2024年1月11日(木)

石丸はママチャリでのフードデリバリーの最中に、何かイヤホンで聞くものないかなと思っていた。お笑い芸人のラジオは、昨今の性加害報道も相まって、自身がお笑い側に加担する気持ちになってしまうので意図的に聞くことをやめている。音楽もすぐ好きなバンドを聴きがちでバリエーションの幅が狭い。聞くものがなくなり、退屈しながら中目黒でピックした焼き鳥を2キロ先の五本木の一軒家に運ぶ最中、ふと元キャプテンストライダムの永友聖也のXでのポストを思い出した。永友自身、約1年ぶりのポストで、その内容は地元の宮崎を拠点に音楽活動を再開するというものであった。

それで懐かしくなり、石丸は久しぶりにキャプテンストライダムを色々聴き漁ってた。メジャーデビュー曲であり、石丸がキャプテンストライダムを知ったきっかけである「マウンテン・ア・ゴーゴー・ツー」がサブスクで聴けないのは寂しかったが、やはり永友の歌うキャッチーなメロディは今聴いても光っている。特に「キミトべ」が顕著な気がする。バンド最大のヒット曲である「風船ガム」は今聴くとLMFAO「Shots feat. Lil Jon」エッセンスがうるさすぎる気がした。

ただそれよりも石丸が気になったのは、バンドとして最後のepとなる『ブギーナイト・フィーバー』である。キャプテンストライダムの最期のモードは"ディスコ"だったんだなと感じられるepで、表題曲もそうだが、カップリング収録の電気GROOVE「Shangri-La」のカバーが凄まじい。人力でここまでカバー出来るんだなとアレンジ力にびっくりさせられる。

ただ問題はこのジャケットである。どれだけバンドがアレンジを極めて面白いことをしていようが、亀田史郎が褐色の上裸そのままでやくざ風情の黒スーツジャケットを着込み、腕組みしながらいかつい表情でこちらを睨んでいたら、「キャラ消費か…」と思って聴く気にならない。

それで石丸はふと思い出した。2000年代後半、デビューからピークを過ぎ、レコード会社との契約が続くか切れるかギリギリのバンドによく起こっていた現象で、当時流行っているタレントや若手芸人と抱き合わせでCDジャケットやMVに出ていることが横行していた時期があった。例えばLUNKHEADの「カナリアボックス」という2006年発売の楽曲のMVには、当時「お前に喰わせるタンメンはねぇ!」モノマネで席巻していた次長課長が出ている。BUMP OF CHICKEN系譜の下北ハイラインレコーズ感のあったバンドも、メジャーデビューして2年後には楽曲と全く関係ないプロモーションの仕方をされてしまう。あと思い出す限り、2007年のキンモクセイ最後のep表題曲「金木犀の花」のMVにはブラックマヨネーズ吉田敬が出ていたり、ヒップホップユニット・SoffetのアルバムのCMに極楽とんぼ山本圭壱も出ていた。まだまだその手のプロモーションはあったであろう。

2000年代半ばはM-1が上り調子で、日本テレビ『エンタの神様』、NHK『爆笑オンエアバトル』をはじめとするお笑いブーム。購買意欲を湧き立たせるために芸人・タレントを出演させるのはある程度は仕方がないが、これがかなり横行していた。その結果、そのバンドの作品自体が消費の一途となり、後世まで作品が残らなくなる。キャプテンストライダムのバンドアレンジがどれだけ面白くたって、そのCDジャケットに亀田史郎が写っていたら聴く訳がないように。そのくらいには音楽マーケット自体にお金がなくなっていき、お笑いマーケットが強くなっていく時代だったのかなと思う。

そして2023年末に起こった松本人志の性加害騒動。日本においてお笑いが全ての芸能ジャンルにおいてNo.1になった現在、そろそろその座を降りて欲しいと前々から思っていた石丸は少し笑って「Shangri-La」を聴き終えた。


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