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あなたが躊躇わないようこの気持ちは伝えないー岩田さゆり「不機嫌になる私」

はじめに


こんにちは、2000年前後のbeing作品の歌詞の解釈について書いている「品川みく」です。年末年始は公私ともに忙しく、実に3週間ぶりの投稿となりました。書きたいものがいろいろありつつ、時間を取れないことがなんとももどかしいところでした。

さて、今回はTwitterで現在進行中の小松未歩「不機嫌になる私」(2005年)について語る企画に乗っかる形で書いてみます。初出は岩田さゆりのシングルで後に作詞作曲した小松未歩自身でカバーした曲です。

16年前の解釈:あなたが躊躇わないようこの気持ちは伝えない

この曲の解釈は難しくありません。16年前、当時大学生だった私は一度二度聴いただけでストーリーを理解しました。

10代半ばの友達以上恋人未満の親しい関係のふたり。あなたは夢を追いかけ遠く旅立とうとしているけれど、私があなたに好きな気持ちを伝えたらきっとあなたは躊躇ってしまう。私は夢を追いかけるあなたが好き。だから、この気持ちはあなたには伝えない。そうはわかっていても、この気持ちを自分でも消化しきれないから、どうしても不機嫌になってしまう。どうか、その理由を問い詰めないでいてーーというのがこの曲のストーリーです。

ただ別れるだけじゃなく、ラストに「私じゃなきゃダメなこと見つけて追いかけるからその日まで待ってて」と希望もみせるところが良かったなと思います。

当時10代半ばで、かわいさと芯の強さのを併せ持ち、アイドルとアーティストの両面で活動していた岩田さゆりのイメージにピッタリ。「せぇ〜ので後ろ向いたら」(「だるまさんが転んだ」の比喩)、「強くなるための練習」など幼い言葉を使いながらも心情を的確に表現した歌詞も実に見事でした。

一方で、当時30歳前後とみられる小松未歩が自身を重ねる歌として歌うには歌詞が合っていませんので、セルフカバーバージョンは一つの物語として歌い流す感じに仕上げています。

現在の解釈:歌うことで感情を吐き出し整理している

この曲の大筋の解釈は当時も今も変わっていません。けれど、小松未歩の描いた全曲を何度も何度も反芻し、小松未歩を長年愛したファンと語り合う中で気づいていったことがいくつかあります。

ひとつは、これまで何度も書いてきたように、小松未歩の描く曲の価値観に「私も彼も夢を追いかけていたい」「恋と夢なら夢を取る」というものが非常に多く描かれていることで、それは「不機嫌になる私」でも変わらず描かれています。

もうひとつ、小松未歩の歌では、歌い手は「答えはもう出しているけれど、その答えに向かうための気持ちを吐き出し消化するために歌っている」ことがとても多くあります。「不機嫌になる私」もその典型例で、自分の中では「あなたに気持ちを伝えない」という決心はできています。だけれど、あなたと一緒にいたい気持ち、あなたに好かれたままでいたい気持ちも強く残っていて、その気持ちを吐き出して「抱えきれない痛み」を消化するために歌っている感じです。

あくまで描いた楽曲からのイメージに過ぎないのですが、小松未歩は泣く時は思いっきり感情を高めて泣くけれど、ひとしきり泣いて感情を吐き出した後は自分自身を客観視して気持ちを切り替えるー「泣ける強さ」を持った人なのではないかなと思っています。

おわりに

デビューから一度もテレビやラジオ、ライブなどで姿を見せることのなかった小松未歩ですが、100曲ほどの楽曲を読み解くことで見えてくることはまだまだあるかなと思っています。

歌詞の解釈に正解はないのですが、20年聴き込んで愛し続けたファンが語り合うことで見えてくるものがまだまだあります。あなたはどのようにこの曲を聴いていましたでしょうか。ひとりでもふたりでもこういう話を面白いと思ってくれる人がいたら、ぜひコメントをいただけると嬉しいです。