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ドブス・フィクション

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哀を死る、全醜類に捧ぐ
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#小説

Chapter 1「地獄への環状線」

2019年 7月 11日。 モトヤはユウキを乗せ、車で名古屋から静岡まで、早朝の霧に包まれガランとした高速道路の上を、颯爽に走り抜けていた。 「いやぁ、こりゃすッげぇ霧だなぁ…」 「本当だ... モトヤ君、くれぐれも運転には気を付けてくれよ。」 「あぁ、そうだな…」 「アッ、そういえばさ、なぁ、ユウキ。今更だけどさ、なんで俺はお前をこんな田舎まで送ってかなきゃいけなかったんだっけな?」 「そんなことは言うまでもないことだよ。」 「はぁん?言うまでもねぇだって?

Chapter 2 「夢魔」 前編

「痛ッ。」 私は、下腹部に耐えがたい激痛を感じ、目を覚ました。 失禁していた。 気が付くと、そこは病室だった。 いつ、ここに来たのかは思い出せないが、昨夜のことはよく覚えている。 多分一生忘れないだろう。 はぁ… 頼むからあの出来事は夢であってほしい...  そう願った。 昨日、つまりは2019年の7月10日。私は、強姦され、全身に打撲傷を負った。 あの日、あの夜、自分があんなことになるなんて思いもしなかった。 しかも、相手が例のアイツだなんて、尚更だ。

Chapter 4 「イタブリ」

そこは、一面霧の中から突如現れた不気味な廃屋敷。 辺り一面ツタで囲まれ、窓からは不穏な青白い光が漏れていた。 ユウキは、内心恐る恐る、しかし表面上では堂々と、屋敷のインターホンを押した。 返事は無い。 玄関のドアノブに手を伸ばしてみると、そこに鍵は掛かっていなかった。 静かに、音を立てずに、ゆっくりとドアを開ける。 すると、玄関先には、見慣れない小柄な男が立っていた。 小男はスーツを着ていて、髪はスキンヘッド、年齢は50半ばに見えた。 穏やかそうな眼つきでこち

Chapter 5 「海中世界の王」

ここはどこだ… モトヤはそう思った。 目の前には、蒼く光る巨大な水槽が見え、その中には二匹のシャチが不気味にコチラを覗いていた。 すると、 フッ、ハッハッ… 「御目覚かなぁ…モトヤちゃん♪」 物陰から1人の人影が見えた。 男の背は高く、何にやら気味の悪い微笑みを浮かべていた。 男の方まで近付こうとしたが、足には足枷が着いており、身体は椅子に固定され動くことはできなかった。 「んんもォオ…焦んないでヨ、ゆっくりやんましょうよ。」 その声を、その奇声を聴き、

Chapter 6 「学園の先で...」

あれは確か、二年前の夏。 いや、明確には2017年の6月。梅雨の時期だった。 俺は当時高2で、自分の進路について先の見えない恐怖から焦りだし、また帰宅部故に、この退屈な学校生活に耐えがたい孤独を感じていた。 梅雨の時期特有のあの腐ったような雨傘の臭いと、濡れた制服から少し透けて見える女子の下着。その幻想的かつ汚らしい空気を纏った校内の空気は、まるで白昼夢のようだった。 その理性を失わせる梅雨の陰鬱とした空気と、7月の中間試験に対する途方もない不安。当時の俺は、正直言っ

Chapter 7「異端者・孤立者・沈黙者」

ド・ブーズ 最初のメンバーは、全部で4人。 俺と、ユウキと、ナガヤマと、ヤマネだ。 俺たちは全員同い年で、それでもって全員ドブスでもあった。 ドブスってのは、つまりは他人を寄せ付けないレベルの不細工ってことだ。 言っちゃ悪いんだが、そん中でも正直ナガヤマはズバ抜けたブスだった。 これ以上ない程のブスで、臭かった。 デブのブスで、年中脂汗を垂らした不潔な奴。俺からするとアイツのことは、ずっとそういう認識でいた。 俺はそんなナガヤマのことが、嫌いだった。一緒にいるの

Chapter 9 「知と暴慾の世界」

アチワはギラついた眼で、こちらを見ていた。 あの小汚い薄ら笑い。その全てが憎たらしい。どうにかならないものなのか。 「ウヒィッ、 ユミちゃんたら、なんて顔をしてるんだ。」 アチワは私のしかめ面を見て笑った。奴のその笑いは、とにかく不気味だ。粘り気があって、鼻が捻じ曲がりそうになる異臭が醸し出ているような、そんな笑いだ。 はっきり言って、気味が悪い。 「もう私の方からお前に話すことは何も無いの。ね? お願いだから早く死んで。」 「え? いきなり、ヒドくない、ヒドくな

Chapter 10 「眠れぬ哉、前夜」

2017年8月14日。 あの日、俺はナゴヤから見える、あの大きな煙突を夕暮れ時に眺めていた。ただただ、じっと電車を待ちながら、これから起こる惨事についての想いを馳せていた。 水族館までは電車で20分ほどだ。考える時間はまだ割とある。その間に俺はどうやってヤマネを調理するのかを考えなくちゃならなかった。 これからのことはきっとユウキ達がなんとかやってくれるだろうと、内心甘く考えてはいたが、正直、これまでの流れから言って俺には汚れ仕事を任せてくるんじゃないだろうか。と、そん

Chapter 11 「最後の儀式」

中へ入ると、ヤマネは首を縛られ、水族館の天井に吊り上げられていた。 痣だらけでダランとしたその体からは、静かに血が滴っていた。 なんて惨いことをする輩なんだ... そう思った。 こんな残酷なことをしておきながら、平気でヘラヘラと笑い抜かしている彼らの異常性に寒気がした。何がおかしいのか、俺には到底分からない。 「おい、ナガヤマ。どうした、さっきから黙りこくって、つまんねぇぞ。」 唐突にユウキが話しかけて来た。いつもは俺のことなど眼中にさえ無い癖して、こういう時だけ都