AとC 3

だからなんだ?

存在を認知してからたった数十秒の
赤の他人に、開口一番になんだ?

「ちょっと意味がわからないです、では」

こんな得体の知れない人間に構ってられない。

「待って下さい!僕10円だけあるんです、
自動販売機の下で拾いました。
1分1円払うから、お話だけでもしましょう。
僕友達もいないし、今だって勇気振り絞って
ここに来ました。
以前ここで働いていたんです、今はすっかり人も変わってしまったみたいですけど、ちょっとがっかりしたなあ。」

なんだこいつは、一人で喋っている、、、

是が非でも引き留めようとしているのが
ひしひしと伝わってくる。

めんどくさいが、あと9分程度か、
家にいてもしょうがないから
付き合ってやろう。
そんな軽い気持ちで渋々受け入れてしまった。

「あと9分だけですよ」

「ありがとう!僕、太郎って言うんだ。
昔はモブって呼ばれてた。
意味はよくわかんないけど。」

照れ笑いのような笑みを浮かべながら
話す彼はとても眩しいようで
見窄らしく、居た堪れない気持ちにさせる。

しばらくして彼は右手を上げた。

「すいませーん!
ミルクテイ1つください!、、」

「そういえば君の名前は?
それより、すごく若く見えるね!
未成年?」


「“珈琲音麗”と書いて
カフェ オレ。」


「ふーん、オレか、
一人称の時ややこしいでしょ。
オレは恋人とかいないの?」

口数の多い上にとても馴れ馴れしい、、

(いない、いたところで...)

「最後に付き合ったのはいつ?」

「忘れた、くだらない。」

「またまた~、そんなこと言っちゃって!
あ、ミルクテイ来た!僕甘党だから砂糖7個入れちゃう!」

デリカシーのかけらもない、、
オレの何がわかるというんだ?

数える気にもならないがざっと両手が埋まる程の女性を抱いてきたが、結局オレ自身
淘汰されゆく存在だと悟って、
恋人、ましてや友だちすら作らなくなった。

己は過程に過ぎない人間なのだ。
原因はわかっている。

何故ならオレは自他共に認める
完璧模倣~パアフェクトコピイ~
だからだ。

「ミルクテイ美味しいー!!」

誰かの真似事をする為なら金を蕩尽する事も
なんら厭わない、それが親、他人の金であっても。

自我すら皆無、ミーハー。
故にオレは僕自身ではないのだ。

模倣する対象達の
共通点を挙げるとしたら

“様々な人間に一目置かれている”
といったところか。
それ以外はどれも異なっている。

ここで矛盾が生じる、
完璧模倣のオレが一目置かれていないのだ。
この時点で完璧とは言えない。

結局は他人の真似事、
言うてしまえば自分は中国産。

安価で手に入れられる
バッタモンのシヤネルなのだ。

故に寄ってきた女は抱く、
ただし恋人にはならない。

そんな生活を続けて、
友人や家族には愛想を尽かされた。

その時だった、オレの中で謎の好奇心が
湧き上がった。

“この金色の毛が生えた野良犬を飼ってやろう”

「んーミルクテイ美味しいー!
あれ、どうしたの?深刻そうな顔をしてるね、
なんかまずいこと聞いちゃった?」

「いや、別に」

「なんかごめんなさい、、、あ、
10分どころか12分も経ってた、、。
最初から僕が喋りすぎたね、、ごめん
10円で許して欲しい、、」

「あぁ、、、、。」

太郎という男はおもむろに10円を置いた。

「久々に人と話せて楽しかった!
ミルクテイもご馳走様!
忙しいところ本当にありがとう、
じゃあ。」

こいつ、いきなりベラベラ喋ったと思ったら
勝手にミルクテイまで頼んで
挙げ句の果てに飲み逃げするなんて、、

太郎が席を立とうとしたその時、
無意識に僕のコンプレックスの
分厚い上唇と下唇が動いた。

「おい、ちょっと待て」

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