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角由紀子の「ビゲローコンテストチャレンジ」その5

アメリカの大富豪ロバート・ビゲローが主催する死後の世界についての論文コンテストに私、角由紀子は経営戦略コンサルタントで地下クイズ王の鈴木貴博さんと組んでチャレンジしました。

全部で5章からなる死後の世界の存在証明論文。これが最終章です。死後の世界と霊魂の特性について、これから先、どのように研究が進んでいくのかを想像しながら、未知の現象について論点と仮説を整理してみました。

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5 心霊研究から想定される霊魂と死後の世界の性質

 さて、本来ならこのエッセイは4章をもって結論となっているのだが、最後にもう一章、書いておきたいことがある。この章は4章で提案した宇宙実験が成功した後の、未来の物理学と心霊科学の発展に関する話だ。
 霊魂の存在が確認できた次のステップでは、心霊研究から判明しているさまざまな現象を、物理学の視点で再構成することが必要だ。そのことで死後の世界の性質がより詳細に理解できるようになるとともに、その性質がこの世界を物理学の視点で解明する手掛かりにもなる。
 以下、順を追ってそれらの性質を述べていこう。

5-1 時間の進み方

 まず時間の進み方の違いについて考察したい。
 臨死体験で時間の進み方が違っていたという証言が数多くある。6相対性理論的には太陽系内の地球の重力圏にある余剰次元では、地球と同じ時間の進み方になるはずだ。重力の影響が同じである以上、死後の霊魂の世界での時間の進み方がストップモーションのようにゆっくり流れているとは考えにくい。
 しかしわれわれが知覚する時間の進み方は脳のニューロンの処理速度に依存している。もし霊魂の情報処理速度が脳よりも早ければ、霊魂は臨死体験のわずかな時間の中で数時間もの体験に思える経験をする可能性は十分にある。
 つまりパソコンに例えればわれわれの脳はクロック数が遅く、霊魂はそれと比較して1000倍規模、コンピューターの用語で言えばメガヘルツとギガヘルツぐらいの倍率の違いでクロック数が速いのかもしれない。

5-2 魂の情報量

 一方で、情報科学の視点で霊魂の現象を考察すると、霊魂が持つ現世や前世での情報量は逆に人間の脳よりもはるかに小さいかもしれない。
 筆者の前世での記憶は明瞭であるがきわめて断片的なものだった。本当は前世では十数年の人生を歩み、前世の肉体の脳はそれだけの記憶を持っていたはずだ。しかし死後の霊魂が記憶していたのは前世の記憶のごくごく一部でしかなかった。
 臨死体験の記憶だって同様にわずかだったし、蘇生後に覚えていた臨死体験の記憶は断片的だった。
 あくまで個人の体験を通じたイメージだが人間の脳の記憶容量が100TBのハードディスクだとすれば、霊魂は1GBぐらいの時代遅れのUSBメモリ程度の生前の記憶しか持ち運んでいないように感じる。そして霊魂が保持できる記憶量はそれほど多くないとすれば、霊魂は人間の肉体よりもずっと小さいのかもしれない。

5-3 魂と肉体の性能差

 われわれがこの章で前提にしていることは、哲学的に言う魂と肉体の二元論だ。物質主義者は人間の思考はすべて脳の機能だと考えるが、心霊研究家は二元論の立場で脳と魂は異なる機能を持っていると考える。
 われわれの経験を通じて考察すれば物質主義者が脳の機能と考えるもののうち、意識は魂が担当し、思考や感情は脳が担当すると考えるのが、臨死体験などの経験に沿っていると思える。
 魂と肉体の性能差については、どうやら肉体、なかでもわれわれの脳のほうが魂よりも性能が高そうだ。米国空軍の最新兵器にたとえると魂をパイロットとすれば肉体はF-22戦闘機のようなものだ。パイロットは意思をもってF-22を操るが、ハードウェアとしての能力はF-22のほうがはるかに高い。
 つまり肉体はハードウェア的な能力としては、魂の能力を超える。たぶん魂だけの性能では超ひも理論のような複雑で美しい数学的な思考による理論は生み出すことができない。
 これは死後の世界があれほど多幸感にあふれた世界であるにもかかわらず、魂が懲りずに再び転生を試みる理由かもしれない。この苦難に満ちた人生をふたたび歩まんと魂が考えるのは、肉体とつながることに魂にとってのインセンティブがあるからに違いないのだ。
 ここから推論すると、人間が死ぬと自動的に魂と肉体の結合が切れるわけではないようだ。そうではなく肉体が死ぬとその利用価値がなくなるため、霊魂、すなわちわれわれは意識的に肉体との結合を解除するのである。魂は意外と功利的なのだ。
 一方でたまに自分が死んだことに気づかずにその場に居続ける魂もある。それをわれわれ心霊研究家は幽霊と呼んでいる。大半の死のケースではそうならずに、肉体が死ぬと霊魂は脳との結合を解除する。そのときはじめて、脳の巨大な情報処理能力から解放されることで、魂は我にかえるのである。ああ、わたしは魂だったのだと。これが臨死体験だ。

5-4 感情と意識の違い

 臨死体験における死後の世界が幸せな感情にあふれていることにも理由がある。
 肉体は生存本能のために恐怖や心配などの感情を、セロトニンのような化学物質の分泌を通じて生じさせる。つまり不安な感情や、不幸な気持ちは生存競争に勝つための脳の機能なのだ。魂になったときそれらの本能は不要になるから、喜び以外の感情を持つ必要がなくなるわけだ。

5-5 魂の複製

 霊魂は、われわれの世界で言うクォークのような単体の素粒子ではなく、原子がいくつも有機的に集まってできた高分子の生命のような構造を持っているはずだと述べた。
 しかし霊魂の性質はそれだけではない。ひとつの魂は肉体とは違い、いくつにも分かれることができるようだ。情報科学的に言えば自己複製が可能と言ってもいい。
 これは臨死体験や心理霊媒師との体験から考えられることだが、死んだ人の魂は死後、家族ひとりひとりの元に、愛する人や友人たちの元にいつもいることができるようだ。6人間の肉体は分割できないが、魂はアメーバと同じように分割も複製もできると考えるべきなのではないだろうか。もちろんわれわれの期待感としては人間の肉体よりも高度に進化したアメーバなのだろうが。

5-6 魂の質量と大きさ

 以上は魂の意識としての特徴だが、次に魂の物理的な特徴を論じたい。魂のサイズは意外と小さいかもしれない。
 そもそも万物の根源であるひもはプランクスケールの大きさしかないと考えられている。ところがわれわれの三次元世界ではそれがクォークになる際に100万倍に大きくなる。そのクォーク3つがグルーオンの強い力で陽子になるとさらに100億倍に膨れ上がる。その陽子が原子核となり周囲に電子雲が生まれることで原子の大きさは原子核の10万倍になる。もとのひもから原子になるまでに大きさが10^21倍も大きくなるのはあくまでわれわれの世界の物理法則だ。
 われわれの粒子とは異なる余剰次元の粒子が、われわれの世界の物理ルールである強い力、弱い力、電磁気力とは異なる力で霊魂という生命体を組成するのであれば、その構成要素の大きさがひもと原子のような莫大な倍率で大きくなっている必然性はない。むしろ霊魂の物理的な大きさは目に見えないほど小さいのかもしれないのだ。
 そもそも霊魂が大きくて物理的な重量が重いとすれば、その質量はわれわれの肉体が加速度運動をするときに観測事実として検知されるはずだ。そのようなことが実験上ないことを考えると、魂の質量はせいぜい数グラム以下なのではないかと私は考える。
 とはいえよく心理霊媒師はわれわれの肉体から肉体とほぼ同じ大きさのオーラが出ていることを指摘する。だからわれわれ心霊研究家は魂の大きさは人間よりもちょっとだけ大きいサイズという印象をもっている。
 この解釈だが、心理霊媒師も彼や彼女の霊魂を通じてわれわれの霊魂を視ているのだとすれば、それは心理霊媒師の霊魂が検知したわたしの霊魂を、目の前にいるわたしの大きさに投影してそう言っているだけなのかもしれない。
 余剰次元に存在する魂などのダークマターの総質量も地球の質量と比較すればかなり小さいはずである。天体観測から地球や太陽など太陽系の天体の質量はかなりの精度で正確に測定されている。
 地球の重力に囚われている余剰次元のダークマターは天体観測的には地球の質量として観測されていることになる。それがこれまで誰か科学者がおかしいと気づくほどの差ではないことを考慮すると、地球重力圏に囚われているダークマターの総量は、地球の密度計算の誤差範囲内におさまるくらい小さいはずだ。おそらく地球の質量の10000分の1以下なのではないだろうか。
この考えは一見、ダークマターが銀河の質量の5倍あることと矛盾しているように感じるかもしれない。ところがチリの天文台の観測事実からは、ダークマターは太陽系近辺では濃度が極めて薄いことがわかっている。銀河規模では恒星間の運動に影響を及ぼしているダークマターは、太陽系付近では天体間の運動にそれほどの影響を及ぼしていないことが観測されているのだ。 さらに大きな観測事実も同じで、ダークマターは宇宙空間に一様に存在するのではなく、銀河を覆う形で偏在しているのだ。

5-7 魂の移動速度

 さてこのエッセイではわれわれの霊魂が地球や太陽の重力圏に捉えられていることから、物理学的には霊魂を構成する粒子は一定の質量を持つはずであり、その結果、光やニュートリノよりははるかに遅い速度でしか移動できないと想定している。
 一方で心霊研究の世界では、霊魂は光よりも速く移動するという俗説がある。現実にはどうだろうか?仮に地球から太陽まで霊魂が飛ぶことができるとしても、その飛行にかかる時間は光速を超える8分ではなく、おそらく数時間よりも長い時間がかかるはずだ。
 これをわれわれの親しい知人の臨死体験から説明したい。彼女はかなり長い時間、心肺停止状況にあったのだが、臨死体験の時間も非常に長かった。自分の死体を上空から眺めた後に、気づくと水路の上にいて、その水の上を長い長い時間、トンネルのような場所を飛び続けて、最終的に明るい光にあふれた場所に到達した。
 よく言われるお花畑や川岸、巨大な光などがある場所は、物理学的には重力が集中する地球の中心部ではないかと筆者は考えている。ないしはさらに遠く、太陽の内部であるのかもしれない。
 いずれにしても自分の死体がある病室から離れ、霊魂がかなりの距離と時間を飛行してその場所に到達したという彼女の臨死体験の記憶から考えると、魂は数千キロの距離を飛行する際に旅客機よりは速いが、光よりはかなり遅いスピードで移動するのではないだろうか。

5-8 魂の飛行原理

 そこで次に物理学の観点ではある疑問が浮かぶ。魂の飛行原理は何なのだろうか?わたしはその飛行原理はわれわれの知るこの三次元世界の物理法則とは異なると考えている。
 そもそもわれわれの世界で生物が飛ぶ原理は気体に生じる揚力であり、泳ぐ原理は液体が生む浮力と抵抗力だ。われわれの世界の物質は固体、液体、気体、プラズマと相転移を行って形を変えている。
 しかし余剰次元空間では素粒子が同じ性質を持つ必然性はない。霊魂を構成する粒子は電磁気力と相互作用をしないし、そもそも電子を含まない。われわれの世界で固体が液体に相転移し液体が気体に相転移するのは、電子の作用である。魂の世界は液体、気体とは違う状態の物質で満たされていると考えるのが自然である。
 ここから先の話はあくまで想像でしかない。が、われわれが臨死体験で経験をしたことから類推すれば、余剰次元では新粒子によって構成される大気のような球状物質で地球全体が満たされているのだろう。われわれの霊魂はその物質の中を、まるで海を泳ぐように自由に方向変換ができ、まるで空を飛ぶように速いスピードで動くことができるようだ。
 そしてそのような物質で満たされた世界の中では重力に逆らって地中から高いところに泳ぐように移動することもできる。実はこれは重力の法則を無視した動きではなく、浮力や揚力とはまた違った推進原理が余剰次元の大気ないしは海にも働くことを意味している。
 ちなみに臨死体験を通じて宇宙空間に飛び、はるか上空から地球を見たという事例がある。その記述は心理学者のカール・グスタフ・ユングが1957年に書いた自伝の中にある。彼は1944年、心筋梗塞を起こした際に臨死体験をした。
 そのときユングは宇宙空間への浮遊体験をしている。そして「はるか眼下に、光輝く地球が見えた」と言うのだ。ガガーリンが地球が青いことを発見したのが1961年だから、ユングの体験はそれよりも早い。
 ユングには地球全体は見えなかったが球形の地球の一部とインド半島を目にしている。蘇生後にユングが確認したところ、そのような視点で地球を見ることができるのは地表から1500kmの高さに相当するそうだ。彼の体験を信じるのであればダークマターの大気は半径6400kmの地球の上空かなりの部分まで広がっていると考えるべきであろう。

図表_ページ_11

 この球形の巨大な海ないし大気は地球だけではなく図5-1のように細い道を形成して太陽とつながっているかもしれない。そして一部の心理霊媒師が指摘するように、人間の魂は太陽の内部にも住んでいるのかもしれないのだ。
 そうだとすればこの図は左方向に回転させて見るのが正しい方向かもしれない。なぜならば多くの臨死体験者は「非常に高いところまで上がると、そこで神を感じることができた」と語っているのだから。

5-9 魂と波動

 最後に霊魂に関する多くの研究では波動や同調が鍵を握っている証拠がある。波動は明らかに心霊現象を科学的に研究する際の手掛かりになるようだ。
 霊媒師の脳が活性化しているときはガンマ波という26~70Hzの脳波としては比較的周波数が高い波が出ていることが知られている。これはピアノでいえば一番低い音の鍵盤近辺に相当する。
 しかし電磁波ではそのような低周波は使われない。すくなくともわれわれが実用化している機器の利用周波数帯は1000倍以上の周波数になる。つまり電磁機器は26~70Hzのような波長が驚くほど長い電波の検出には向いていない。
 そもそも波動の同調現象というのは、その波動の源と相互作用をしなければ同調は生じない。だから論理的には電波は霊と同調しないはずだ。同様の論理で音と霊も共鳴するとは考えにくい。
 高層ビルの固有振動数がエアロビクススタジオのダンスの波長とたまたま一致して大きな縦揺れを起こしたとか、吊り橋が風と共鳴して崩落したという現象が報告されている。そのような共鳴現象は音波や振動波が建造物の固有振動数と一致するからだ。
 同様にラジオの周波数が同調できるのは、電磁波の振動数がちょうど同じになるようにラジオの回路が作られているからだ。
 一方で霊魂との同調や共鳴は、霊魂と相互作用できる力を媒介しなければ起きない。つまり霊魂と物理的に同調共鳴しやすいのは心理霊媒師だということになる。
 この論理は心霊現象を科学機器を使って分析しようとした実験が失敗する原因を説明できる。
 有名なイギリスの古城マーガム城での調査では、あきらかに心霊現象により周囲の空気が冷たくなった際にも、設置してあったセンサーがその温度変化を感じることはなかった。おそらく実験者たちの背筋が一斉に冷たくなったときには、彼らの霊魂が何かを感じていたに違いない。しかしそれが心霊現象であり電磁波と霊魂は相互作用をしない以上、その現象はセンサーが記録することはできないのだ。
 サム・パーニア博士のthe AWAREプロジェクトに代表されるような医学者が臨死体験を科学的に調べようという試みで、幽体離脱体験者に絵を確認させようとする実験がことごとく失敗しているのも同じ理屈だ。絵は電磁波と相互作用しない霊魂には見ることができない。(エリコ・ロウ、死んだ後には続きがあるのか)
 一方興味深いことに、人類がはじめて検出に成功した重力波はこの26~70Hz近辺の周波数に相当する。これが3章で述べたように霊魂は重力波を検知することで臨死体験で空中から自分の死体を眺めているという説のひとつの根拠でもある。
 われわれの科学力で造ることができる重力波検出装置は、その性能が霊魂の波動を検知するのには能力がほど遠い。人類が初めて検出した重力波は、はるか宇宙のかなたで巨大な連星が衝突したときに、宇宙スケールの重力波なのだ。
 超対称性粒子の特性は未知である。われわれの世界の粒子とは異なり重力子と共鳴しやすい性質を持っていると想定するのは不可能な前提ではないだろう。それが先述した、霊魂は重力波で物体を視ているのではないかという仮説の根拠でもある。
 この節で述べたことをまとめると、少なくとも現在のわれわれの科学の電磁気力を武器とした実験方法では霊魂の存在をセンサーで検出することはできない。霊魂が電磁気力と反応しないという性質がこれまでわれわれ心霊研究家の科学的調査の試みが失敗してきた理由だと推測する。

 さて話をまとめよう。この章で言いたいことは、余剰次元の新物質の性質を知る手掛かりとして死後の体験からの情報がとても重要だということだ。
 この章で述べた心霊現象から類推される霊魂のさまざまな特性は、霊魂の世界の存在が検証された場合、われわれ心霊研究家が超ひも理論の物理学者に向けて、余剰次元空間の粒子が持つ特性の前提情報として提供できる。心霊研究はこの世界の構造を解明するための手掛かりになるのだ。


結論と提案

 死後の人間の意識の生存について実証可能な最良の証拠は何か?その答は、物質主義者に対して、物質だけでは生命が誕生できないことを証拠として示すことだというのがこのエッセイの本旨である。
 そのための具体的なアイデアが、地球上とまったく同じ環境を作ったうえで、地球の重力圏から大きく離れた孤立した宇宙空間上では生命が誕生しないことを示す宇宙実験である。この世界が物質主義者の言うように霊魂抜きでできているのであれば宇宙空間でも生命は誕生できる。しかしわれわれの目に見えない余剰次元に死後の霊魂の世界が広がっているとしたら、物質主義者には説明のつかない実験結果が得られるはずである。
 そしてその実験を実現するための科学的な技術は、2021年の段階ですでに準備はできている。あとはそれを証明する冒険を実行するかどうかだけの問題なのだ。
 おそらく数千万ドルほどの予算を必要とするこの壮大な宇宙実験だが、実験が成功したときに人類が得られるものは巨大である。なにしろ人類はその歴史上はじめて死後の世界の存在を確信することができるようになるのだ。
 誰もが避けられない老いとやがてやってくうる死に対して、ただ怯えて暮らすのではない別の捉え方ができるようになる。そして最も愛すべき存在と死別した者にとっては、いつかその人々と再会する日がやってくることを確信することができるようになる。
 実験が科学にもたらすメリットも莫大だ。生物学者や医学生理学者にとっては生命についての定義がコペルニクス的に転換し、目の前に新しい無限の研究分野が広がることになる。
 超ひも理論の研究を通じてわれわれ世界の構造解明に最も肉薄してきた物理学者にとっても、新発見を通じたメリットは存在する。なにしろ理論ばかりが先に進みその検証方法がないと言われた超ひも理論に、あらたな証拠が提供されるのだ。それだけではない。心霊研究から推定される余剰次元の特性を前提にすれば、この宇宙を表す数理モデルを絞り込む手掛かりが得られることになる。
 そして心霊研究者にとっても素晴らしいメリットがある。心霊研究が最先端の研究分野になるのだ。その際に、これまで百年に亘り培ってきたわれわれの心霊研究の知識体系は、この世界を探求するすべての科学の発展をリードすることだろう。
 最後にひとつ提案がある。
 このエッセイで提案した宇宙実験、すなわち地球の引力圏から遠く離れた孤立宇宙空間では生命が誕生しないという現象の命名についてである。これまでの伝統的なルールにおいてはこの現象は「角-鈴木現象」と名付けられるはずである。
 しかしわれわれはこの現象に対するネーミングライトをこの宇宙実験を行う者に敬意を表して売却する用意がある。かつてコロンブスが新大陸を目指したように、無謀でリスキーで巨額の費用がかかるこの実験に資金を提供した人物は、スペインのイザベル女王のように歴史に名を残す権利があるとわれわれは思うのだ。


追補

 本エッセイの中で筆者オリジナルの中心アイデアは、霊魂の世界の存在を示す具体的な実験とその理論的背景に関わる部分である。同時に現代物理学の理論を霊魂の世界に置き換える考察の箇所は筆者ふたりのオリジナルのアイデアである。
 一方で、宇宙論の研究、超ひも理論の研究や、余剰次元空間についての研究は物理学者の仕事であり、編集者である筆者の専門外である。これらの箇所は不必要に理論を曲解することがないよう注意しながら、基本的に専門書から現代物理学の考え方を引用している。
 その際に、なるべく多くの読者からの共通理解が得られるであろう教科書として、ビッグバン宇宙論についてはローレンス・クラウス博士の著書『宇宙が始まる前には何があったのか?』を、超ひも理論についてはブライアン・グリーン博士の『エレガントな宇宙』などの一連の著作を、余剰次元空間についてはリサ・ランドール博士の『ワープする宇宙』などの一連の著作から基本理論を引用している。
 さらに心霊現象の研究は筆者ふたりにとっての専門研究分野であるが、この点についても読者から現象の細部について異論が出るのをなるべく避けたかった。そこで臨死体験や前世の記憶などよく似た経験をしている事例が多い心霊現象についての記述は、筆者ふたりの直接の体験を除き、日本の事例ではなくアメリカでよく知られた研究から引用してある。
 具体的にはNetflixで放映中の『死後の世界を探求する』に準拠して心霊現象の典型的な細部を引用している。ちなみにこの番組を観た印象を言うと、アメリカの研究成果は日本で起きている心霊現象と非常に酷似しているということを付け加えておきたい。
 もし一般の読者で、われわれの考えをより深く理解したいと考える方には、これら3冊の物理学の教科書と全5話からなる一連のテレビ番組を視聴することを推奨する。


参考文献

ビッグバン宇宙論について
1 Lawrence Krauss "A Universe From Nothing", Free Press, 2012

超ひも理論全般について
2 Brian Greene, " The Fabric of the Cosmos : Space, Time, and the Texture of Reality”, Vintage, 2007
3 Brian Greene, "The Elegant Universe : Superstrings, Hidden Dimensions, and the Quest for the Ultimate Theory", W W Norton & Co Inc, 2010

余剰次元理論について
4 Lisa Randall " Warped Passages: Unraveling the Mysteries of the Universe's Hidden Dimensions ", Harper Perennial ,2006
5 Lisa Randall " Dark Matter and the Dinosaurs: The Astounding Interconnectedness of the Universe”, Ecco, 2015

心霊現象全般について
6 Ricki Stern, "Surviving Death", Netflix, 2021

エッセイ中の個別の引用箇所について
7 “Search for squarks and gluinos in final states with jets and missing transverse momentum using 139 fb−1 of √ 𝒔 =13 TeV 𝒑 𝒑 collision data with the ATLAS detector” CERN, March 2-2021
8 Dennis Overbye , “A Tiny Particle’s Wobble Could Upend the Known Laws of Physics” The New York Times, April 7-2021
9 “Trajectory of Shuttle Misshons with Japanese Crew Members” JAXA, Chiaki Mukai in 1994, https://global.jaxa.jp/article/special/spaceshuttle/kiseki_e.html
10 Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/Panspermia
11 Ker Than, “Dark Matter Is Missing in Sun's Neighborhood?”, Natironal Geographic News, April 21-2012
12 Yuki Umehara, Akira Karita, “Paranormal Phenomenon; Challenges of Scientists”, NHK Publishing, 2014 (Japanese Eddition)


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