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記憶の始まり

一番古い記憶について、思い出してみたことはありますか?

私は小学生の頃に一晩、真剣に布団の中でたどってみたことがあります。
なぜそんなことを思ったのか、理由はもう忘れてしまったのですが。
(いつだった?いつからだ?・・・・・)
目を閉じたり開けたり、何度も寝返りを打ちながら遠い記憶を呼び覚まそうとしました。
そして眠気に負けてしまうその間際に、結論を出すことができました。

おそらく1歳か2歳くらいだったのではないかと思います。

母と手をつないで、桜並木の下を歩いていた。それが私の記憶の始まり。
あの時から私の心は肉体に着地した。
これが私の記憶の始まりだと、その時に決めました。

覚えているのは頭上に咲き乱れ空が見えないくらいの桜。花びらは限界まで広がり、風が吹くたびに、こぼれ落ちてくる。
片足が悪く杖をつき、祖母と並んで後からゆっくり歩いてくる祖父の姿。
つないだ母の手は冷たく、指は細く骨ばっている。
赤い靴に白いタイツをはかされた小さな足が、頼りなげにちょこちょこと動く。

私は笑っていたのだろうか?
母は笑っていたのだろうか?

楽しい記憶なのかどうか、それはわからない。
幼い私の「感情」は「記憶」とまだ結びついてはいなかったのかもしれない。

ピンクに包まれたその光景を私の記憶の始まりとしている。


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