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BEASTARS7巻57話(あらすじなし・ネタバレ感想)

●第57話/ただ心臓が寄り添った


余談ですが野暮用で飯田橋に寄った時、歩道橋の上からこの画角の写真撮った。
カフェ手前のルイとジュノちゃんが座るベンチは実際はないけどその場に立ってにっこりもした。
私が行ったのは飯田橋駅でルイたちが住む世界はインドバシ駅だから別の場所なんですけどね…。

ジュノちゃんが意を決してたった1匹で裏市の、しかも反射組織であるシシ組のアジトまで来たのに危険だから安全な駅前まで送り届けるルイ先輩優しいね。
ジュノちゃんの隣でタバコを吸い始めてすぐに「たばこ…いやです」と言われて「わかる」と携帯灰皿で火を消したルイ先輩優しいね。
裏組織のボスになり、ジュノちゃんにもう学園にいた頃の自分とは違うと見せつけるようにタバコ吸って見せたりした癖に物乞いをする盲目のおじいさんを安全な小動物用の歩道まで連れて行ってあげるルイ先輩優しいね。
もしかしたら裏市で食肉をしながら無害な顔して表社会を生きる肉食獣が駅前にいるからシシ組のボスとしてのパフォーマンスだったのかもしれないけど、学園にいた時のようにみんなが押し付ける理想の完璧なルイを演じる必要なんてもうないのに結局はこうやって当たり前のように動けちゃうんだよな、ルイは優しいから。

隕石祭の日にレゴシは無事に帰ってきたのか、白いウサギは一緒だったか尋ねるルイ。
レゴシが無事に帰ったことなんて聞かなくても一度学園に戻った時に直接会って知ってるくせにね。
本当はハルちゃんの安否が聞きたかったんだよね。
レゴシが攫われたハルちゃんを命懸けで救ってアジトから2匹が出て行ってからルイが現れて前ボスを撃ち殺した。
前ボスと対峙している隙にハルちゃんはボロボロになったレゴシの腕を引いて足早に去ってしまったからルイはハルちゃんを救いに行ったのにハルちゃんの無事な姿を見ていない。
もちろんレゴシを信用して託したから命が無事であろうことは分かっていてもずっと心配だっただろうな。
演劇部の部室で退部届を渡す時にルイもジュノちゃんもレゴシ本人もその場にみんないたからジュノちゃんはきっとなんとなく察したんだろうな。
「無傷でしたよ」と伝える。
一緒でしたよとも無事でしたよでもなく、「無傷でしたよ」と。
それに対しルイは「…そうか…さすがだな」と呟く。
安心しながらもハルちゃんを守りぬけるレゴシの強さにまた劣等感を感じたんだろうけどルイの愛情とジュノちゃんの優しさがわかるとても良いシーン。

隕石祭前日、攫われたハルちゃんを諦めてレゴシに殴られたルイは演劇部のみんなの元に戻る。
演劇部の部員たちは本心から明日の新歓の舞台はルイがいれば成功すると無邪気に讃えるが、誰かに殴られ目を腫らした看板主役を仲間たちはただ励ましたかったのかもしれない。
慈愛の化身であるドーム先輩が笑顔でルイに語りかけてるからきっとそう。
保身と諦めからハルちゃんをレゴシに託したルイは「まるで偶像崇拝だ…」「嘘はこりごりだ」と己の無力さと惨めさで覚悟を決めてハルちゃんの元へ走り出す。
この時ジュノちゃんに「…すまない すぐ戻る」と言ってるのが切ない。
頭のいいルイのことだから、もちろんレゴシがハルちゃんを必ず助けてくれると信用していただろうけど、自分は死ぬ覚悟を決めていたんだろうな。
シシ組のイブキさん、フリー、ユゴー(モブ)と対峙してもいっさい動じることなく「感謝して食えよ‼︎」と高笑いしたくらいだから。
実際は命は無事でも思っても見なかった地獄の渦中に置かれてしまったけれど。
でもあの時ルイがアジトに現れなかったらレゴシとハルちゃんは油断して帰るその後ろから確実に撃ち殺されていた。
結果ルイは殺人を犯すことになってしまったけれど、覚悟を決めて突き進んでくれたルイがレゴシとハルちゃんを守り、2匹の命を救ったんだよ。
それを2匹が知らないのが悔しい。
その事実をルイが分かっておらずレゴシに劣等感を感じるのが悔しい。
ありがとうルイ。あなたは確実にヒーローだよ。

学園に戻ったレゴシがシシ組の名を出したことからルイがシシ組のアジトにいると推測して会いにきたジュノちゃんの頭の良さと強さよ。
失踪してから一度、退部届を出しに学園に来てるんだからもう自宅にいると思うじゃん普通。
まだ新生シシ組は動き出したばかりだし、ホーンズ財閥の跡取りがまた行方不明ですなんて噂になるには早いからルイの不穏な態度で理解して、危険を犯してまで会いに来たジュノちゃんは本当にかっこいい。
本当にジュノちゃんはかっこよくて綺麗だな。
見た目ももちろんそうだけど心がかっこよくて綺麗な子。
そしてジュノちゃんがシシ組のアジトに無事辿り着けたのは新生シシ組が動き出して裏市が変わってきた証拠でもある。
ハルちゃん奪還時のレゴシは裏市で「シシ組について何か知りませんか?」と聞き込みしただけで怪訝な顔をされ目を逸らされ逃げられていた。
誰もが話だけでも関わりたくないと避けられ、挙句ガラの悪い獣にカツアゲされ刃物を突きつけられていた。
オスの大型ハイイロオオカミでもそんな危険な目に遭うんだからいくらジュノちゃんが愛嬌があるからといってみんなが協力的になるのはおかしいしむしろジュノちゃんほどの美少女は逆に危険度が増すはず。
わかるか、ルイ。新生シシ組のボスとして苦汁を飲まされているけどルイがシシ組のボスとして行動したおかげでジュノちゃんが安全にシシ組のアジトにまで辿り着けたんだよ。
ルイ。

真剣に話をして表社会に連れ戻そうとするジュノちゃんに他愛もない話にはぐらかしつつ楽しそうに柔らかく笑うルイの顔が泣ける。
今までハルちゃんの前でしかそんなふうに笑わなかったのに、学園ではいつも張り詰めた顔や嘘の笑顔しか見せなかったのに、学園を離れて裏市に身を落としたはずの今、そんなふうに笑えるようになったのが嬉しい反面皮肉すぎて悲しい。

最後に演劇部のエースとして踊りが上達した証明のために2匹が街灯の下で電車の音を音楽に楽しそうに踊るシーンが美しすぎる。
この回のタイトル「ただ心臓が寄り添った」が美しすぎる。
互いにわかり合ってるわけじゃない、理解し合ってるわけでもない。
諦めて犠牲になったルイが悔しくて泣くジュノちゃんはとても美しいけど、同種族愛者でまだ生まれ持った美しさや強さや要領の良さに守られている。
ルイは肉食獣に理解を示し始めたけど未だ劣等感を感じていて、世界の汚さやどうしようもない部分やどうしたって捕食される側であることも分かっているからこそ、ジュノちゃんのようにキラキラ真っ直ぐに輝いている強さもただ眩しいんだろな。
ルイこそどこにいたって何をしてたってみっともなくてももがいていてもダサくても弱くても気高くて誰よりも強い光なのに。

それでもルイを諦めないジュノちゃんの純粋さと優しさにルイは救われている。
草食獣と肉食獣。オスとメス。生きてきた境遇や世界が違いすぎてたとえ心が分かり合えなくても、ただ心臓が寄り添ったことが重要。

ルイは犠牲になっているわけでもないし、シンプルに裏市にいた方が気が楽だよね。
表社会は周りの勝手に作られた完璧なルイ像にのしかかられて、ルイの完璧さを疎む者からは嫉妬され憎まれ実際にリンチを企てる肉食獣に狙われていた上に生き餌の過去が露呈しないか常にピリついて周りがすべて敵だった。
裏市は外敵からはライオンが守ってくれるしビジネスの才覚はあるしライオンに食われないことだけを危惧すればいいから。
直結命だから平穏でも楽でもなんでもなく地獄なんだけど。
でも今回初めてシシ組と対立してるだけでなく生活を共にする中で肉食獣を受け入れているということをルイの口から聞けて感動する。
「肉食獣の本能を肯定して… 本当の意味で強くなりたいんだ 今度こそ」
「あいつらシシ組を見てて分かったんだ… あいつらも日々戦っている大人なんだ 自分の本能と…」
すごいね。ルイにこんな変化が起きてるなんて嬉しい。
実際ルイの中で肉食獣のイメージを変えたのはシシ組だけどきっかけはもちろんレゴシなんだよね。嬉しい。
しかし、日々食肉し自分たちの強さを武器に仕事をしているシシ組のどこが本能と戦っているの?まさかシカであるルイを食べないことを本能と戦っていると言ってる?他の肉を食べてるんだから当たり前でしょ?
でもまあ、私にはわかりませんがルイが言うのだからそれが真実で正しいのでしょう。

ルイがジュノちゃんと出て行った後のシシ組アジトで大量の栄養ドリンクの空き瓶を見つけるイブキさんにアガタが「あのガキ行かせて良かったのか?」と話しかける。
あれ?このライオンずっとアガタだと思ってたけどアガタだよね?アガタでなく別のモブ組員の可能性ある?…いやアガタ、きっとアガタだよ。合ってるよ、多分。アガタアガタ…。アガタだよね?
原作2部ではドルフのことは「ドルフさん」と呼んでこの時イブキさんのことは「イブキ」って呼び捨てなの10歳年下でシシ組組員としても後輩で幹部の一員でもないくせにずっと生意気だなって引っかかってたのにアガタじゃなかったら酷い冤罪になっちゃうごめんアガタ。
もちろん登場したてでキャラ設定がブレてるだけなんだろうけど1部から2部までの約半年でシシ組を支える幹部の1匹になったんだな、すごいね成長したねかっこいいよアガタとしみじみしてたわ。
まあ、前話冒頭でわざわざ名前と年齢の紹介あるし、顔にぶちのある濃い毛色のライオンはレゴシがハルちゃん奪還時にシシ組襲撃した際も退部届を出しに学園に行ったルイを出迎えるライオンの中にもいないし、ルイに食肉させる余興の席には1匹だけいるからこれはアガタだろうし他にいなさそうだからおそらくアガタでしょう。この生意気小僧はアガタです。
すでにルイをボスと認めているイブキさんは「彼の覚悟は相当だ」と逃げずに戻ってくると信じているがアガタは「シシ組が安定したら用済みだ」「最期はどう料理してやる?ハハハ」と笑う。
その言葉を聞いて「“ガキ”じゃねぇ “ボス”と呼べ」「ボスを一口でも食ってみろ 翌日組織のディナーになるのはお前だぞ」とアガタを壁に押しやり凄むイブキさん。ぐぅ。
ルイの手を抜かず仕事をこなしシシ組と裏市を導く姿も、痩せ細りながらも弱さを見せずどんと構える強さも、栄養ドリンクだけで命を繋ぐ執念も見てるからルイの強さにただ乗っかってるだけのヘラヘラと馬鹿にするアガタが許せず教育的指導したの熱い。
きっとイブキさんはこの時ボスに忠誠を誓ったんだろうな。
そしてこの時怒られて裏組織の組員でありながら学生ノリみたいだったアガタが組員としての自覚が芽生え原作2部のあの頼り甲斐のある男前なアガタに変わるきっかけになったんだろうなと思ってる。

余談だけどアニメだとこのシーン、アガタじゃなくてフリーなんでしょ?
アニメ見てないけどこの構図でフリーにイブキさんが凄んでる画像は見たことある。
わかるわかるよ。原作2部ではアガタもメインで活躍するけど1部の段階ではまだモブの位置だったから声優さん決まってなかったのもルイとイブキさんが話してた部屋に入ってきたフリーがそのまま部屋にいてイブキさんと話すのが自然なのも声優さんが決まってキャラ立ちしてるフリーにその役目を任せるのもわかるわかるよいろんな事情があるよね一言一句完全にアニメで原作再現は難しいよねわかるわかるよでも違うんだよ。
これはシシ組最年少かつ表社会でちょっと悪やっててその流れでなんとなく裏市のシシ組に入ってしまった若くて未熟なアガタだから許される甘い考えとセリフなんだよ。
フリーは言わない。
もし腹の中でこのまま利用していつか食ってやろうと考えていたとしても言わない。
いいや、フリーはそもそも考えない。
なぜならフリーはマタ中(マタタビ中毒)のヘラヘラチャラチャラTHEチンピラの軽い男を装ってるけど実は常識があって察しがよくて周りをよく見てるし考え過ぎなところがあるけど根が真面目で仲間思いだから。
イブキさんがお節介おじさんなだけできっと同じくルイの真剣さや体調の変化に気づいて敬意を持ってるはず。
敬意は知らんがルイをボスと認めて気に入ってるはず。
なぜならフリーはそういう男だから。好き。
だからアニメ制作の事情はわかるがフリーはこんなこと言わないし何より「用済みになったガキはいつか食う」なんて言うフリーにイブキさんはボスと自分の命は絶対に任せない。

余談だけどフリーの名前の由来って自由(free)ですごくいい名前だなって思ってた。
フリーの生い立ちは不明だから妄想だけど、原作2部で昔の裏市なら小銭を落としたらすぐさま盗られていたと説明してた時「フリー 5才」とあったからアガタのように表社会から自分の意思で流れてきたわけではなくイブキさんと同じく裏市育ちだと思う。
イブキさんのようになんらかの要因があって裏市に放り込まれたのか、親の記憶がないくらい幼い時から裏市で育ったのか。
なんとなく後者な気がする。原作の中でどこかに明確な言及あったかな?
ルイが新生シシ組のボスの今なら裏市も和やかで思いやりのある場になったから5歳の子どもがいても不思議はないけど、食肉の中でもタブー視されるような生き餌タワーや威怪薬や大型肉食獣のレゴシが毛皮を剥がされそうになった肉食獣ですら危険を伴う無法地帯の昔の裏市に子どもを連れてくるのはおかしいと思う。
育てられない親が裏市に捨てたのか、イブキさんと同じく売られたのか、親が亡くなって引き取れない誰かが裏市に捨てたのか、経緯はわからないけれどフリーも幼い時から死ぬ気で生きてきたんだろうな。
ぶっきらぼうだけど面倒見のいい親代わりのおっちゃんに拾われて育ったとかだといいな。
個人的には威怪薬の店から逃げ出してきたイブキさんと裏市で育ったフリーが組んで裏一で有名な悪タレバディみたいに生きてきてくれたとかだと一番安心で心強いけど、10巻巻末のイブキさんの紹介で威怪薬の店から「逃げてきて、そこからは1匹で裏市で生きてきた」とあるから叶わぬ夢なんすよね…。
11巻でイブキさんが18歳の時シシ組前ボスと話してる回想の時、殺した他組織の組員の返り血を浴びてるイブキさんの後ろにフリーがいて、この時イブキさんが18〜23、フリーは13〜18くらいだとしてもすでにフリーの顔に三本線の傷跡があるからかなり壮絶だったのは確かだろうな。
まあ、イブキさんもフリーも生い立ちが多く語られてない分意外とハッピーに生きてきたって勝手に補完すればいいんだけど、1を100に悪い方に考えてしまう思考なのでどこまでも過酷な生い立ちをしてきたんだろうと思いを馳せては泣いてる。
イブキさんもフリーも他のキャラもできるだけ不幸であってほしくはないのに。

そんでな、余談の中の余談でどこまでも長く語れるけど2匹の過去の妄想は一旦置いといて、
フリーの名前、自由(free)って似合っていてすごくいい名前だなって思ってた。
でも逃亡(flee)や蚤(flea)もフリーなんだよね。
裏市で物を盗んで逃げるからフリーと呼ばれてたり、fleaには蚤だけでなく鬱陶しい奴という意味もあるから疎まれてフリーと呼ばれて定着した名だったらどうしよう。
悲しすぎる。比喩じゃなく泣いたし今も悲しくて泣いてる。
他の意味で定着した名を「自由」って意味だってことにしてたら…
なんて外国のファンの方たちが「free」表記にしてるから公式で自由(free)なんだろうし悪い方に考えるのは無駄だしフリーに失礼なのにその考えが浮かんでからはざわついてる。
BEASTARSのキャラクターはみんなそれぞれ魅力的で大切で特別で愛してるから順位とかつけられないけど、フリーは誰よりも幸せを祈ってる。
みんな幸せで穏やかでいてほしいけれどフリーはとても特別なので。

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