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文字盤上の天使の分け前 Grateful Dead - Wake of the Flood: Angel's Share

2020年、最初の天使の分け前である、Workingman's Dead: Angel's Shareがリリースされた時から、天体の運行のようにあらかじめ決定されていたことなのだが、いざ、その2023年夏が予定通りに訪れてみれば、感謝する死者たちの天使の分け前三つ目は、1973年から半世紀も生きてしまった人間にとっては、お前はもうおいぼれだ、と宣告されたようなもので、ヘイリーズ・コメット同様、まだ地上にある人間におおいなる動揺を与える妖星だった。

1996年、リリースから30年を記念して、ビーチボーイズの(あるいは「ブライアン・ウィルソンの」と云うべきか)Pet Sounds Sessions Boxがリリースされた時は、ただただ驚異のマスタリングに夢中になって、毎日聴きつづけるばかり、自分の年齢のことなど、チラリとも思わなかった。

よくないのはビートルズだ。2017年、半世紀を記念したサージャント・ペパーズのデラックス・エディションが登場した時、あのサマー・オヴ・ラヴ、1967年夏には、ただただ音楽とフェリス女学院の少女に夢中になっていた子供は、あれから半世紀たち、見渡せば花も紅葉もなかりけり、浦の苫屋の秋の夕暮れに立ち尽くす老人に鏡の中でばったり出遭い、ウィリアム・ウィルソンのように、おのれの死の影に震えた。そして、カウントダウンがはじまり、1970/2020年からは、感謝する死者たちが天使に盗まれた酒の貯蔵所を披露することで、ペパーズが起動した時計の進みを引き継いだ。

もはや、Pet Sounds Sessions Boxにあった、純粋な音の歓喜はない。死者たちは文字通り、死神の使いとなって、よごとよごとに枕辺を訪れ、洪水の弔いをしている。

くだらない想念、ばかげた老いの繰言は追い払い、かつて死ぬほど聴いた、創立されたばかりのグレイトフル・デッド・レコードの最初のリリースの舞台裏を聴こう……としたのだが、最初のふたつの天使の分け前の時も気になってしかたのなかった、見慣れない注釈がまた記されていて、どうにも落ち着かない。

タイトル、テイク番号のあとに、[slated]または [not slated]とブラケットで囲んで注釈が記されている


このslatedだのnot slatedというのはいったいなんなのだ? セッションズものはずいぶん聴いたが、「スレイト」なんて注釈はデッドの三つの天使の分け前以外では見たことも聞いたこともない。2020年のWorkingman's Dead: Angel's Shareのときも、わからなくて、調べたが、解決できなかった。まずこの問題を片づけなければ!

(「続・文字盤上の天使の分け前 Grateful Dead - Wake of the Flood: Angel's Share」につづく)


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