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燃尽


いろんなことに疲れてしまっていた。
仕事のことや恋愛のこと、俺を取り巻く様々なことは、俺に対して何も語りかけてこないけれど、俺はそれらのご機嫌を伺う必要があった。

いつか、人は集合住宅みたいになっていて、101号室には仕事の先輩が、102号室には彼女が、103号室には家族が、住んでいるみたいだと書いたことがあるような気もする。
俺はその集合住宅の管理人として、隣人トラブルに対応しなくてはいけないし、ゴミ出しの日を守らない住人がいれば、注意しなくてはいけない。
或いは、退去することもあるだろうし、誰かが新しく越してくることもある。

人を支配しているというわけではないけれど、自分の中でのその人を上手く管理していく必要がある、と思っている。

或いは、人は会社のようになっていて、経理を担当する部署があって、人事を担当する部署もある。社外交渉を担う部署もある。

つらつらと例えばかりを書き連ねてしまったけれど、俺は直接的に物を言うのが得意ではない。
正確には、得意かそうでないかと言われれば得意だけれど、いつも言葉選びを間違えて相手を傷つけたり、嫌な思いをさせてしまうことが多い。
だから敢えて遠回しに、思っていることを言ってみたりして、気づいてもらうことに期待したりする。

とにかく。
俺が集合住宅だろうが、会社であろうが、俺の中のバランスがぐちゃぐちゃになっていることだけは事実だった。
多くの矛盾を抱えているし、多くの問題を、悩みを抱えていた。
すぐに解消できないものや、解消の仕方を失敗して、余計にこんがらがったものもある。

矛盾に矛盾を重ねて、手のひらを太陽に翳す。
適当な言葉を燻らせて、本当の思いを燻らせる。
という具合。

彼女にも1ヶ月近く会えていないし、それと同じくらい仕事では結果が出ていない。
どちらもコンスタントに出来ていたことができない。
他人の期待に応えられないことが悔しいし、何より自分自身に失望してしまう。
部屋が綺麗になっても満足できない。
休日の正しい過ごし方が分からない。
漠然とした将来が怖い。
もう全部やめてしまいたいと思う。

全てを裏返して、めちゃくちゃになりたいと思う。
実際そうなった夜もあった。
ある意味でこれは罪だし、兆しだと思う。

きっと正しく燃え尽きている。

燃え尽きて積もった灰の中でまだ心臓だけがもぞもぞと動いている。
そんな感覚。

ただナイーブな気持ちに浸っているのは、きっと、夏の夜に高級ホテルに備え付けられた屋外プールに浸かる夜にそっくりで、いつまでもそこにいたいと思ってしまうものだとも思う。
結局ネガティブでいることは楽なのだ。
弱い自分で居続けることは、ある意味自分を許していることでもあって、現実逃避だ。

結局、朝日が昇れば、社会人としての皮を被って出社するだろうし、彼女と会える日には、ちょっとおしゃれをしたり、眉毛を整えたりするんだろうと思う。
いろんな矛盾を受け入れていくしかないと思う。
弱い自分、強い自分、弱い自分の強い部分と、強い自分の弱い部分。あるいはそのどちらでもない自分と部分。

灰の中でモゾモゾと動く、新たに産まれ直した赤子が育つのをジッと待つ。
また、歩けるようになって、走れるようになって、戦えるようになって、そして、いつかは焼け焦がれる。
それを繰り返す。
スクラップ アンド ビルド。

知らない誰かと寂しさを埋めた適当な夜が、本当に大切な誰かとの日々を繋ぎ止めることがあるように。
俺たちは、矛盾を、惰性を、失敗を、停滞を、破滅願望を、愛していかなくてはいけないのだと思う。
どうせいつか全部終わってしまうんだし。

と、思います。

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