文学館のアレ。

昨今話題になっている「文アル」「文スト」の文学館タイアップのあれこれが気になってしまった。自分は文ストを齧った文アルオタクなので若干贔屓目になっているところは否めないが、なんとなく気になった箇所を調べていこうと思う。

まず、一つ目に実際にそれぞれのジャンルで行ったコラボ、タイアップを見ていく。二つ目にそれぞれに関連して書かれた論文について検討していきたい。
インターネットの海に残っている情報のみで構成してしまったため、荒い部分はあるだろうが、自分が気になってしまったからには調べてまとめておくに越したことはないだろう。

文学館コラボの先駆けとなったのは文豪ストレイドッグス(以下文スト)である。

2014年   神奈川近代文学館
2016年8月 中原中也記念館(中原中也)
      与謝野晶子記念館(与謝野晶子)
2016年10月 田端文士村記念館(芥川龍之介、太宰治) 
       森鷗外記念館(森鷗外)
2016年11月 与謝野晶子記念館(与謝野晶子)
2017年2月 台東区立一葉記念館(樋口一葉)
2017年4月 谷崎潤一郎記念館(谷崎潤一郎)
      さいたま文学館(中島敦、太宰治、田山花袋)
2017年7月 山梨県立文学館(樋口一葉、芥川龍之介)
      城下町佐伯国木田独歩館(国木田独歩)
2017年10月 中原中也記念館(中原中也)
2017年12月 台東区立一葉記念館(樋口一葉)
2018年11月 高知県立文学館コラボ(江戸川乱歩)
2018年12月 新宿区(漱石山房記念館、新宿歴史博物館)(オールキャラ?)

横着なので一覧にしているサイトがないか調べたのだが、見つからなかったため、簡単にではあるが一覧にしてみた。公式SNSのID、「館 コラボ」で検索したものとプレスリリースサイトで「文豪ストレイドッグス 館 コラボ」で検索し、出てきたものを年度順に並べた。1番最初にコラボしたのは2014年で文アルよりも3年ほど早い。年間を通してもコンスタントに行っていたことがわかる。サイトにも記載があったが、どのコラボにおいても原作者の新規書き下ろしのグッズ配布があったり、キャラのスタンディがあったりとファンにとっては必見な催しであったことは想像できる。また、記念館の特別展に合わせて開催されているパターンもあり、文ストから「文学」へのコネクターの役割もあったように思う。しかし、2018年以降は検索の仕方が悪かったのか、コラボの様子を見つけることができなかった。

では、文豪とアルケミスト(以下文アル)はどうだろうか。

2017年7月 武者小路実篤記念館(武者小路実篤)
   9月 菊池寛記念館(菊池寛)
2018年1月 金沢三文豪スタンプラリー(徳田秋声、泉鏡花、室生犀星)
   7月 小樽文学館(幸田露伴、有島武郎、志賀直哉、北原白秋、石川啄木、宮沢賢治、中野重治、小林多喜二)
   10月 菊池寛記念館(菊池寛)
      武者小路実篤記念館(武者小路実篤)
2019年7月 新宿区(漱石山房記念館、新宿歴史博物館)(芥川龍之介、夏目漱石、久米正雄)
2020年1月 さいたま文学館(太宰治)
    9月 こおりやま文学の森資料館(久米正雄)
      金沢みらい茶会(徳田秋声、泉鏡花、室生犀星)
      田端文士村記念館(芥川龍之介、室生犀星、萩原朔太郎、堀辰雄、中野重治、菊池寛)
      菊池寛記念館(菊池寛)
    10月 小泉八雲記念館(小泉八雲)
    12月 菊池寛記念館(菊池寛)
2021年3月 さいたま文学館(江戸川乱歩)
    2月 虚子記念文学館(高浜虚子)
       菊池寛記念館(菊池寛)
    4月 いわき市立草野心平記念文学館(草野心平)
       焼津小泉八雲記念館(小泉八雲)
    6月 軽井沢絵本の森美術館、軽井沢高原文庫(ルイスキャロル、芥川龍之介、菊池寛、堀辰雄)
    7月 青梅市吉川英治記念館(吉川英治)
      にいがた文化の記憶館(松岡譲)
    12月 虚子記念文学館(高浜虚子)
2022年1月 神戸文学館(小泉八雲、夏目漱石、正岡子規、高浜虚子、谷崎潤一郎、江戸川乱歩、堀辰雄、横光利一)
      ~神々の国の首都に魅せられた文豪たち~スタンプラリー(小泉八雲記念館、興雲閣、月照寺、皆美館)(島崎藤村、芥川龍之介、志賀直哉、小泉八雲)
    6月 青梅市吉川英治記念館(吉川英治)
       市立小樽文学館(小林多喜二、石川啄木、志賀直哉、武者小路実篤、萩原朔太郎)
    8月 さいたま文学館(永井荷風)
       横浜市立山内図書館(佐藤春夫)
    9月 新宿区(漱石山房記念館、新宿歴史博物館、林芙美子記念館、佐伯祐三アトリエ記念館、中村彝アトリエ記念館)(夏目漱石、芥川龍之介、松岡譲、泉鏡花、尾崎紅葉、小泉八雲、川端康成、武者小路実篤、中野重治)
       賢治フェスティバル(宮沢賢治童話村、宮沢賢治記念館、宮沢賢治イーハトーブ館、高村光太郎記念館)(宮沢賢治、高村光太郎)
       神奈川近代文学館(川端康成、横光利一、菊池寛)
   10月 北原白秋生家・記念館(北原白秋)
       小諸市藤村記念館(島崎藤村)
   11月 ~神々の国の首都に魅せられた文豪たち~スタンプラリー(小泉八雲記念館、皆美館、島根県立美術館、堀川遊覧船ふれあい広場乗船場)(島崎藤村、芥川龍之介、志賀直哉、小泉八雲)
      藤村記念館(島崎藤村)
      十二文豪図書館ニ降臨ス(石川県立図書館)(徳田秋声、泉鏡花、室生犀星、島田清次郎、芥川龍之介、太宰治、菊池寛、萩原朔太郎、江戸川乱歩、中野重治、坂口安吾、志賀直哉)
   12月 熊本市徳富記念園(徳冨蘆花)
2023年7月 青梅市吉川英治記念館(吉川英治)
   10月 神奈川近代文学館(井伏鱒二)
2024年5月 神戸文学館(永井荷風、島崎藤村、志賀直哉、岩野泡鳴、尾崎放哉、柳田國男、河東碧梧桐、徳田秋声)
    6月 早稲田大学演劇博物館(坪内逍遥)
    7月 新美南吉記念館(新美南吉)
       青梅市吉川英治記念館(吉川英治)

公式サイトの関連情報、イベント欄より「タイアップ」となっている記念館、文学館を抜粋してみた。2020年から2022年にかけては年間10回近くのタイアップがなされていた。また、武者小路実篤記念館や菊池寛記念館、吉川英治記念館は複数回のタイアップを行っている。一人を対象とした記念館はもちろん、もう少し規模を大きくして複数の文豪を扱っている催しも多くあった。また、「金沢三文豪」を筆頭に自治体規模で取り組んでいるものも多く「複数の記念館、文学館、博物館」へ足を運ばせる試みも多かったように感じられる。これらのタイアップでは「書き下ろし」のグッズを作成している場合もあれば、既存絵のみの場合も存在しており、その点は文ストよりはファンの満足度が低い可能性もあるだろう。

そもそもだが、文ストは「コラボ」文アルは「タイアップ」という言葉を使っている。同じようなことをしているのに名称が違うのは業務形態の違いがありそうだ。一旦言葉の意味を調べてみる。

コラボ
「コラボレーション」の略。企業や著名なデザイナー、タレントなどが協力して商品開発を行うことなどを指す語。

実用日本語表現辞典

タイアップ
「tie up」は英語のフレーズで、直訳すると「縛り上げる」である。しかし、このフレーズは直訳だけではなく、様々な文脈で使用され、その意味も多岐にわたる。具体的には、「資源や時間を占有する」、「取引や契約を結ぶ」、「物事を整理・結論づける」などの意味合いを持つ。

実用日本語表現辞典

要するに、主軸をどこに置くかという問題のようだ。コラボであれば「ハイクオリティな作品を二者で作り上げる」タイアップであれば「広告効果を用いて利益を得ることを目標とする」というわけである。
そうなると文ストは毎回「書き下ろし」を出すことが必須になってくるのだろう。アニメや漫画の立ち絵でスタンディを出すのは容易であるが、「書き下ろし」ともなると連載を持っている漫画家さんに対して高頻度で要求することは難しいのではないか。そうすると、文アルのようにゲームの立ち絵のスタンディなど既存絵を用いることで開催のハードルが低くなっているのではないかと考えられる。開催のプロセスがあまりわかっていないので何とも言えないが……

二点目に関連して書かれた論文の検討を行っていきたい。
どちらのコラボもそれぞれ一本ずつ「研究展望」として昭和文学研究に論を掲載している。文ストは中原中也記念館の池田誠氏、文アルはさいたま文学館の影山亮氏だ。さいたま文学館の論に関しては例によって読んでいる方も多いかもしれないが再度見ていこう。

 文ストのコラボについては2016年、2017年に開催されたものを踏まえての論となっている。元々若年層の入館者が少ないことから行っていた18歳以下の入場料無料や副読本の配布などのアプローチに加えて「文ストコラボ」という手段を取ったという経緯があるようだ。結果として18歳以下の入館者が昨年(=2015年)比で八倍増加するなどの一定の効果は見受けられたとの記述がある。自身ではこの部分を正しい意味で要約できないと思われるため引用しておこう。

 そして当初の期待以上だったのが、コラボ期間中の来館者における中也の詩に対する関心の深さである。当館では当時、好きな中也の詩とその詩についての感想などを投稿するアンケートコーナーを設置していた。「文スト」コラボ開催当初は「文スト」のなかの「中原中也」に対するメッセージを綴る方が増えるのではないかと予想していた。しかし実際は多種多様な中也の詩が挙げられ、感想も詩の言葉を丁寧に読み込んだ上で書かれたものが多かった。
 二度目のコラボが終了してから約一〇ヶ月が経過し、「文スト」コラボが当館にもたらした影響も落ち着いてきた。来館者アンケートやSNS等では新たな「文スト」コラボを期待する声を数多くいただいている。明確な数字は出せないが、「文スト」の影響で中也の読者は増えたし、「文スト」ファンと中原中也記念館の結びつきは続いている。しかし一方で、「中原中也の会」の会員数は特に大きな変化はなく、当館主催のイベント等に参加者が殺到するような現象は今のところ起きていない。「文スト」コラボの熱気が残るところとそうでないところという温度差のある場が共存しているというのが現状である。コラボコミック・アニメ・ゲームのいわゆる「文豪ブーム」が、旧来の文学ファン層の場とどのように交わるのか。そして文学館の役割はどこにあるのか。これから少しずつ明らかになっていくものと思われる。

池田 誠. 「文豪ストレイドッグス」と文学館のコラボについて : 中原中也記念館を例として. 昭和文学研究 = Showa literary studies / 昭和文学会編集委員会 編. 78:2019.3,p.171-173.

コラボのタイミングでは来場者が増えたが、継続的な来場者の上昇や学術的な興味にはつながらなかった。「コラボの熱気が残るところとそうでないところという温度差のある場が共存している」とあるが、他の文学館・記念館では持続的なファンがついたということなのだろうか。このあたりはうまく資料を見つけることができなかった。

文アルではさいたま文学館で開催された2020年「太宰治展」2021年「江戸川乱歩展」について言及している。また、他の文学館にも触れられており、都市部だけでなく全国的に動員数が増えたことを示している。このことから影山氏は「文アル」ファンがゲームを便覧のような役割として受けとり、一次資料にあたり、点で得ていた知識をつなげるために来場するのではないかと捉えている。それらを印象づけるものとしてこのようなファンの姿が挙げられるのだろう。

  しかし大勢の傾向としては、「文アル」とのタイアップが文学館・記念館への来場者増加につながっているのは事実だ。加えて「文アル」ユーザーは、観覧に掛ける時間が二時間程度で、撮影禁止が常である展示室において解説パネルをメモにとり、退館後にまとめたものをSNSにアップする方が非常に多い。この点も好材料であろう。

影山 亮. 文学館・記念館の役割(キュレーション). 昭和文学研究 = Showa literary studies / 昭和文学会編集委員会 編. 85:2022.9,p.175-177.

文ストと比較して文アルはもとの文士に近しい存在であるが故に、もとの文士の情報は「キャラクター」の解釈に直結すると言っても過言ではない。ゲームで描かれていなくとも、史実ではこのようなことが起こっていたと知ることでまた「キャラクター」の解像度が上がっていくと考えられる。また、特筆しておきたい点として他の文学館・記念館より情報を提供頂いている点を挙げたい。他の文学館・記念館においても来場者数が上昇していることを示すことでこの論の強度がぐんと上がっていると見受けられる。それだけ、タイアップの効果が見受けられたと捉えることもできるのではないだろうか。

同じ属性である「文学館」の「学芸員」の方が書いた論を比較してみたが、文士の傾向の違いや書かれた年代もあり完全なる比較は少々難しい。しかし、どちらにおいても「文学」に対して真摯に向き合っているファンが存在していることは間違いない。その中で一過性なのか、継続的なのかという違いだけである。近年コラボを行っていない文ストがまた文学館コラボを行うのであれば違った結果が得られるのかもしれない。

疲れてきたのでこれはおまけくらいで読み流してほしい。実際に「研究対象」とされている論はどれくらいあるのか。NDLオンラインにて「(文豪ストレイドッグス・文豪とアルケミスト)」で検索した。すると、文ストは3件文アルは15件見つけることができた。文ストは先程の研究展望が1件、後の2件は文ストと文アルのコンテンツ、「夢野久作」の扱い方の比較であった。文アルは文豪コンテンツに関連するものが6件、文豪にフォーカスしたものが4件、教育に関連したものが2件、文学館の立場で書かれたものが3件と多様になっている。どの論も一応読んだことはあるが、「書かれているから良い」というわけではない。文アルがリリースされてすぐに書かれた大杉氏の論文では「文豪」たちが「美青年として描かれ」それらを「腐女子」と呼ばれる「BL萌えの女性たち」によって「性愛を想像し、二次創作に興じている」と評価されているのだ。文豪コンテンツに理解を示してくれる研究者も一定数いらっしゃるがあくまでも「キャラクター」と本来の文士は切り離された存在であることは心に留めておきたい。

ここからは少し自分のお気持ち表明のような部分になるため、読み飛ばして頂いても構わない。そもそも、論文というもの自体が一つのテーマに絞って書くものであろう。特に氏の書いた論は「実際のタイアップ経験から」と丁寧に条件づけしていたにも関わらず、それを咎められていてなかなか驚いたものだ。比較して書くにはどちらにも同じだけの経験や調査が必要になる。経験を元に書く論であれば片方は調査だけになってしまって論文としての強度を持ち得ないだろうというのがいち個人の考えだ。文アルに関連して書かれた論文たちだって受け入れられているものばかりではないし、むしろ「消費ばかりして」といったものも少なくない。それに対して「テクスト(や文士)に真摯な人間もいるよ」というだけの話であってあんなに言われるのも悲しいなあと思った次第である。
 また、今回調査(と言っていいかは疑問だが)を行ってみて文ストにおいては「書き下ろしグッズをゲットする使命」が優先されたのではないかなと感じた。推しキャラの新規絵があったらほしいと思わないか?自分はほしい。文アルでもスタンディを見にいく、新規書き下ろしがあるから見にいくなどの特定の場合だけ見にいくユーザーも多くいるだろう。結局、どんなジャンルだって「学術的に見るよう移行していく人」と「キャラクターとして消費していく人」がいるのは変わらない。文アルはその比率が少々前者に寄っているように見えたというだけだ。

現在、角川のサイトが見られない関係で文ストの公式サイトが見られなかった。公式サイトには今までのコラボの情報なども記載があるのだろうが、その情報がないため抜けがあると思われるので近日中に加筆修正させていただく。

今回、このような調査をするに至ったのはこのブロックを見たからというのが大きい

“文ストはアニメ化時期に集中的に文学館コラボをするし、『月に吠えらんねえ』に関しては月刊誌連載が終わっているので、コラボの機会自体は文アルの方が設定しやすいのは間違いない。しかし、コラボ時期は文ストが最初であるし、そこから文学館に通うようになれば、自然と文アルコラボの時期に足を運ぶことになる。文アルと文ストは共通して登場する文豪が極めて多いからである。
そもそも、文豪ストレイドッグスとはタイアップしていない文学館も多い。文アルとコラボする文学館に足を運べば、「文アルありがとう! 文ストと全然違っていい!」と言い続ける文学関係者の声が大きいのであれば、これからは来館時きちんと毎度アンケートに「文ストからのファンです」としつこく書いていかないと、蔑視されてしまうのだろうか、と心が苦しくなる。”


女性の文士と一部の文学館・記念館を除くと確かにかぶっている様子は見られる。それらを全て「文スト」が先にコラボしたから!は少し詭弁ではないだろうか。先程も書いたが、結局、どんなジャンルだって「学術的に見るよう移行していく人」と「キャラクターとして消費していく人」がいるのは変わらない。

まあいろいろ書いたが、最終的に言いたいこととしては相手を蔑ろにしたかったわけではないということだ。使命の元に書かれた文章をこのようなお気持ちで汚してしまうのは少々忍びないが、自分が文豪コンテンツと文学の研究領域の両方に接したからこそこのような状況に心を痛めたというだけの話である。これも詭弁まみれでお気持ち表明でしかないが、ちょっと頑張った気持ちもあるので書き残しておこうと思う。

参考文献

池田 誠. 「文豪ストレイドッグス」と文学館のコラボについて : 中原中也記念館を例として. 昭和文学研究 = Showa literary studies / 昭和文学会編集委員会 編. 78:2019.3,p.171-173. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I029626317

影山 亮. 文学館・記念館の役割(キュレーション). 昭和文学研究 = Showa literary studies / 昭和文学会編集委員会 編. 85:2022.9,p.175-177. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I032396490

大杉 重男. 『文豪とアルケミスト』から読む徳田秋声. 論樹 / 論樹の会 編. (28):2016.12,p.105-116. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I028106923

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