バニヤンちゃんとタマモキャットでお菓子作り

「なーにすっかな~~~~~…」
ある日、私はあんまり出来のよくない頭を悩ませていた。以前バニヤンちゃんと一緒に夜食を作って食べたことがあったのだが、その時に「次回お楽しみに」なんて言ってしまったので、行き当たりばったりじゃなくメニューを考える羽目になり、至る現在。
何作ろう。
グーチョキパーで、グーチョキパーで、なにつくろーなにつくろー…。
自分の両手で色んな形を作ってみる。
グー、チョキ…パー。
パーが一番可能性を感じる。
パー、パ…パン…パイン…パイ…パイ?

これだ!

「というわけでパイを焼きます」
ここはカルデア召喚室。
床のサークルの真ん中にはマシュから借りてきた十字型の盾が横たわっている。
「パイ?具は何?アップルパイがいいなぁ」
バニヤンちゃんが物珍しそうに部屋を見渡しながら言う。確かにここは通らなかったもんね。
「バニラアイスクリームとアップルパイという組み合わせもめっちゃ素敵ですが、今回作るのはバナナクリームパイでーす」
バニヤンちゃんの顔に驚きが走り、それからすぐにとろけたような笑みを浮かべた。
「!…ふ、ふふふ。…いいよね。とっても素敵な響きの言葉だよね…」
「わかる…。バナナとクリームとパイ。絶対美味しいやつじゃん…ウフフ…」
お互い思わず笑みがこぼれる。こっちだけ気持ち悪い笑いになってない?ダイジョブ?
「でも、一気にステップアップしたね。そんなに難しい料理じゃないだろうけど…」
「心配御無用。今回は念のためサポート役にゲストを呼びますので」
「そっか。それなら安心だね」
「というわけで甦れアイアンシェフしよう」
「…それで召喚室に集合だったんだね」
わざわざ盾運ばせちゃってごめん、あれすっごい重いからね…。
気を取り直してレッツ召喚の義。
バチバチバチ…びしゃーん。
召喚サークルから出た白い稲光が部屋中を駆け回り、巨大な光の柱が落ちてきた。
「(どきどきどきどき)」
…。
どうやら無事召喚は終わったらしい。
シルエットを形作る青白い光が弱まり、カルデアへの来客が姿を現した。
「…」
「どうしたのマスター。汗だくだよ?」
「…いや、思ったよりすごい格好だなって…」
ふわふわの桃色の長髪、ぱっちりと開かれた琥珀色の眼。頭には尖った茶色の耳、腰から伸びる膨れた尻尾。首には大きな金の鈴が着いた赤いチョーカー。
そして衣服(と呼べるかどうか怪しいが)はフリルたっぷりの白いエプロン一枚である。
…向こうのマスターの趣味かな?
「呼ばれて飛び出てニャニャニャワン。相模湾と駿河湾にある湾。それがにゃにゃにゃ湾。魚が一匹もいない。亀が二匹いる。だが緑亀なので塩水ですぐ死んでしまうのだ…」
「というわけで今回の特別講師、タマモキャットさんをフレンズからお呼びしました」
「ウム。よろしく頼むぞ、グリーンジャイアントよ」
「ウィ!」
「私には挨拶ないんですか!!」

というわけでチューボーですよ。
今日はバナナクリームパイを作ります。
前回とはうって変わって長丁場なので、気を引き締めていきませい。
「まずは生地作り、キホンのキだ!」
冷やした角切りバターと薄力粉を混ぜて、パラパラになったら冷水をちょっとずつ入れる。
「グルテンを安定させて成形しやすくするのが狙いだワン。それとバターが冷えていないと溶けて生地がのびてしまうのでな」
「クロワッサンもそうだね。あれはバターを折り込むタイプの生地だけど」
「ム、アメリカだけでなくフランスも守備範囲か。ヴィヴラフランス、だな!」
固めにまとめてラップしたら冷蔵庫へ。
生地を寝かせる間、雑談タイム。

「キャットさんはニンジンが好きなんだっけ」
「ウム。ニンジンはおかず以外にも野菜スティックとかジュースとかおやつにもなるぞ」
「ニンジンかぁ…ハンバーグの付け合わせにいいよね。ブロッコリーとかバターコーンとか、皮付きのフライドポテトと一緒に食べたいな」
「でっかいハンバーグ食べたいなーバッファロー肉美味しかったなー」
「今はパイを焼くのが先だマスターよ。後でミートパイでもなんでも作れるだろう」

生地が休まったら平たく広げる作業。
作業台に打ち粉を降って麺棒で延ばす。
「…かっ、かった…!!」
自分が非力なだけかは知らないが、よく冷えたパイ生地は思ったより固かった。
「ふふん、何のためにバーサーカーが二人もいるとお思いかカルデアマスター」
さっすが筋力B+とC。頼もしいね。
「そうそう、そうやって適度に力を込めて…」
「おおー…どんどん広がるね」
「延びたら焼き型に乗せて切る。かなりパイらしくなってきた感があるな!」
生地が敷かれた銀皿の縁を、キャットの鋭い爪がつつつと走る。
「あとは焼くだけ…と言いたい所だが、フォークで穴を開けなくてはな。生地の中の空気が膨らんでしまうとよくない!」
そりゃ大変だ。プスプス。
「あとはから焼きすればOKだワン。オーブンの用意はいいか!」
「アイサー!」

「フム、無事焼けたな。最後にフィリングだ」
いよいよ大詰め。完成が近付いてきた…!
スライスバナナと、湯煎したチョコレート、カスタードクリーム、そしてたっぷりのホイップクリーム!なんと素敵な眺めか!
「バナナを敷いてチョコを流す。上からカスタードを流してちょっと冷やしてチョコを固める。そして最後に怒濤のホイップ!」
いったーーー!
完成!

「わぁー…!」
バニヤンちゃんの口から詠嘆の声が漏れる。
真っ白いクリームの山だ…まるでエアーズロックですよこいつぁ…。
「よしマスター。出来立ては料理人の特権故、見とれている暇はないぞ!ぶっちゃけるとアタシが食べたい!」
いざ実食!

これはあくまで味見だから…三人でまだ四分の一だから大丈夫…。他の人の分はちゃんと残ってるから…。
そんな雑念を心のゴミ箱に叩き込んで合掌、いただきます!
おおう…フォークが今まで見たことない沈み方をした…。えげつない柔らかさと言える。
刃がクリームのお布団とバナナを切り、香ばしい「皿」を砕くのがわかる。
もはや口に運ぶのに迷いはない。
ぱく。
………ゴ、ゴージャスゥ~~!
いままでこんな贅沢な甘味は食べたことない!
クリームはふわふわ、チョコはパリパリ。バナナはとろとろでパイ生地はサクサク。
アアーーあまーい…。
「この美味が我々の手で産み出されたのか…」
それはもはや神にも等しい力を持っているのではないだろうか?いわば甘味の神。強い。
「おいしいね、すっごくおいしいね…」
「あはははは!美味しきことは美しきかな!」
二人ともめっちゃ幸せそうな顔である。
これが甘味パワー。
ちびちび食べているはずのに、クリームパイは皿の上から忽然と姿を消してしまった。
…認めたくないが致し方なし。ごちそうさまでした。

この後、片付けを終えて今回のクッキングは終わり、タマモキャットは帰っていった。
最後に肉球柄のメモを渡されたが、「あたしが帰ったら読んでくれ」とのこと。なんだろ。
『前略 楽しかったとか言いたいことはあるが用件だけ伝えよう。今回お呼ばれしてサポーターを勤め、二人の成功をもって無事役目を果たした。しかしサポーターたるもの失敗に備えバックアップするのは当然。冷凍庫を見ればその意味がわかるだろう 草々』
…。ここで、私の脳内ライブラリは不思議な程に極めて的確にその部分を参照した!
『後でミートパイでもなんでも作れるだろう』!

冷蔵庫にとんぼ返りして磁石で貼られたメモを見る。
達筆で『創意工夫。アドバイスには応じないゾ☆』とだけ書かかれている。
恐る恐る戸を開けると、そこには五十袋はあろうかという冷凍パイ生地の山!
どんだけ失敗すると思われてたんだろ…じゃない!
こんな量どうやって使い切ればいいんだーーーーッ!

おわり

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