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わたしたちはまた傘がない

年末に忘年会。
もう何を話したかよく覚えていない。
いないけど、今度こそ、三度目の正直、割り勘で。

大晦日はお互い自宅で紅白を観ながらLINEでお話。
年越しと同時に彼から「今年もよろしくね」。


“忘年会したんだから新年会もしなくちゃね”と、仕事初めから少し経ったある日の夜、以前呼び出したバーに、今度は二人揃って顔を出した。

カウンターで少しだけ呑んでお店を後にし、近くの居酒屋さんへ。
やっぱり食べて、呑んで、楽しくて。
いっぱい笑って、そろそろ帰りましょ、の時間。

知り合って9ヶ月。
相変わらず森山は何もしてこない。
誘うこともない、ただ楽しそうに、興味深そうに、わたしの、身振り手振りの話に耳を傾ける。

お店を後にして駅までの道を並んで歩く。
終電が近い。 
交差点の信号が青に変わり、周りが動き出すのに合わせて彼も歩くけどわたしは立ち止まったままだった。
 
「どうしたの?」
彼が止まる。
わたしが言う。森山のアウターの裾を摘む。
「もう少し、一緒にいたい」
彼は少し照れくさそうに笑って言った。
「…はい。一緒にいましょう」


最初の時と同じ、外は大粒の雨が降っていた。
わたしたちはまた、傘がなかった。


ホテルの個室に入りソファに腰掛けた。
一緒に湯船に浸かり、洗いっこして、何度も抱き合ってキスをして大きなベッドで眠りについた。
森山が、ドすっぴんで半分寝ているわたしの髪を撫でたり頬をつついたりしながら「かわいい、かわいい」と繰り返していたのを覚えている。


なにが可愛いのか全然わからん。
わからんが、悪い気も全然しない。


朝になり、目が覚める。
コーヒーを飲みながら一服していると森山も目を覚ました。

「おはよう」
「おはようございます」
「帰ろうか」
「帰りましょう」

ホテルを出ると雨はまだ降っていた。
森山が、いつものリュックから折りたたみ傘を出す。

「なんで昨日出さなかったの」
「忘れてた。びっくりして(←一緒にいたいと言われたことに驚いて傘の存在が頭から飛んだそう)」
「そか」
「うん」


「うん…てか…ふふ、ふふふ、ふっへwww」
「あーもう笑わないで!!勃たなかったの笑わないでー!!もう!肝心なときにおれは!まったく!」


森山自身、お酒を飲むと勃たなくなることをこの日初めて知ったし、わたしも初めて知った。


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