19、和食

日本の誇るべき事の一つに「和食」文化が世界遺産として認められたのは
つい最近だが、美的感覚から言っても芸術作品だと思っている。
ぼくが渡米した1964年には小さな町でも2,3件の中華料理店があったが、
それらは味の素をシャベルで入れるようなお店で、今は外人は味の素を
嫌う人が多い。当時ニューヨークに2,3件だった日本レストランは現在
1万件はあると言われている。ただその多くは韓国人、中国人系、又は
プエルトリコ、メキシコ、その他インド系でもアジア系でも何でも東洋系
ならば同じ感覚で流行りの日本レストランを開くのでどこが本物なのか
分からない。ただこの流れは日本武道も同じで「下手な鉄砲も数打ちゃ
当たる」式で和食文化を広める事に少なからず一役を担っていると言える。
中には本物があるからだ。特にニューヨーク地域では日本人の駐在員や
直接渡米してきた人が多いので全く異なる和食は出せない。日本人ほど
舌が厳しく味にうるさい人種はいないからでもある。

特に海外での料理には日本の「隠し味」的要素はない。フランス料理には
あるのだろうか。この「隠し味」には各家庭、レストランなど夫々事なる
だろうが、季節毎に異なった風味も加わり和食の旨さの増す理由だと思う。
2020年に世界で爆発的な感染者を見たコロナの影響で外出禁止令が出た。
ぼくも外出を控え、自炊する機会が増えたが、若い頃はゆで例え茹で卵さえ
出来なかったのがかなり料理出来るようになったのは怪我の功名か。

日本人は新鮮さ、通ぶり、隠し味などの出汁にもうるさく、それらが世界
の辞書に載りプロ料理人達からも「旨味」として知れ渡っている。
日本にいる日本人同士でもあの地方の何がしは美味いとか、漁師飯は
上手いとか、その通ぶりはうるさいほどである。ただそれがアメリカの
地方やぼくの家のカリフォルニアでは日系二世三世、現在は4世の時代
になっており、「日本もどき」が多い。もちろんニューヨークのように
中韓が似たような顔をしているので店を開き易いのだろうが。普通のお店
でも壁に浮世絵を飾り、琴、三味線の音色のBGMを流し、のれんをつけて
デカイ握り飯のような寿司を出して「日本レストラン」というのもある。
いつかナントカフジと言うお店に入ったら巌流島の宮本武蔵(多分)の
ヘタクソな絵が描いてあり、お握りを買ったら食べられなかった。
又バークレー大学の近くで友人と一緒にラーメン屋で注文した時には
インスタント・ラーメンが出て来たのには驚いた。

数十年前ニューヨークでM菱出資のラーメン・チェーン店「道産子」が
出来た。最初、物珍しく沢山の客が’列を成したが、オープン当初は店の
日本人オーナーが出て来て美味しい北海道ラーメンを作っていたが、
彼が帰国するとメキシカンや中国人達が作る事になり、日本人
マネージャーはいたのだろうが、アメリカ人は猫舌だという事を知り、
キッチンの奥で水を足して温くしてから客に出していた。日本人客は
無視されたのか?その結果客の回転数は増えたのだろうが、日本人
駐在員達はリピーターとして現れなかったようだ。

ラーメンは今や世界食化してしまったが、ぼくの友人はコネチカット州
のグリニッチ市に屋台のラーメン屋を開いた。ニューヨークでは
マフィアの力が今だに影響力があるのか法律的にも難しく、ニューヨーク
近郊のこの街になった訳である。ぼくは懐かしくもありあの雰囲気が
好きだったので毎日のように通っていたが、数年後代が変わって別の
友人がその屋台を引き継ぐ事になった。彼は川沿いの魚屋の駐車場に
屋台を設置し、屋外にテーブル席も数テーブル用意した。お客の中には
外人が多く、ワインを持ち込みで来たり、夏には川を行き来する船を
眺めながらラーメンとワインを一緒に楽しむ姿があった。
これもアメリカならではの風景だろう。

レストランで日本で出す量とアメリカの量には格段の差があり、アメリカ
では朝食でもサラダは洗面器サイズノお皿に山盛りで出て来るし、
アイスクリームもバケツに入れてくる専門店もあった。従って日本の
観光客が困るのは半分以上は残してしまう事が多く、今では2人で
1人前を注文する事を覚えたようだ。又最近はメニュー料金の他に約10%
の消費税(州によって異なる)とチップも20%近くになっている、と言う
事は料金プラス30%の計算となり、今では最初から18~20%のチップを
含めて請求するお店もある。日本人観光客はそこまで見ないだろうが、
既にチップが入っている事が多いので気を付けて見て欲しい。

又以前娘夫婦が日本に来た時に回転寿司へ行った時にお客が取らない
寿司はどうするのかと聞かれ、あれは乾くので捨てると言ったら、いや
絶対にあれは焼くか煮るかして後で使うんだと言って聞かなかった。
娘は日系二世だが、以前バークレーのお持ち帰り専門の寿司屋で昨日の
お寿司半額セールを買ってきたが、買う方も売る方も日本では考え
られない事である。ちなみに日本で毎日捨てられる食料は2,000トンに
なると言う。これは誰でも貧しい国々の人に送ってはどうかと思うのが
常識だが、それには残った食料を集める人と冷蔵機能を持ったトラック
の準備、それらを冷蔵したままアフリカやアジアに送る為の資金調達、
現地に着いてから冷蔵のまま配送、などなど大きな資本や寄付が’なければ
残念ながら叶わない事なのだ。やはり豚の餌が一番安上がりなのか?

日本食と称していろいろな融合的な和食が流行っているが、ロバート・
ディネーロがニューヨークで開いた「ノブ」なども和風寿司ではなく、
どこかの国が混ざった融合的和食であり、時にはマヨネーズやアボカド、
その他バナナや果物などが入り混ざった握り寿司もある。フランス料理
との融合になると大きな皿にチョコンとメインが乗り、周りをソースで
飾り垂らすのは何なのか?ぼくの友人の息子は厳しい親方の元で修行
したせいで、今年コロラドで自分の店を出したが、彼は若くして正道を
行くお店を出すと言っていると聞き、嬉しくなった。やはり中には
若くてもきちんと日本の伝統を守っていく人がいるのである。特に寿司
などはネタさえ新鮮ならば何も手を加えなくても素人でも美味いのが
当たり前である。

1929年のウオール街から発した大恐慌は世界に広がり、アメリカの
失業率は14%であった。その影響は日本にも及ぼしたが、ぼくはいつも
他の86%の人達は安い給料でも困窮していても仕事を持っていた訳だ。
例えレストランが10件並んでいてもその内の1件が生き残れたのには
理由がある筈で、それは価格、早さ、美味さ、雰囲気、従業員の躾け
など様々な理由があるからである。

普通の人は1日に朝昼晩と3回の食事をし、素人が現金収入を得る為に
食べ物屋を始める人が多い。ただほとんどの人達は少しの修行や最近
ユーチューブで学んで開店することが出来てしまうのだ。これからも
開店、閉店する店が交互に入れ替わるだろうが、高くて美味いのは
当たり前、安くて不味いのもまあ納得、ぼくはB級やC級の安い食べ物
が好きだが、ぼくの友人の息子には高くても安くても良い、とにかく
美味しく安全な物を作って欲しいと願うのみである。終。


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