タイトル未定 六拾四

「今の音はなんだ…!」

公園で例の戦闘が始まって数分。ミュウちゃんと任務にあたっていた青年は爆発音とも分からない音と共に空が青白く光るのを目撃した。距離にしてそう遠くはないだけに彼の心を警戒心が満たしていく。何があったったんだ、と。

「明らかにヤツらのパターンじゃないよねー。」

「ああ。あんな爆発的エネルギーを持ったやつはこちら側にもあちら側にもいないと思うが…。」

(俺以外のやつらもこの地域に来ているはず。しかし……。可能性があるとすれば彼か。彼の内に眠るあの狐が目を覚まし…暴走?突飛だが…。)

「とにかく行ってみないー?行動規則第何条とやらでどちみち確認しなきゃなんでしょ~?」

真剣に物思いにふける青年には遠く聞こえてしまい、話しかけられた内容を頭を中で整理する。それから上の空ぎみに「ああ」とだけ返事を返す。その横でミュウちゃんはしっかりとその色白な手に銃を握っていた。抜けている、というか何も考えてなさそうな人ほどちゃんとしているのは何かの不思議の1つに数えられるのかもしれない。

こう思考を巡らせている合間にもドーン…ドーン…と鈍い音が遠くから聞こえる。聴きなれないそれに頭は「異常」と即座に認知するものの体がそこに行くことに「待った」をかける矛盾のスイッチ。こういうものなのだろうか。

「…行こう。とりあえず。俺達以外の誰かが何かに巻き込まれたのかもしれない。それが一般人なら尚更だ。」

スッと携帯の画面を見るも、不在着信の通知などはなかった。何かあったら俺まで、と言ったのだが。それをする間もないくらいの自体なのかと邪推とも取れることを頭の中で枚挙しては、また思考が停止しかけている。

「そのほうがいいよ~。」

ボガァンと爆発音のような目立った音がした。「ハッ」と2人は少し驚いた表情になり、いても立ってもいられなくなった。

顔を見合わせると無言で2人は駆け出す。ツカツカツカ。靴とアスファルトが当たるリズミカルな音だけがやがて遠くに消えていく。序盤から考えればトントン拍子でここまで来たが…いよいよか。他の人も心配だが、初陣ともとれる彼のことが頭をよぎってしょうがない。あの人のようにしてはならないという強迫観念のような、奥底にある考え。

(無事でいてくれよ…!)

危険な状況で自分は、こうも正義感のある人間だったのか、と青年は駆け足とは裏腹に冷静に自分を分析する。先の強迫観念と噛み合ってるが故なのかもしれないがあって、悪いものではないよなと自虐気味に早くも開き直る。

(たぶん、私たちが見た中でも指に入るくらいのやつだ…!)

こちらも少しは恐れているもののニヤリとしてこの時を楽しもうとしている。年齢は非公開らしく(知ってはいるが実年齢を言おうものならそれはそれは…)年相応とも取れない。首から提げたポーチからマガジンが擦れる音。顔も嬉々としている。

所々舗装の悪いアスファルト(理由は後述)を蹴りながら、曲がり角もイン側のクリッピングポイントを取りながら最も速度の乗る走り方で音のした方向へと進む。だいたいの位置が分かるのは場数を踏んだから。

シャーッと曲がり角を抜けると…やがてそれは見えてきた。おそらく発見までの自己ベスト更新をしたかもしれない。

(うぅおっ…!)(なに…!?)

皮膚の表面を薄く流れる熱い風、何があったのか跡形もなく柵のみを残し壊れた公園、青白い視界、燃える3つの物?、1人の…女性…?

これだけの情報を目から得るのでやっとだった。燃えるような熱風と眩しい視界に思わず目を覆ってしまったからだ。

そして。

熱の収まりを何となく感じ取れたので恐る恐る目を開くと、はたして燃える山を前に鋭い目を光らせた彼(狐)がいた。どうやらイツムネも無事らしく、先ずはその事実にこころから安堵する。

「「ふむ。なかなか骨のあるヤツじゃったのう。ひさびさに良い働きをしたわい。」」

過程を見ていなくても十分に分かった。圧倒的なまでの何かのチカラ。無傷ではにかむ彼(狐)に驚きを隠せなかった。(もう一方は横でガッツポーズしてた)

色々と考えや状況を視界から回収してやっと気が元に戻ってきたその時。

「くっ…臭いな…。」

青白く燃える山からは腐った肉のような、重く鼻をつく臭いが漂ってきた。バチブチと小さく爆ぜながらごうごうと燃えている。

とりあえず2人の元へ行こう。

2人は小走りで向かった。

#小説








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