見出し画像

「Engineの揺籃」編集後記

 先日投稿した動画「Engineの揺籃」について、多くの方にご覧いただいております。
 ありがとうございます。

まずは反省から

 動画冒頭でニューコメンとワットを取り上げましたが、この2人はコーンウォールの出身ではありません(ニューコメンはデヴォン、ワットはスコットランドのグリーノック出身)。後から見返して、このことの注釈が不十分だったかと思っております。
 まずは従来の蒸気機関を説明する必要があるかと思い、ニューコメンとワットを紹介しました。しかし、この2人もコーンウォール出身であるかのような誤解を生んだとすれば、それは私の責任です。申し訳ありませんでした。 

コメントありがとうございました!

 ニコニコ動画でいただいたコメントで、

復元されたトレビシックの蒸気自動車の走行映像がyoutubeに上がってるね。

との情報をいただきました。ありがとうございました。
 というわけで早速YouTubeで探してみることに。
 どこまで正確な考証がされているのかは分かりませんでしたが、それらしい動画を見つけました。

 2017年のTrevithick day にCamborneで撮影されたみたいです。といか現地ではそんなお祭りがあるんだ……

地味に大変だったこと

 動画内では軽く流しましたが、double-beat valve(両座弁)の正体を確かめるのに一番苦労しました。
 この問題を追いかけたきっかけは、R.C.アレン著 ”The British Industrial Revolution in Global Perspective(邦題:世界史のなかの産業革命 : 資源・人的資本・グローバル経済)"の以下の記述です。

The fourth key innovation was the ‘double beat drop valve’ that allowed the precise control of steam during expansion so that maximal energy could be converted to mechanical power.
Arthur Woolf developed the drop valve,(後略)

Allen, Robert C.. The British Industrial Revolution in Global Perspective (New Approaches to Economic and Social History) (p.169). Cambridge University Press. Kindle 版.

 アーサー・ウルフが関わっていて、しかも重要な技術革新らしいぞ?ということで調査開始。まずはネットで検索したところ、Wikipedia英語版で「double-beat valve」の記事がヒット(= double beat drop valve って解釈して良いですよね……?)。しかしこの記事ではアーサー・ウルフに触れられいない一方、ホーンブロワが登場して謎は深まるばかり。

 そもそもdouble-beat valveとは何なのか。これについてはWikipediaで出典に挙げられていたWilliam Ernest Dalby著 "Valves and Valve Gear Mechanisms" を取り寄せて確認できました。動画内の説明も、この本を元に構成しています。
 では、アーサー・ウルフはどこから出てきたのか? とりあえずアーサー・ウルフ関係の論文を探したところ、Rhys Jenkinsの論文 "A Cornish Engineer: Arthur Woolf, 1766-1837" にこんな記述が。

Later on Woolf adopted and improved the double-beat valve, invented by one of the Hornblowers,(後略)

Rhys Jenkins(1932)A Cornish Engineer: Arthur Woolf, 1766-1837, Transactions of the Newcomen Society, 13:1, 55-73, https://doi.org/10.1179/tns.1932.004(2023.3.10入手)

 これを読んで、
・原型を作ったのはホーンブロワ
・それを改良したのがウルフ
と理解した次第です。

 これだけ試行錯誤した割には、動画本編でdouble-beat valveは台詞なしで画像と文章だけでの説明になっています。動画を作る段になって、ちょうど良く差し込める場所が見つからなかったので……
 まあその過程見つけた上記論文 "A Cornish Engineer: Arthur Woolf, 1766-1837" は動画本編の制作に役立ったので、良いのかなと。

 さらに余談を。
 先に挙げた日本語版『世界史のなかの産業革命』では「double beat drop valve」を「両座弁」と訳しています。ところがこの単語、ネットで検索しても日本語文献が(たぶん)見つかりません。
 私が今回参照した書籍の中では、谷下市松著『蒸気工学 : ボイラおよび蒸気原動機』に「両座弁」の記載があり、本文中の説明も double-beat valve のそれなのですが、紹介されている英訳は「double-seat valve」です。
 弁(バルブ)の専門書なら、もっと日本語文献があるのかな……

画像について

 動画内で使用した画像について、出典を記載していない絵は私が描いたものです。
 昔の動画用に描いたものからも引っ張ってきたので、色の塗り方が
・クーピー
・ネオピコ
・gimp
が入り混じってカオスなことに。ちなみに線画は万年筆で描いていることが多いです。

ニューコメン機関の説明図 クーピー+万年筆
爆発するボイラーのイメージ ネオピコ+万年筆
ホーンブロワ機関のイメージ gimp+万年筆
両座弁のイメージ gimpのみ

※2023/7/6追記:「色鉛筆」としていたのは、正確にはクーピーでした。訂正いたします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?