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子どもを病気にしたがる母親たち

病気や障がいによって苦しむ子どもたちを献身的に看病する母親。目の前にそのような母親がいれば、私は励ましの声をかけたり、何か美味しいものでも差し入れしたくなるでしょう。私自身も、息子たちが生死をさまよい看病をした経験があるので、同じような境遇にいる母親がいれば、何とか力になりたいと思ってしまいます。しかし、

熱心に看病している母親でさえも虐待に関与していることがある。

そのような信じられないこともあることを、私はシュタイナー治療教育士養成コースで、子どもに関わる職業の人は知っておくべきだと教わりました。例えば、子どもに下剤を飲ませて慢性的な下痢を起こさせたり、子どもの尿に自分の血液を混ぜて血尿が出たことにしたり、暴力をふるって骨折させたりして、子どもを病院へ連れて行きます。そして、検査や治療を行うために子どもは入院し、母親は熱心に看護するふりをして周囲の注目を集めようとする虐待です。入院中の病室においても、密かに虐待を繰り返す母親もいるようです。このような虐待をメディカル・アビュース(医療的虐待)と呼ぶ人もいます。

98%が実母によってなされる虐待。このような母親は「代理ミュンヒハウゼン症候群」という精神疾患を患っていることが疑われます。虚偽の病気や障がいを作り出し、医療機関にかかり、熱心に看護するふりをして周囲の注目を集めようとする精神疾患です。

「代理ミュンヒハウゼン症候群」の母親による虐待での死亡率は約9~22%。病院を転々とするうちに、母親が医療的知識を増やし、子どもを重症化させやすく、死亡することがあります。しかし、異常のない検査結果や、母親の不自然な態度から「代理ミュンヒハウゼン症候群」による虐待と疑っても、確定するのは極めて難しいそうです。アメリカでは病室に監視カメラを設置して母親の犯罪証拠をとることもあるそうですが、なかなか日本ではそうのような対応ができないそうです。ですから、子どもを一時的に保護し、母親から引き離し、そして症状が消えるかどうかを確かめることで、母親が「代理ミュンヒハウゼン症候群」かどうかを判断することが多いそうです。

このような虐待の場合、機関によって対応の仕方が変わってきます。
・小児科 → 病気や障がいに仕立て上げられた子どもへの対応(子どもの病気の治療)
・精神科 → 子どもを病気や障がいに仕立てあげる親への対応(親の精神疾患の治療)
・警察署 → 子どもを病気や障がいにした証拠や作為の証明への対応(虐待事件としての捜査)
を、していきます。

そして、児童相談所では、「子どもの権利擁護」「親の自立支援」「家族全体の再統合」に向けて対応していきます。児童相談所の業務は多岐に渡るので、頭が下がる思いです。

「なんて酷い母親が世の中にいるんだ!」って、初めてこのことを知った時に私は憤りました。でも同時に、きっとこの母親は、幼少期にかまってもらえなかったのかな? 認められたという実感が少なかったのかな? 人生の出来事にとても痛みを覚えてトラウマになっているのかな? などと考えを巡らせていました。

そして、熱心に看病する姿を見せることで、母親として良い評価を受け取りたいという心理的なものに、他人事だと思えないと感じました。もちろん、私は虐待をしてまでも評価されたいとは思いませんが、漠然とした「承認欲求」は私の内面にも存在します。ですから、私自身が絶えず内に秘めている「承認欲求」とどうやって付き合っていくか、ちゃんと考えていきたいと思います。

また、「良い母親だと思われたい」という気持ちから、他人の前で子どもを叱ったり、礼儀作法に厳しかったり、無理な課題を子どもに与えたりしていないのか? 「子どものために」ではなく「自分が評判されるために」していることがないのか? もう一度、ちゃんと自分の本心と向き合ってみようと思います。


【参考文献】
「代理によるミュンヒハウゼン症候群の実態に関する一考察  -質問紙調査からみえる現状と課題- 」日本社会福祉学会 第64回秋季大会、小楠 美貴
日本小児科学会子ども虐待問題プロジェクト、2006.4

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