
○ エネルギー産生の活性が高いタイプ:TT型:1%
短距離系の最強遺伝子型パターン
● 遺伝子ACE
○ 瞬発的なエネルギー供給力が高いタイプ:II型:43%
●遺伝子ACTN3
○ 瞬間的に大きな筋力が発揮されるタイプ:CC型:25%
●遺伝子mtDNA
○ エネルギー産生の活性が一定的なタイプ:CC型:93%
———— スポーツに必要なメンタル ————
勝ち続けるために必要な「リバウンドメンタリティー」
さて、運動能力に関係する遺伝子を中心に解説しましたが、当然、プロへの道は、簡単でもシンプルでもありません。複雑な遺伝子の要素が重なって、良き指導者との出会いや環境、運、さらには経済力まで関係します。そんな中、全てのファクターにおいて“メンタル”は切っても切れない相互性を秘めています。
Jリーグチェアマン村井満氏(第5代日本プロサッカーリーグ理事長)によれば、選手として生き残り続けるために特に大切なのはリバウンドメンタリティーと述べています。これは、大きな挫折をしたときでも立ち直ることのできるメンタル力です。
例えば、COMTという遺伝子は、その遺伝子型によって脳内のドーパミンの分解力の高低に影響しています。脳内ドーパミンの分泌力が高ければ、ストレスによる耐性が強く混乱状態に陥る可能性が低いことが予測されます。つまり、挫折した時でも精神的な立ち直り能力が優れてい流ということです。(その分、一定以上のドーパミンが脳内に留まることができないとやる気が起きなかったり、集中力が低くなるリスクもあります。)
身体能力だけではなく脳(心)の能力も並行して観察してみるとより納得できる判断へと繋がるかもしれません。
———— (結論)質問への回答 ————
ACTN3(速度瞬発力持久力)の検査結果がTT型で持久系競技において有利な特性を持つタイプですが、その一方で、mtDNA(持久力エネルギー生産効率)の検査結果がCC型短期戦タイプとありました。ここが少し矛盾してしまいます。子どもに合ったおすすめのスポーツなどがあれば、教えていただけませんか?
→ACTN3の遺伝子型がTT型であれば、速筋の発達よりも、遅筋(マラソンなどに有利な筋肉)の発達力の方が高い可能性ありです。その反面、エネルギーの生産力は長距離向きではない傾向(mtDNA遺伝子の遺伝子型がCC型)ということで少し難しい判断となりますが、mtDNAがCC型の人の割合は高いので、遺伝子ACEと遺伝子ACTN3の結果を優先させる方が良いと考えます。遺伝子ACEの結果がDD型であれば長距離系競技を推奨します。ID、もしくはII型であれば、持久系競技からチャレンジし、様子を見て短距離系競技も試してみることを推奨します。その他、総合的な判断によってピボットしてみてください。
———— 最後に ————
如何でしたでしょうか。少しでもお子様への理解が深まり、お役に立てたのであれば幸いです。
私自身も1児の父であるため、無償の愛で息子を包み、育て、誰よりも幸せになってほしいと思っています。しかし、2040年代という未来に大人になるような子どもたちは、COVITがどうだとか言っている私たちの想像を遥かに超える社会で巣立ちます。日本では少子高齢化、教育制度、経済格差などが引き起こす社会変化による危機感は増す中で、今までの概念を常とする「子育て」に光を点すために、これからを生きる子どもたちには際立って優れる才能が必要であり、才能に気づき尖らせる環境を与えてあげたいと思っています。主体性や多様性を悪としない考え方や接し方、同調的圧力をかけない言葉遣いなど、親の感覚も研ぎ澄ませなければならないのかもしれません。
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東京2020オリンピック競技大会実施種目:
https://tokyo2020.org/ja/news/news-20170610-01-ja
The Copenhagen City Heart Study:
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4625209/
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