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年末を駆け抜けよう!

 2023年12月29日、私はひたすら家の掃除に明け暮れていた。
 例年年末年始の休みに入るとほぼ同時に帰省していたのだが、昨年末(といってもつい一週間ほど前のことなのでなんだか変な感じだが)は様々な兼ね合いの結果30日の午後に帰ることにしており、比較的時間があったせいかなんか謎に力をいれて取り組んだ。当社比綺麗になったと思う。
 新幹線のチケットの都合もあり、この帰省の日程はかなり早めに決めていたのだが、この年末はいろいろとイレギュラーな予定が詰まっていた。

 C103こと2023年冬コミへの一般参加である。

 さらにそこから実家のある新潟への帰省までが30日のスケジュールだったので、今までで一番ばたついた年末だった。
 冬コミで年末を感じてから地方の実家にそのまま帰省、というルーティンを己の中に確立させている人はそう少なくないだろうが、私は寝て起きて頑張って東京駅に行って、新幹線にさえ乗ってしまえばあとはぐーたら寝正月という年末年始が長年のスタンダードだったため、この時期にこんなに活動的に動くのは初めてだ。
 かなり新鮮な心持ちだったせいか、この年末年始は特に「年末年始!」という心地を感じていなかった気がする。
 上述の通り冬休み開始即帰省の人間なので、もちろん冬コミも初めてだ。
 クソ寒い中みんなよう行くなと思っていたが、冬コミに参加するオタクからするとみんなよう帰るなと思われているのかもしれない。

 2023年の冬コミ、初日といえばtocodot(以下敬称略)での青空頒布が特に話題になっていた印象だが、例に漏れず私の目当ての大本命サークルもそこだった。大本命っていうか、普通に参加理由である。
 tocodotは今年の11月半ばに封切りし今も大好評公開中のアニメ映画のキャラクターデザイン・総作監を勤めた方のサークルで、映画のヒットを受け早々に大激戦が予想されたところだ。諸々のご事情で通販もない(※アニメーターや関係者の非公式同人誌に関して、「通販は難しい」と明言しているクリエイターにSNSなどを通じて直接「通販のご慈悲を」「公式で受注生産を」「転売対策を」などと伝える行為は極力控えよう! 無理なものは無理だし転売に関して心を痛めているのはクリエイター側だって同じな上、通販できないのはクリエイター側に慈悲がないからでは決してないよ! 通販できているコンテンツは制作側が寛容なだけだよ! ていうかあの規模を捌かなきゃいけない個人が完璧な転売対策までできてたらどんな企業も苦労しねーよ!)。
 すみません、オタクの怒りが出てしまいました。

 もともとかなり早い段階から冬コミにサークル参加をする旨を告知してらしたのだが、私がそれを思い出したのはもうアーリー参加の抽選が終わったあたりの頃で(ずっと映画の内容とコンテンツを咀嚼するのに必死だった)、さすがにアーリーですら無いなら入手は難しいだろう、夏コミでの再販も明言してくださっていることだし……大人しく夏コミで頑張ろう……と物分かりの良いような顔をするだけして、実際は通話とかで「夏コミなんか参加したくないヤダヤダヤダヤダ」とメチャメチャ情けなく駄々を捏ねていた。でも本当に可能なら人間は夏コミなんか参加しないほうが良い。

 身の回りにサークル参加者がいないではなかったのだが、そもそもコミケのサクチケは1サークルにつき3枚から2枚に減らされており、まず「サクチケが余る」という状況自体が発生しづらくなっていた。良いことです。
 本当に……本当にたまたま今年は冬コミに参加してからでも間に合う新幹線のチケットを予約していたので、どうにかなんとかならないか……とすご~くいろいろ考えた結果、「観念して夏コミに参加する」という暗澹たる結論に至っていたのだが、12月頭に転機が生じた。
 私の情けない駄々を知っていたフォロワーが、「ちょっとした条件を承諾してもらえるならサクチケをお譲りできる」という方をご紹介してくれたのである。
 ご紹介っていうかフォロワーのフォロワーであり(これを機に繋がったので今はフォロワー)、なんなら結構通話とかで鉢合わせて雀卓を囲んでいたりしたので全くの見知らぬ他人というわけでは全然なかったのだが、譲っていただくサクチケはその方の同居人のものということだった。
 そのためサクチケを譲ってくださった方自体は全くの見知らぬ他人であり、つまりお二人ともものすご~~~~く情け深く親切な方ということです。本当に涙が出るほどありがたい話であり、話を通してくれたフォロワーも大変ありがとうございました。
 条件というのも「買い物が終わり次第スペースに戻ってお手伝いをする」という至極真っ当かつ当然のものであり、一も二もなく飛びついた。ここで働かせてください!!!!!
 
 これが今年の帰省RTAに至るまでの経緯である。 
 そんなわけでということでもないのだが、気合いを入れて29日は真剣大掃除に取り組んでいたところ、何故かこの年の瀬になって突然ものもらいを患ったり真剣すぎてしなくて良い掃除に取り組んでしまったりと妙に時間をロスし、冬コミ当日である翌日は朝4時半起床予定だったにも関わらず就寝したのは1時半過ぎだった。帰省RTAは前日から始まっているという覚悟がまるで足りていなかった証左であり、反省。

 さて当日、覚悟が足りていなかった代償として睡眠時間は3時間に満たなかったものののなんとか起床には成功した。帰省の荷物を途中で新橋駅に預けるミッションも無事クリアし、あとはもうオタクについていけば道なんか覚えていなくともビッグサイトまで余裕である。
 そういえば駅でのオタクダッシュって見なくなった印象なのだが、これは私が幸運なだけで今もオタクは走っているのだろうか。チケット制になってからは減った気がするけど、まあ駅だろうと会場だろうと走らないでね。

 当日の動きに関してはタイムスケジュールもしっかりめに組んでいたし、結構イメトレも積んでいた。オタクがイメトレしてるからなんなんだよって感じだが、どう考えても当初充てられていたスペースで捌けるわけがないので、まあ昨年のはまじあき先生のような感じでスペースが移動になるだろう……みたいな、そういう……結局だからなんなんだよみたいな想定をとりあえずしていた。だからなんなんだよ。
 なおtocodotに関する想定しか重ねていなかったので、欲しいと思っていた本は2冊ほど頭からすっぽ抜けていたしスペースナンバーにアルファベットが充てられているサークルは大文字・小文字で会場が違うことなどもすっかり忘れていた。準備不足の一言である。言い訳すると本当に買えるか不安でtocodotのことしか考えられなかった。それにしたって地図くらい作れよ。

 まあ案の定tocodotはスペースは移動となり、今回特別に会場の中で外周待機列を作成するお許しが出たので、8時20分前後、私は東2のあたりで並んでいた。もちろん東1にも待機列があり、すでに700人以上並んでいるらしい。オタクっていっぱいいるね。
 最初どこにいったらいいかよくわからず、なるべく邪魔にならなさそうなところでスペース周辺をぼんやり見ていたのだが、同じサークル目当てのお姉さんが話しかけてくれて、あのへんに待機列っぽいものがある気がする……私もよくわからないが……というようなことを教えてくれたりした。ありがとうお姉さん。視野が狭すぎてマジで待機列を認識できていなかったので、あのお姉さんがいなかったらさらに無駄に時間をロスしていた。

 待機列に並んでいる大半のオタクがtocodot目当てであり、「9? 9ならここ!」(※9:tocodotのスペースナンバーの一部)みたいな誘導も結構聞こえた。スタッフさんからは列に向けて「あの搬入量見たァ!? 俺なら後回しにするよ!?」みたいな声も掛けられたりした。実際ものすごい段ボールの量だったし、マジで午後入場でも買えたらしい。頭が上がらない。
 移動は確定したものの続報が来ない。来ないがとりあえずtocodot含む東1周辺のシャッター前サークルに行きたいオタクたちがゆるりゆるりと外周に回され、目当てのサークルごとに左右に分かれて進む。よくわからないがtocodotは右に進んでいくとあるらしい。右ってなに?
 私は東1の外周とそこそこ前の方についていたはずなのだが、最後尾はもちろん先頭もすら目視できていない。しかしSNSによるとこの外周列は東3のほうまで続いているらしかった。東3ってつまりどこ???
 果てしない列の中、どこに向かっているのかもわからないままきっとこの先にスペースがあるのだろうと信じ、晴れ渡った空の下をゆっくり進んだり呆然としたりしていると、所謂シャッター前が見えてきた。別のサークルのものではあるが、すでに列形成が為されている。
 ああじゃあtocodotもこのへんのシャッター前なのかな? と思ったのも束の間、さらに進むとシャッター前ですらない、よくわかんない……知らない空間……強いて言うならシャッター前の前、雲一つない蒼穹に向かって段ボールが山と積まれている。
 1ホール外。そこで行われた頒布こそ青空頒布である。1ホール外ってなに?

 初耳かつ初見のスペースに向かわされてかなりビックリしたが、無事お目当ての新刊は買えた。もうほんととんでもなく嬉しいけど、変な時間のロスをしていなければ既刊も買えたような気がする。悔しい。
 それはそれとして申し込み&配置時は全く想定していなかった事態であろうに、スムーズな頒布を行い13時半まで在庫を保たせてくださったサークル様及び混乱なく列整理・成形を行ってくださったコミケスタッフの皆様、本当にありがとうございました。
 しかし本当~~~~に天候・気温ともに恵まれた日で良かった。
 この日のために靴に仕込むタイプのホッカイロを買ったのを全然忘れて会場に向かっていたのだが、特になくても問題なかった。

 いろいろはまあ経験として、新刊を手にした喜びを嚙み締めつつ頼まれていたおつかいを済ませてサクチケを譲ってくださった方のサークルに向かう。東1から7への移動も大概地の果てだと思いながら歩いていたのだが、東から西への移動のほうがずっと果てだった。
 件のサークルは透明感溢れるソシャゲジャンルの壁サーということだが、実のところ特別人員が不足しているというようなことはないので、そこまで忙しくはないと思う! と事前に言われていたのだが、実際向かってみたところまず目に入ってきたのはたくさんのオタクに列途中札、そして一生懸命列整理してる人であり……最後尾は……見えない。

フォロワー「なんか……すごいことになってません?」
ぼく「なんか……すごいことになってますね」

 列整理をしている方に話しかけたところ、こっちは今のところ列成形で手一杯だからとりあえず外に出されている最後尾のほうの列を整理してくれということだった。道理で見えないわけである。
 数時間前まで列で整理される側だったのに、今は列を整理する側に回っている……アツいぜ!
 よくわかんないけどなんかコミケっぽくて良い。
 寄せても別に返さないオタクの波を頑張って整理していると、途中からサークル主さんから「すみません、中のほう人足りてなくて……こっち手伝ってもらえますか?」とお声がかかり、列成形をコミケのスタッフさんにバトンタッチさせてもらいスペースのほうに向かう。私が整理していたときは一列だった列はその後三列になっていた。コミケのスタッフさんってすごい。
 なんでも新刊セットを作り終わっていないということで、そこからは無限に新刊セットを作っていた。新刊用意! アクスタ二種用意! クソデカクリアファイルにセット! これを在庫が尽きるまで繰り返す。
 在庫も無限だったがオタクも無限だった。新刊セットの在庫をとりあえず段ボールn箱分くらいは作れたなということろで何回かゴミ捨てのためスペースとゴミ捨て場の往復をしたのだが、その間に無限に作ったはずの新刊セットが完売していた。在庫もオタクも終わりってあったんだ。

 ちょうどこれくらいの時間でそろそろビッグサイトを出ないといけない時間になり、無事会場をあとにさせていただいた。
 コミケ(及び各同人誌即売会)でよく言われる言葉として「全員が参加者、お客様はいない」というものがあるが、今回は特にその言葉を実感できる体験ができて面白かった。
 サークル主さんには「あんま働かなくていいって言ってたのにごめんね……」という感じで謝られてしまったが、壁サーってこんなに忙しいんだ……みたいな知見が得られて楽しかった(もちろんさまざまな状況にもよるのだろうが)。滅多にできない体験なので……。あとなによりサクチケ譲っていただいている身なので、全然人生で一番明るい気持ちで諸作業に従事させていただいた。
 むしろ不慣れな未熟者が混ざっていて申し訳ない気持ちだし、正直今も結構何かやらかしていたんじゃないかと心配している。

 心理的な距離としては特別近しいわけでもない方たちにこうして親切にしていただけたことは、ありがたいご縁以外のなにものでもない。感謝の気持ちを忘れないようにしよう……という気持ちを胸に、戦利品を抱えながら無心で帰路につくオタクたちの後をついていったら予定とは逆方向の駅に着いていてめちゃくちゃビックリした。
 無事新幹線には間に合ったので良かったです。帰省RTA、完!


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