タイトル未定 五拾九

ここが特A地域らしい。さっき通って来た都会の部分が表ならココは裏。まばらな建物の灯り、遠くの方には団地のような建物も見える。空と同じ黒色の御神刀に目をやる。キーンと冷たいそよ風に倣ってカチャカチャと揺れている。さし直し押してイツムネさんをチラと見る。

「着いたね。」といつもの口調。腰の巾着を開き依代の枚数を見ているのだろうか。巾着は程よく膨らんでいる。それほどなのだろうか、と少し考える。

「…?これが気になるのかい?よし、じゃあ手始めに呼んで見るとしよう。」

まだ何も言ってない、と言いそうになるもグッと我慢。何故って、もう依代を取り出して準備し始めているからだ。早いなぁ。

(見物じゃのう。)

肘ついて寝ながら言わないでください。

歩きながらも巾着をまさぐり、イツムネさんは1枚依代を取る。

「さっきも見せたけど、これが依代だ。私が使うのは朱墨で字を書いたコレと、人形の2つ。依代と経の組み合わせは多種多様でけっこう体力がいるんだ。」

手には朱墨入りの依代を人差し指と中指に挟んで持っている。立ち止まり、依代を目線の高さで構え、イツムネさんは息を少し吸い込む。

「大切なのは、心を平に保つこと…」

と、目を閉じ静かに息を吸い込む。ほんの少しだけ口を動かしたかと思うとイツムネさんは目を開く。そよ風は吹いている。その比ではないくらいに依代は文字通り「生きているかのように」ビラビラ靡いている。この超常現象を何の抵抗もなく見ている、魅入られている。

「出ておいで。」

指の間を開くと、依代はバッと朱墨の面を上にして地面に張り付く。秒もしないうちに依代は炎をあげながら何かの形を形成していく。

(妾の炎と似ておるのう。質こそ違うがのう。)

周囲を明るく照らすほどの炎をあげた依代は白く細長いモノに変わった。呼び出しに成功したの、だろうか。艶々としたウロコに覆われているモノは長さにして2mほどだろうか。

「こ、これは…?へ…へ」

「そう。蛇だよ。千狐君にはクチナワと言ったほうが理解が早いかもしれないね。私が呼ぶモノの中で最もポピュラーなものだよ。」

ギョロギョロした赤目。フシュー…という呼吸音…。

「大丈夫、千狐君には手を出さないよ。呼べるモノに関しては私が全て手懐けているからね。」

クチナワを撫でるイツムネさん。気持ちよさそうにしているのを察するに、懐いているらしい。

(クチナワとはのう!久しいのう。遊び相手にしておったわい…!)

(人のモノですからね、ダメですよ。)

「さて、この子にも周辺の探索を頼む事にしよう。よろしく頼んだ。」

クチナワの頭をポンポンっとすると頷き、音もなくシュルシュルと動き出しあっという間に闇の中に消えていった。それを2人で見送る。

「さっ、これが私の力だ。千狐君の炎と違って直接作用するのではなく…まぁ、あちらとこちらの世の橋渡しの為の炎だ。燃やすのに使えなくもないが、千狐君のような業火とまではいかないみたいだ。」

「いえ…とても素晴らしいと思います。陰陽師というか…こう、漫画とかでしか見てない事を現実で見ると改めて目からウロコというか…」

「そうかそうか。さて、クチナワも探索に向かわせた事だし私達も後に続こうか。」

「はい」とイツムネさんに倣って歩き出した。

#小説



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