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before episode… ☟ 十三回忌を終え、夏の夕暮れが村に訪れる。 酒に酔ったアツムはにへらと笑いながらナツキに絡んだ。 幼いころからナツキはアツムに対して誰かを演じているような違和感を抱いていた。が、アツムは問いただす度に人懐こそうに笑って躱すだけだった。欺かれているのに気づきつつも、ナツキはそれを良しとして受け入れ、アツムに接してきた。 アツムはできることならば全てを話したかった。だがナツキに対し、そういった態度をとってしまうのは、彼にとって心を許せ
朝起きて、まず煙草を咥える。 それからカーテンを開けて立ち上がる。キャバクラでもらったライターはベッドと柵の隙間に挟まっているから、手を突っこみ拾い上げたら火をつける。長く吸うと先がちりちりと静かに燃え、彼は朝日を浴びながらそのままベッドに仰向けで倒れ込んだ。 天井に向かって昇ってゆく煙の先を彼は見ている。倒れた振動でも胸に肺は落ちなかった。 彼はその日の行く末をこうして占う時がある。そういった日は大抵、なにか楽しみな予定がある日だ。 梅雨に入り、連日ぐずついた天
レンズの分厚いメガネが似合うふみちゃんはプールの授業をさぼって屋上にいた。太腿の上にはお弁当用のバッグがあり、チャックを閉めたまま誰かを待っている。 建付けの悪いドアが音を立てて開く。 長い前髪で顔が隠れたうみちゃんが手を挙げた。彼女が持っている袋の中には夕張メロン味のミルクとレタスとハムのサンドウィッチが入っている。 消毒と着替えを終え、プールサイドには生徒たちが集まっている。今日はクロールの25メートルのタイムを計る日で、生徒たちはやりたくないと思いながら、日差