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銀河フェニックス物語 <出品集>

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2024年5月の記事一覧

緑の森の闇の向こうに 第4話【創作大賞2024】

 その時、ダルダさんの手首で携帯通信機が光った。 「おっと失礼」  メッセージが届いたようだ。ちらりと送信元の名前が見えた。『レイター』と出ていた。  わたしは思わず扉の方を振り向いた。レイターがにやりと笑った。  携帯のメッセージを見ながらダルダさんがゆっくりとうなずいた。 「ふむ、移転先ではパキの木の九十ニパーセントが枯れているらしいな」 「……そ、その数字は」  狐男が細い目を見開いた。 「九十二パーセントをたまたまとか一部とは言わないだろう」 「問題ございません。次

緑の森の闇の向こうに 第3話【創作大賞2024】

 翌朝、時間通りにレイターの運転するエアカーがホテルへ迎えに来た。 「アンナ・ナンバーファイブか」  隣の運転席でレイターがつぶやいた。  ドキッとした。さっき使ったヘアオイルだ。 「よくわかったわね」  そんなに香りは強くないと思ったのに。わたしには不相応だっただろうか。 「ガキにしちゃ、いいセンスじゃん」 「ガキじゃありません!」 「そういう反応がガキなんだよなぁ」  にやりと笑うレイターに後部座席からダルダさんが声をかけた。 「まあまあのホテルだったな」  まあまあ?

緑の森の闇の向こうに 第2話【創作大賞2024】

 フェニックス号のリビングに厄病神はいた。相変わらず髪はボサボサ、第二ボタンまでネクタイを緩めただらしない格好をしている。 「よ、ティリーさん。休み返上なんだって? また一緒にお仕事できるたぁうれしいねぇ。これも運命の赤い糸だぜ」  赤い糸なんて真っ平だ。先週、あんな大変な目にあったというのに、この人の記憶はどうなっているのだろう。 「あなた、怪我は大丈夫なの?」 「あん? 怪我? 何のことかなぁ?」  へらへらと笑う様子を見ていると、心配した自分がバカみたいな気持ちになっ

緑の森の闇の向こうに 第1話【創作大賞2024】

 その時は、単なる事務連絡だと思った。  「三十九度の高熱が出て、自宅で寝込んでる」  いつも元気なベルの声がかすれていた。 「お大事に」  と返してから気が付いた。ベルは明日からパキ星へ出張に出かける予定が入っている。即座に課長が近づいてきた。 「ティリー君、休暇の日程をずらせないかい。申し訳ないが、ベル君の代わりに出張へ行ってもらいたいんだ」  わたしは明日から三日間、特別休暇をもらえることになっていた。ゆっくり休みたいのが本音だ。一方で課内でほかに動ける人がいないことも