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銀河フェニックス物語 <出品集>

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2023年5月の記事一覧

嫉妬につける薬はなくて、妬みが世界を駆けめぐる 第1話【創作大賞2023】

「わぁい、両手に花だぜ」  厄病神のレイター・フェニックスは、わたしと後輩のサブリナの顔を交互に見てうれしそうに笑った。  フェニックス号は、ヨマ星系へ向かっている。大手宇宙船メーカーに勤めるわたしたちは、たまたま同じ時間に、洗剤メーカーのコッペリ社にアポイントが入った。  サブリナが明るい声で挨拶する。 「レイターさん、厄病神が出てこない様に、よろしくお願いしまぁす」  今回、彼女は新型船七隻の売買契約を締結する。大きな仕事だ。この厄病神の船には乗りたくなかっただろうな

嫉妬につける薬はなくて、妬みが世界を駆けめぐる 第2話【創作大賞2023】

 答えるバッハさんの声が震えていた。 「弊社の製品、速乾洗剤フイールの主原料です」  フイールの原料は公開されていない。XKZという液体は、乳白色で確かにフイールと似ている。おそらく新物質なのだろう。  銃を向けられているからなのか、秘密を明かしたからなのか、バッハさんは異様なくらい落ち着きがない。 「その通りだ。そして、もうわかっただろう。この青い液体がアロルウム溶剤だ」  アロルウム溶剤は工場などで使われる一般的な薬品だ。 「やめてください!」  バッハさんが叫ぶと、ワ

嫉妬につける薬はなくて、妬みが世界を駆けめぐる 第3話【創作大賞2023】

 隊長のバルダンが緩衝シートを素早く床に投げ入れた。  XKZのボトルが落下する。  ワトキンスの足元でふわふわのシートが一気に広がった。  何の音もしなかった。綿菓子のような素材が衝撃を吸収する。  仕事は続く。ワトキンスが倒れてガラスのボトルを割らねぇように、部隊が突っ込む。 * *  ティリーは何が起きたのかわからなかった。  ワトキンスさんの手から、ガラスのボトルが落ちるのが見えた。髪の毛が逆立ち息が止まる。もう終わりだ。  目の前に白い煙が立ち込める。複数人の