見出し画像

好きだと思った気持ちは他の人を愛してもずっと持ち続けていてもいいーGARNET CROW「忘れ咲き」

はじめに

こんにちは、2000年前後のbeing作品の歌詞の解釈について書いている「品川みく」です。

私は2000年ごろ10代で、現在は30代。10代のころ好きになって何百回も聴いていた曲も、いま改めて聴くと以前とはだいぶ違った感じに聴こえてきます。私の場合は歌詞の「物語性」に特に着目しており、この曲はいったいどういう物語を描いたものなのか歌詞を解釈していくことが当時からすごく好きでした。20年の人生経験を経て、一つの曲の解釈がどのように変わっていったのか。その変化をお楽しみいただければと思います。

今回は、GARNET CROW「忘れ咲き」(2004年)について語ります。

17年前の解釈:あの初恋がいまも忘れられない

プロモーションビデオやシングルCDの歌詞カードなどが郷愁を誘う内容になっているように、この曲が描いたのは懐かしい初恋(かそれに準ずるくらいの幼い頃の恋)の記憶です。

「あの日少年の君が大人びて見えてさよならも言えず傘に隠れた」の「傘」は自分を守ってくれる存在である親を表す比喩でしょう。友達関係から一歩踏み込んで恋愛に移ろうと「君」が踏み込んできたとき、歌い手はそれに戸惑いを感じてしまい、親の影に隠れるように距離を置いてしまった。結局、そのすれ違いが解消しないままふたりは離れ離れになってしまったけれども、あのとき、もし君の気持ちを受け入れていれば…なんてことを時々思い出してしまう(忘れ咲き)、そんな物語です。

まだ愛も恋も知らなかった時期、「ただ好きだ」と思った気持ちがいつまでもこうして残り続けて、ときどき振り返ってしまうんだよなあ、という気持ちが1番サビ部分です。

2番は急に解釈が難しくなります。
「夕暮れの空とか風に揺れる木々に見惚れるふりをしながら幾度過ごした」とありますが、「見惚れるふりをした」というのはいったい誰に対してでしょうか。
考えられるのは二つで、自分に対して嘘をついているか、そのとき付き合っている恋人に対して嘘をついているかのどちらかです。

私はこの曲がリリースされは2004年当時は私は自分に対して嘘をついていると解釈していました。
今さら君に連絡をとって君を困惑させることがないように(傷つけぬよう)、自分の君への思いが強くなりすぎて傷つくことがないように、君を思いつつ寂しくなる気持ちを押し殺すために美しい景色に見惚れようとしているのです。
こうして君への思いを適度に保ち続けることもある種の愛(愛だと名付ければそれが愛だと言える)でしょう。

君に何かを求めるわけではないけれど、ただずっと好きでいられたらいいと思う。いつもはぼんやり思っている程度だけれど、「孤独や躊躇い弱気が押し寄せる夜」にはふっとその思いが強く込み上げてきてしまう。

それでも、その込み上げてくる気持ち自体も君への思いがまだ歌い手の中に確かに生きている証拠だから。だから、この感覚が消えていく(思い出そっと枯れゆく)まで、まだこの気持ちを楽しんでいようと思う…そんな感じの歌だと感じました。

現在の解釈:愛する人がいてもなおその思いは持ち続けていい

でもちょっと当時の解釈だと「忘れ咲き」というには重すぎる感じです。この歌い手はずっとずっとひとりの人を思い続けていて、他に恋人を作らなかったのでしょうか。

そんなことを考えつつ、何十回、何百回と聴き込んでいくと、次第に2 番の「見惚れるふりをした」が段々と自分に対してではなく、そのときの恋人に対して嘘をついているように感じるようになりました。

恋人がとなりにいながらも心が恋人のほうを向いていないとき、歌い手は「夕暮れの空とか風に揺れる木々に見惚れ」ていたと恋人に言い訳をするのですが、本当は(いまの恋人ではない)「君」のことを思い出してたのです。

でもそのことを言ってしまったら当然恋人を傷つけることになるので、なるべく恋人を傷つけぬよう、そして自分自身も傷つかぬよう、君への気持ちを押し殺すわけですね。
愛がなんたるかは正直わからないけれど、いまの恋人のことも好きだし、相互に頼り合って生きている。愛だと名付ければこれも愛だと呼べるものなのじゃないかなと思う、と。

この恋人はもしかすると婚約者(あるいは既に結婚しているパートナー)なのかもしれません。恋愛から結婚に至るケースに限らず、自分の人生を考えたときに、ともに生きるパートナーが必要だからと結婚を目指した恋愛をはじめることもあるでしょう。でも、それであっても、何かを求め合うような関係だけじゃなくて、ただずっと好きでいる、そんな気持ちもまた持っていていいと思います。

懐かしさとともに蘇ったこの感覚は恋人(婚約者?パートナー?)には言えないけれど、消えていく(思い出そっと枯れゆく)まで、まだこの気持ちを楽しんでいよう…現在はそんな曲として聴いています。

おわりに

歌詞の解釈に正解はないのですが、20年聴き込んでくると、同じ曲がまた違って聴こえてきます。あなたはどのようにこの曲を聴いていましたでしょうか。ひとりでもふたりでもこういう話を面白いと思ってくれる人がいたら、ぜひコメントをいただけると嬉しいです。