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『君はノンフィクション』をよむ

Base Ball Bearが大好きです。
中学生ではじめて聴いてから今までずっと好き。
高校生のとき好んでよく聴いていたのが『つよがり少女』『YUME is VISION』『April Mirage』とか爽やかなもの。聴くと今でも青い夏服の袖口の硬さや自転車できった夏風の澄みやかさを思い出す。ベボベは私の学生時代とぴったりくっついていて、記憶と今が地続きになっている。

現在に至るまで、おそらくいちばん聴き込んでいる楽曲は『君はノンフィクション』。
不思議な曲だと思った。浮遊感の中にせつなさがあり、あきらめの中にきらめきがあり、惹きつけられる。

しかもあとから知ったけど、岡村靖幸プロデュースの曲だった。……好きになるに決まってる。

1番の歌詞。

こいちゃん(ギターボーカル小出祐介)の実体験に基づいていて、学生時代好きだった(付き合っていた)女の子がAV女優になっており、その元カノが出演するVHSをみているという状況をうたったもの。

思い出に浸って、自分だけのモノだった彼女の今の有様を嘆く元カレのぼく。たしかに元恋人がAV女優になっていたら衝撃的だけど。「お前、変わっちゃったね……」って元カレにいわれても、うるせえよってこちら(女性側)は思うわけで。

しかし、ぼくの記憶の中の彼女はあどけなく、たしかに当時から艶やかさがあって美しい。ぼく原初の「女性」体験が、回想を通してきらきらと浮かび上がる。

そして間奏で、ピーーーってギター演奏が止まるところがあるのですが。これは絶頂表現ですよね、たぶん。メロディーが一音に集約され、画面が砂嵐になった。同時に視聴するぼくの思考や手といったせわしない動きが静止する。そんな印象を残す画期的装置!

あぁこんなになって……と嘆いておきながら、やることはやるんかい。過去と現在のギャップに翻弄されながらも、ちゃっかり満たしてるじゃん! しかしきっとこんな感じなんだろうと納得する。

ぼくは「つらいけど けがれた花は より美しい」と、絶頂した事実と、今の彼女が持つ知り得なかった新鮮な美しさを認める。「もう止められないこと わかってる」と、変化していく彼女についても認めて肯定しているんですね。(諦めているとも解釈できるけれど、おおむね受容しているという意味で一致)

だからこそ、ぼくにとっての「君」はフィクションではなくノンフィクション。流動的で変わり続けていく生きている女の子で、昔の彼女も今の彼女も、同一の彼女であり、それは現実である。偶像ではない生身の彼女を受け入れる。



余談だが、こいちゃんの歌詞に登場する「俺」や「僕」や「自分」は、「君」の変化には寛容であり、眼差しはあたたかい場合が多い。超いい男なんだよね。「黒髪清純爽やか活動的女子尊い……」みたいなオタクのくせに(←こいちゃん詞に登場するガールの特徴)。

 コンテンツじゃなくて、神聖視してなくて、目の前の他者としての女の子への真摯な愛を感じます。

『short hair』(2011)の歌詞




一曲が完璧に構築されている。ぼくが回想している男性的都合の良さと気持ち悪さ(岡村ちゃんの得意分野でもあるから流石プロデューサー)、しかしながらそんなぼくだからこそ描き出せた過去の彼女の美しさ、当時から匂い立っていた艶かしさ、そして今4:3の画面上で出会う、現在の彼女の新鮮な美しさ。


タイトルの画像は、敬愛する(元)AV女優あべみかこさん引退作におけるキスシーン。一筋の涙が美しさを強調する。

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