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Relax & enjoy 製作記

まず、この展示会に誘われて思ったことは「全員俺よりうまい」ということだ。また、好きなモデラーと並ぶということで、少し躊躇するところがあった。「人と比べても良いことはない」とはよく言ったものではある。ただ、私自身が人と比べなくても、見に来る人は比べると思う。なので「全員俺よりうまい」は観に来る人の気持ちを考えると避けて通れない要素だった。

「全員俺よりうまい」というのは「俺だけ下手だったらつらい」という気持ちとつながっている部分がある。テーマが「酒、そして煙草」というのもこれを作れば正解!というものがパッと思い浮かばず難しそうだと思った。

この悩みの辛いところは「上手い下手」の問題だと思ったので、そもそもそれは自分の中でどういうことなのかを考えることにした。

「プラ板を切ったりしてそう」「パテをこねたりしてそう」「フィギュアのポーズを変えそう」といったことが私の中で思い浮かぶ「上手い」だった。ただ、これって「改造が上手い」だ。そして私は「改造が下手」というか、そもそも「改造ができない」のである。なので「できないことをやらないといけないと思って辛くなっていた」というわけだ。

これでは、不安な気持ちになって当たり前だ。私にとってできること、できそうなことは「考えること」だった。何せこれは頭の中で行える作業だし、いつでもできる。考えること、発想が刺激的なものを作れれば楽しいと思うようになった。そのときに、真っ先に思い出したのは、夏の始めのころに見た「100人のゲイルハウンド展」にて展示されていたからぱたさんの完成品だ。

青紫のボディに、黄色の水中用モーターを背負ったゲイルハウンドは、夏に見るにはとても気分が良いもので、やたら印象的だった。高めの台座も用意されていたので、後列に飾られてもしっかりと目が行く。

こういう「いつ、どこで、どういう風に見られるものなのか」までを含めて完成品としているものを作りたい。一見、人を食ったようなアイデアだけど、その抜け目のなさはサービス精神だと思ったし、そこまで考えが行き届いた姿を目標にするのは悪くないと思った。


展示会に向けて作るものを考えようとしたときに、まず自分のクセや好みを振り返ることにした。「自分はシンプルなものが好き」これは間違いない。ただし「何をしても地味になりがちなきらいがある」。つまり、削ぎ落し過ぎてしまう。だから、今回は「足りないと思うのであれば、ボリュームを足していくことをいとわない」ことにした。最初は、パイプの上に店員が一人立っているだけだったが、そこからいろいろな要素を足していって今回の完成まで進むことができた。


作っているときに、本当に感心したことがある。それは、タミヤのプラモデルのすごさだ。フィールドキッチンセットの細々とした小物がこんなに有り難いなんて思ったことはなかった。チャーチルのバスケットやミルク缶もそう。今までは、戦中の平和を描写するために計算されて用意されたものとしか思っていなかった。しかし、使ってみるとどれも名わき役だし、いつでも手に入るので本当に最高だった。

こういった小物を使うことで全体のボリュームは増していくし、細々したものなので要素も増えてくる。そうすると色について考える余地が出てくる。最初は「テーマについて考える楽しさ」に注目していたけど、塗装についても何か考える余地が生まれたというわけだ。



カラフルにしたら楽しい気がすると思い、各所で色相差をつけたコンビネーションを楽しんだ。缶の黄緑と紫、瓶の茶色と水色。茶系のパイプや飾られるバーカウンターの茶色に対して水色の台座。どこで飾られるのかまで考えが及んできて、当初の水中用モーターを背負ったゲイルハウンドに近づいてきた気がした。

塗装するものの下地には金色と銀色を使った。これは透明感を出して鮮やかにするために下地の反射を利用したかったからと、微妙な塗り残しがキラキラして目につく面白さがあるからだ。

そういったものが「思わずのぞき込みたくなる面白さ」に集約されていけばいいと思い、レイアウトをした。パイプの中に酒瓶を入れてみたり、パイプの軸にまたがるコの字型の什器を作って、パイプとプラモデルが別々のものにならないように工夫した。これはチャーチルについてくる、木製のカートのパーツを使ったもの。

ほんの小さな改造だけど、気づいたら「できない」と思っていた改造ができている。できることだけをやっていたらできなかったことにまで手が伸びた瞬間だった。

銘板はありふれたものじゃなくて、可能であれば今回作ったものに120点合うものが欲しいとわがままなことを考えていた。バーは金銭をやり取りする場所なのでレシート風の銘板というか、タイトルを示したものを思いついたときは嬉しかった。作るときに使ったものを羅列すればとりあえず、文字がたくさん並び、レシートっぽくなると思い、記憶の限り、記載することにした。

英語は苦手だし、気取り過ぎてもなんか微妙だし、何より自分が作ったものなので、レシートのようなものの表記は思うがままに英語と日本語をごちゃまぜにした。もしかするとスペルミスもあるかもしれない。ただ、自分が作ったものだから良いかなと思っている。

そういえば、昔の仕事で新店舗をオープンするときにレジに商品の登録をイチからやったことがあった。そのときに、文字数制限があったり、文字種制限があったりしてこんな感じに苦戦しながらいろいろと登録した気がする。

そうそう、タイトルのRelax & enjoyというのは酒もたばこもリラックスして楽しむものだからと、そのように付けてもらった。bingのAIチャット機能に、展示会用のプラモデルのタイトルを決めて欲しいことと、どういう見た目のものなのかを詳細をかなりしっかり書いて、英単語で20文字以内で3つほど出してくれとお願いしたものだった。

名前が決まった後に、今回の制作も最初は硬くなったけど次第にRelax&enjoyの気持ちで楽しめたことに気づいた。「全員俺よりうまい」という最初の気持ちは、自分が楽しめることを全部楽しめたので、どうでもよくなった。なかなか人目に触れるプラモデルを作ることはないので、こういった機会に誘ってくれて、ありがとうございます。悩んだ分、新しいものができました。また、見に来てくれた方も、ありがとうございます。おかげさまで、良い経験ができました。

※会期中はともに展示していたレシート風のタイトルを示したものに印刷されていたQRコードをスキャンするとこの記事が読めるようになっていました。会期が無事終了しましたので、公開いたします。

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今後も製作記と他愛もない話をセットで書ければと思います。 サポートしてくださると嬉しいです。